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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode39「これが本当の御伽噺」
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㊴-2 一つの考え

 アルベルトの語った、遠く遠い物語。


 二人にとって、遠い前世での出会い、別れ——。

 全てを運命だと名付けるには、余りにも耐えがたい年月が経っていたことを知った。


「アルベルトとレンは、再会することを約束していたのね……」


 マリアにとっては、その言葉で精一杯だった。


 ティナは、目を閉じたまま話を聞いていた。ゆっくりと目を開けると、マリアへ向き直った。


「レスティン・フェレスの古い伝承で、狼が大泣きし、長い雨期を生んだと伝わっていました。その物語は人から人への伝達の末、狐から狼へ変わってしまいました」


 ティナの言葉を噛み締めるように、レオンは頷いた。


「それはレンが緋竜の死を知り、泣いたために起こった天変地異だそうです」

「……懐かしいですね。レオンの言った逸話では、約束のお祭りが登場するのですよ。セシュール国では、国を挙げてのお祭りなので、きっと今でも続いていることでしょう」


 ティナは微笑んだ。ベビーシッターとして作られた彼女にとって、眠る子供へ聞かせた話なのかもしれない。

 過酷な末路を辿った彼女にも、幸せだった想い出があるのだ。


「皇子であるアルブレヒト様にも、よく話したのですよ」

「……そういえば、よくその話をティニアにさせていたな」

「懐かしいですね……」

「俺の生まれた帝国と、セシュール国は仲が悪かった。あの時のレンは、セシュール国の守護獣で、レン・ケーニヒスベルクと呼ばれていた。一応俺も、その存在は知っていたんだ」

「でも、直ぐに再会できたんでしょう?」


 マリアは期待を胸に、そう発言した。

 アルベルトは俯き、静かに聞いていたレオンの表情が陰りを見せた。


「二人が再会したのは、私が爆散し、アルが暴走した後です」

「……どうして? やっと生まれ変わったんでしょ?」

「レンは、人間として暮らすアルの邪魔をしたくなかったそうです」


 アルベルトは、哀しそうに笑みを浮かべた。


「……待っていたレンに俺がしたことは、竜になって暴走して、レンを焼くことだった」

「アルベルト……」

「暴走した俺を止められるのは、レンだけだった。……あいつは、長い間で蓄えた力のほとんどを使い切って俺を止めた。酷いやけどを負っていたが、自分の傷を治すことは出来なかったんだ」


 アルベルトは、ボーデン湖の底を見上げた。

 遠い世界での再会は、感動的な再会とはいかなかった。


 レンは友を止めようと、必死だったのだろう。

 彼女は昔から優しすぎたのだ。


「俺の都合でレスティン・フェレスへ連れて行って、あいつを孤独にさせた。悪いのは俺だ。長くなったが、昔話はここまでにしよう。……ゲートについて、奴ら何か言っていなかったか?」

「地球から黒龍(こくりゅう)に直接会いに行くための手段……。そう聞いていますが、それだけでは無いように感じます」

「——ちょっと待って」


 マリアは心の奥底から、吐き気を覚えた。

 得体の知れない、気味の悪い悪寒が走った。


「……こ、黒龍ってなんなの? 竜なんだし、アルベルトの仲間なんでしょ?」

「いや……。俺は知らない。……黒龍について、レンは何か言っていたか?」


 アドニスは首を横に振った。

 マリアは呼吸の仕方を忘れ、息苦しさを感じた。

 心臓の鼓動が、やけに早い。


「分かりません。彼らにとっては神であることしか……」

「……まだ分からないこともあるのね。レンは今、ティニアに掛かっていたウイルスに侵されている。そしてそのウイルスは、竜を殺せという命令を出している。更にレンには、アルブレヒトを傀儡にしろという命令も下っていて……。彼女は二重で苦しんでいたのね」

「ええ。やっと理解出来ましたか?」


 アドニスはモノクルを外した。

 アドニスの瞳は、ただの青い瞳ではない。

 煌めくように青く澄んでいた。


 どこかで見た瞳であると、マリアは感じた。


 マリアは、アルベルトの話を思い返した。

 レンがどれだけ苦しんでいたのか、痛いほど理解出来た。

 ラウルも、アドニスも。レンのために出来ることは限られていたのだろう。


 暴走を止めたと言えば、昔のドイツで狂わされていたラウルを止めたのも、レンだった。

 不意にマリアの脳裏には、とある考えが浮かんだ。


「……レンはウイルスではなく、狂わされているだけ。という可能性は?」


 マリアの言葉に反応したのは、アルベルトだけではなかった。


「地球にやって来たラウルは、ヴェルローラによって狂わされ、操られていたのよね? そしてレンはボロボロになりながら、それを止めたって聞いてるわ」

「ええ、その通りです」


 モノクルを掛け直すと、アドニスはマリアを怪訝そうに見つめた。


「今のレンは、止めるだけの力が足りないだけ……ってことはない?」

「……レン様は何も言ってませんでした。そんなことは……、ありえません」

「そうなのかな……」


 (何か、何か方法があるはずよ……‼)


 考えを巡らせる中、マリアの脳裏に浮かんだのは眼帯をした男、ラウルだった。

 ラウルは何故、レンに拳銃を渡したのだろうか。


 その方がより自然に、彼女の注意を背けられたからだろうか。

 ティニア化したレンは、アルベルトをアルブレヒトに似ているという認識を持っていた。

 あの場面で、レンがアルベルトを撃つとは思わなかったのだろうか。

 ラウルは、本当にアルベルトを殺したかったのだろうか。


 ラウルはレンを慕っている。嫉妬とはいえ、アルベルトとラウルは友人関係だ。共に地球へ向かう船に乗った仲間を殺そうとするだろうか。

 あの殺意に見覚えはあった。それでも、どこか不自然さを感じるのだ。


 そもそも、ラウルは敵なのだろうか——。

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