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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode39「これが本当の御伽噺」
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㊴-1 それが、彼らの冒険譚

 アルベルトの口元は緩んでいた。マリアは、彼が久々に笑う姿を見た気がした。

 全ての記憶が戻っているのかは、本人にしか分からないだろう。


 セシュールの里を、柔らかな風が通り過ぎた。

 里を守る結界が空調として流しているのだろう。その結界は、レンの魔法で出来ている。


 風は、アルベルトにとって懐かしいものだった。

 風は、レンそのものを指すものだからだ。

 風が記憶の欠片を救い上げるように、想い出は溢れていった。

 やがてそれらは渦を描き、遠い遠い昔へと遡っていった。


 ——これは、最後の竜と一匹の狐から始まった、御伽噺である。


 ◇◇◇


 レスティン・フェレスは、大きな竜や獣と、人の住まう大きな星だった。

 大きな竜や獣を恐れた人々は戦争を始めた。毒によって星は割れ、死地と化した。


 毒を食らいながらも、竜や獣によって守られた小さな大陸は結界を張り、独立した星となった。

 しかし、それから何千年も経つと、幼い緋竜を残し、竜は滅びの道を辿った。

 獣は小さくなり、動物と変わらぬ姿となった。


 小さな緋竜は、遠くを見ることの出来る湖をぼんやりとみる日々を送っていた。

 ——その湖を、湖鏡(みずうみかがみ)と呼んだ。かつて存在していた水竜の力が宿った、湖だ。


 緋竜は湖鏡を通じて、地球で生きていた一匹の狐を見た。

 狐は珍しいアルビノをしており、生まれ変わってはすぐに死んでいった。


 緋竜は、友人のグリフォンという獣と共に、影を湖鏡へと送った。

 二人の影は湖鏡を越え、遥か遠く離れた地球へと降り立った。


 影たちはアルビノの狐を探した。初めて出会った狐は、竜の姿に驚いた。

 出会ってすぐ、三人はかけがえのない友となった。


 これまでの狐は短命だったため、緋竜は加護を与えたかった。

 緋竜は影だった。影では、満足のいく加護を与えることは出来ない。

 緋竜は地球へ向かおうと、準備を始めた。


 その間も、緋竜とグリフォンの影、そして狐は地球を駆け巡った。

 それでも、幸せで楽しい日々は、長く続かなかった。


 狐が、背中に十字架模様を背負っていたからだ。

 人間たちは、狐を神への捧げものにするために、捕縛しようとしたのだ。

 だが、狐や緋竜、そしてグリフォンは知恵を出し合うと、人間たちを撃退した。


 その日々が長く続けば続くほど、狐は疲弊していった。


 ある時、ついに狐が捕縛されてしまった。


 散々手を焼かれた人間たちは、直ぐに狐を殺そうとした。

 狐が死んでも、剥製として神に捧げられるからだ。


 緋竜は影ではなく、地球へ降り立とうと決意した。


 ——古の技術、ゲート。

 ゲートとは、遠い星々と繋ぐ魔法科学技術であった。

 緋竜は、壊れていたレスティン・フェレスのゲートを修復すると、地球へと渡った。


 炎を吐き、人間たちを簡単に追い返した。

 狐は、緋竜に感謝した。

 緋竜は狐と共に、これからも生きていきたいと考えた。


 その後も地球で、緋竜と狐、そしてグリフォンの影は冒険を続けた。


 ところが、緋竜は最大の過ちを犯していた。

 ゲートを閉じていなかったのだ。


 ゲートを通じ、レスティン・フェレスと地球では往来が可能となっていた。


 レスティン・フェレスへは、タウ族の祖先たちが。

 地球へは、レスティン・フェレスの幻獣たちが、それぞれゲートを潜ってしまった。


 慌てた緋竜はゲートを封じ、レスティン・フェレスへ帰ろうとした。

 緋竜は、狐をレスティン・フェレスへと誘った。


 狐は三度の返事で、レスティン・フェレスへ渡る意思を示した。


 緋竜は、もう二度とゲートを使えないように、水中深く沈めた。

 そして、狐と共にレスティン・フェレスへと渡った。

 レスティン・フェレスへやってくると、緋竜はゲートを破壊した。


 永遠に帰ることの出来なくなった、タウ族たちと幻獣たちを残して——。


 ◇◇◇


 地球へ帰れなくなったタウ族たちの祖先は、レスティン・フェレスの大陸で暮らし始めた。

 彼らは、大陸の北と西へと別れていった。


 西へ渡った者たちは、現地の者たちと力を合わせ、セシュール国を。

 北へ渡った者たちは、独自の文化を発展させ、アンザイン国をそれぞれ建国した。


 レスティン・フェレスへやって来た狐は、緋竜の加護を得たものの、およそ100年で死んでしまった。


 狐は生まれ変わり、緋竜へ会いに行くことを約束していた。

 緋竜は、狐の生まれ変わる日を今か今かと待っていた。


 だが緋竜は、毒から大陸を守るために、最後の力を使った。

 力を使い切った緋竜は石となり、大陸の中央にある崖山の中で、長い長い眠りについた。

 こうして、レスティン・フェレスの竜は絶滅した。


 それから数年。

 セシュール国では、アルビノの狐が生まれていた。

 ラダ族の守護獣である狐は、ラダ族とタウ族にとっては神も同然だった。


 狐は物心つくと、すぐに緋竜を探した。

 しかし、狐が知ったのは、緋竜の石像だった。


 狐は、長い間泣き続け、天変地異を引き起こした。


 ◇◇◇


 それから長い長い時を経て、緋竜は生まれ変わった。

 ルギリア帝国の、皇子として。


 狐は待っていた。セシュール国で、ずっとずっと——。

 約束を信じて、奇跡を願う日々を送っていたのだ。


 ◇◇◇


 柔らかな風が、アルベルトの髪を揺らした。

 御伽噺は、そこで終わったわけではない。


 ずっとずっと、続いている物語だ。


 アルベルトは、ヴァルクの執筆した『レスティン・フェレスの狐は、どうして一匹なのか』の内容を思い返していた。

 ヴァルクが知っているということは、誰かが伝えていたということだ。


 レンは記憶を上書きされ、ほとんど覚えていないだろう。

 ヴァルクは、レンの消え去っていく想い出を本にしたのかもしれない。


 アルベルトは、遠ざかっていく風を静かに見送った。

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