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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode38「私の知らないあなた」
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㊳-3 深まる謎①

 懐中時計を握りしめたまま、アルベルトはじっと何かを考えているようだった。

 考え込んでいたのは、マリアも同じであった。


 二人は、フリージアたちを部屋に残し、部屋を出た。そして、そのまま外へ抜けると、セシュールの里の広場へ向かった。


 アドニスは待っていたかのように、広場の外れにある木陰で立っていた。

 木の幹は腐っているのか、所々に苔が生えていた。


「起きましたか。随分と悠長ですね」

「悪かったな」

「……アドニスさん、聞きたいことがあるの」


 相変わらず悪態をつくアドニスは、マリアの問いかけを予想していたかのようだった。


「マリアに話をさせるとは。君が聞きたいのではないのですか?」

「失礼ね。私も聞きたいから、ここに来たのよ」

「……教えてくれ。ティニアは俺と出会った頃、酷く怯えていた。その理由を教えてくれ」

「ほう。彼女を今でもティニアと呼ぶのですか」

「……俺にとって、あいつはティニアだ。まだレンだと名乗られた訳じゃない」


 アドニスは遠い目をしていた。

 何か見透かされているような気がしたが、アルベルトが怯むことは無かった。


「ふう。仕方ないですね。ええ、知っていますよ。知っていますが」


 アドニスは手を上げると、すぐに後方からティナとレオンがやってくる。レオンはまだ足を引きずっており、ティナに支えられている。


「君たちが来る前に、二人と話をしていたのですよ」

「二人?」


 マリアがそう問いかけた時、木の陰に立っていたティナとレオンに気付いた。

 二人とも、最初からそこに居たのだろう。木の陰で見えていなかったようだ。

 焦りから、周りが見えなくなってしまっているのかもしれない。


「……ティニアであった私に、ウイルスが仕込まれた話はしましたね」

「ええ。逃れられない病であると」


 そのウイルスという未知の存在が何であるのか。マリアにとって、病気とは無縁だった。

 人造人間だったからだろうか。

 ただ、心の病に罹ったことがあることを、一瞬だけ思い返した。


 アルベルトは口元を噛んだ。


「……ウイルスは、俺を殺せという命令を下していた、と言ったな」

「はい。それは勅命でした」


 ティナはアルベルトをまっすぐに見据えた。


「大きな警告音と共に、我は皇帝、ゲオルギウス。汝は黒龍を信仰し、竜の化身アルブレヒトを殺せ。そう、頭の中で繰り返されていました」

「当時の皇帝はゲオルギウスではない。ゲオルギウスはゲオルクを指します。実質、僕の命令でそれは行われていました」

「……待って」


 マリアは話を止めた。

 とてつもなく、今までに感じたことのないような嫌な予感がした。


「その……、黒龍って何なの? 初耳なのだけれど……」


 何故だろうか。マリアの心は、何かに掴まれたように騒めいた。泥沼に落ちていくような感覚に、マリアは身震いした。

 分からないことは、焦りと不安しか生まないというのに——。


「教えてよ。何か知っているんでしょ?」


 レオンは頷いた。


「……黒龍は、レスティン・フェレスに存在していると言われている龍のようなものです。黒龍を崇拝する組織をアンチ・ニミアゼルと呼び、彼らは反守護竜を掲げていました」

「ニミアゼル? 反守護竜?」

「ニミアゼルというのは、レスティン・フェレスにおける女神の名です」


 ティナの言葉に、アルベルトが頷いた。


「守護竜ってのは、俺の前世のことだ」

「緋竜ってこと?」

「ああ」


 即答したアルベルトの様子から、記憶は相当戻っているように感じられた。

 レオンはティナの手を借りながら、一歩前へ出た。


「アルが皇子アルブレヒト、ティナがティニアだった時代で、戦争が起こりました。帝国と戦っていたのは、自らを機械人形の人権団体と名乗る連中です。——奴らの正体が、アンチ・ニミアゼルです。彼らは、黒龍を崇拝する組織でした」


 レオンに代わり、ティナが口を開いた。


 ——黒龍を崇拝する組織。


 マリアの心の騒めきは、一気に噴出したように暴れ出した。


「ウイルスを仕込む目的で、彼らはゲオルクを使って、私を呼び出しました。……私はそのウイルスに抗えませんでした。その結果、自滅プログラムを実行し、命を絶つしかなかったのです。申し訳ありません、アルブレヒト様……」


 アルベルトは首を横に振った。


「ティナさん、俺はアルベルトです。今、その名で呼ばれても何も応えられない。君の前世には、感謝している」

「ですが……」

「君は頑固だが、俺の御願いは聞いてくれた。そうだよな、ティニア」


 アルベルトがそう言うと、ティナは戸惑ったようだった。


「ティナさん、アルブレヒトっていう名は、もう過去のもの。ティニアは詩阿として生まれ変わり、今はティナとして存在しているだろ?」

「……はい。そうですね、アルベルトさん……」

「俺は、罪に向き合ったつもりだった。でも、俺が地球へ来たせいで、皆を巻き込んでしまった」

「そんな事はない。君が地球へ渡ったのは……」

「はいはい、もう辞めてください。見ていると吐き気がします」

「ちょっとアドニスさん!」


 アドニスは溜息をわざと大きくして見せた。


「私にとっては不愉快極まりない。レン様は今も苦しんでいるのですよ!」


 ウイルス。その言葉は、マリア達に重く圧し掛かった。

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