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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode37「変わらないもの」
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㊲-4 つかの間の休息③

 アルベルトは、見覚えのない筈の天井を見つめていた。


 微睡でみた夢は、彼女を自らの炎で焼く瞬間からだった。

 彼女は苦痛に耐えながら、笑みを浮かべていた。


 自分が彼女を殺さないと信じていたのだろうか。


 記憶もなく、ただ獣のように暴走する自分を、どうして信じられたのだろうか。


「ッ…………」

「アルお兄ちゃん、大丈夫?」


 心配そうに、遠慮がちに尋ねる白銀の少女。彼女に、レンを重ねてしまいそうになった。


「ああ。悪かった。大丈夫だ。フロウは眠れたか?」

「はい」


 フリージアに支えられながら、ゆっくりと起き上がった。

 そこかしこに広がる機械や文字盤の文字は、最初こそ違和感があっただけだった。しかし、今は文字を理解することが出来るだけではなく、置かれた機械が何なのかも分かっていた。


「本当に俺、レスティン・フェレスから来たのか」

「お兄ちゃん……」

「わかるんだ。そこの文字盤に表示されてるのは、俺の心拍数。ほら、早くなったろ。ベッドごとに、全員を管理しているんだ」


 アルベルトは悲しそうに顔をくしゃくしゃにすると、顔を覆った。


「この船は俺が設計したからな」

「…………」

「ははは。この船がケーニヒスベルクって呼ばれていたの、知ってるか?」

「知っています」


 フリージアではないその声に、アルベルトは驚きの声も上げなかった。

 部屋の入り口では、コルネリアが水の入ったコップを二つ持って立っていた。


「お水、お二人に」

「わあ! ありがとうございます、ジジくん」

「ジジはやめてください」

「わかった。コルネリアちゃん」

「もう、ちゃん付けだなんて! フリージアおねえちゃんも意地悪だ」


 頬を膨らませたコルネリアだったが、すぐに水の入ったコップをアルベルトへ差し出した。


「……どうぞ、アルブレヒト様」

「……その呼び名、やめてもらえるか?」

「でも、緋竜様ですから」

「…………」

「あれ、思い出されたのではないのですか?」


 コルネリアは心配そうに顔をのぞき込んだ。


「思い出したというより、ずっと頭にあったことだったように感じている」

「なるほど。そういう感じなんですね」

「水をありがとうな。コルネリア。お前は、……タウ族か?」


 タウ族と呼ばれ、嬉しそうに顔を綻ばせるコルネリアは年相応だ。


「うん!」

「コルネリアの名は、コルネリア・タウ・シュタインだと言ったな?」

「はい!」

「……シュタイン・アム・ラインの町に、シュタイン親分って人がいるんだ。町の名が由来なのだと思っていたが、親分を知っているか?」

「うーん。知らないです。でも、タウ族に多いのは確かです。後はミュラーとか……」

「そうか……」


 その時、ドアが軽い音を立てて開いた。


「あ、起きてる」

「マリア……」

「ご飯よ。ねえ、フリージア。レオン先生は隣の部屋だったかしら?」

「せんせいは、そこのカーテンの後ろです」

「え?」


 気まずそうに、カーテンがゆっくりと開いた。

 そこには、ベッドに腰かけたレオンがいた。


「レオン先生のお水持ってくるの、忘れちゃった。あ、わざとじゃないんです!」


 慌てて謝るコルネリアに、レオンは苦笑いを浮かべる。


「いえいえ。アドニスさんに持っていくなと言われたのではありませんか」

「ち、違うんです! 単に僕が忘れちゃっただけなんです……!」

「……すみません、お三方。ちょっとアルと二人にしてもらえますか」

「でも、ご飯が……」

「すぐに向かいますよ」

「わかったわ」


 マリア達は、台所へと向かった。部屋を出る際、マリアはレオンを見つめたが、特に変わった様子はなかった。怯えていないことから、レオンが何かの決意をしていることだけは分かった。


 アルベルトは隣に座るように促したが、レオンはその場に座り込んだ。


「レオン! 足が痛むのか?」

「違います……」

「…………」

「僕は、とんでもないことをしてきた。君にどうやって謝ればいいか」

「やめてくれ。……その、俺にとってはゲオルクじゃなくて、お前はレオンだから」

「そうか……。君はやはり君のままだ。ありがとう、アルベルト……」


 レオンは笑みを浮かべた。心の底からの笑顔のように見えた。


「……彼女を置いて、レスティン・フェレスを旅立ったことを、どうか悔やまないで欲しい」


 言葉に詰まりながら、レオンは訴えた。それは、言葉にするにはあまりにも重い。


「……話って、そのことだったのか?」


 レオンはアルベルトに支えられながら立ち上がると、その肩を組みながら、その言葉を口にした。


「君はどの程度、僕のことを思い出せている?」

「大学で出会ったこと、様々な議論をしたこと。殆ど思い出せるよ」

「……昔話したことを、覚えているか? 信頼の、その先の話だ」

「……ああ、そのことか。不思議だな。ずっと覚えていなかったのに。……たしか、信頼の先に何を残せるのか、という話だったな」


 レオンの前世、ゲオルクは議論することを好んでいた。

 一つのことを、とことん突き詰めることの楽しさがあると言っていた。

 その中の一つが、信頼のその先の話だ。


「……いつか、レスティン・フェレスへ戻れたら見て欲しい。セシュール国とルゼリア王国との国境沿いの村に、小さな噴水がある。その噴水は、竜の君が、町へ幸せな水を運んでいるのです」

「……レスティン・フェレスへ戻れたらって…………」

「町の名は再会の町。そこで、僕はレンと再会した。そして、詩阿にプロポーズした町なんだ」

「……そうか。必ず行くよ」

「ありがとう。アル」


 二人は固い握手を交わすと、部屋を後にした。

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