↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode37「変わらないもの」
PR
214/232

㊲-3 つかの間の休息②

「で、どうして私を呼んだのですか? 僕が彼らに食事を作るとでも思ったのですか?」

「私はご飯のために、ティナの怪我だけは治してほしいって言ったのよ」


 アドニスはフライパンを片手に、薄くスライスされた玉ねぎを炒めていた。

 フライパンが乗っているのは机のような台で、火は確認できない。

 これも何かの機械で出来ているのかもしれない。


 マリアは不思議そうにアドニスを見ていた。そんなマリアに、野菜を切っていたティナは優しく微笑んだ。


「ちゃんと治して頂きましたし、こうして料理まで手伝ってくださるなんて……」

「…………」

「優しいのですよ、アドニスさんは」

「ど、どうでしょうね! レン様の弟子ではありますが、決して世話好きなわけじゃあないんですけどね」

「魔女の弟子って言ってたっけ?」


 レンがこの場に居れば、得意げになって話してくれただろう。

 今は叶わなくとも、彼女の口から過去の話が聞きたい。

 その気持ちは、今も変わらなかった。


 変わらない気持ち。想い。


 マリアはレンへの違和感が気になってしまった。


「ねえアドニスさん」

「何ですか?」

「レンは、どうしてアルベルトと出会ったとき、あんなに怯えていたの?」


 ガシャン。


 フライパンが台の上へ、乱暴に着地した。

 それだけでなく、包丁でサラダのために野菜を刻んでいたティナの手も、ぴたりと止まっている。


「彼のいない時に、その話をしますか」

「彼ってアルベルトのこと? やっぱり重要なことなのね。そして、二人とも事情を知っていると……」


 アドニスは、知っていることをこの場でだらだらと話し出すと思っていた。だが、アドニスはそれらを語ろうとはしなかった。

 ティナは包丁から手を離すと、目を閉じたまま苦しそうに頭を抱えた。


「ちょっと、ティナ! 大丈夫?」

「……ご、ごめんなさい」

「ふむ。想像以上の恐怖。それが今のレン様を襲っているという事ですか」

「…………」

「こんな悠長に食事を作っている場合ではないのですよ。本当ならね」

「アドニスさん。焦げてるよ」

「おっといけない! 食材を無駄にするところでした!」


 レンの身に起きている恐怖。

 会話から分かるのは、ティニアだった時にあったことなのだろうか。


 包丁を握れなくなったティナを前に、ヴァルクはレタスをすくい取った。


「ティナさん、あとの野菜は手でちぎるよ」

「ごめんなさい……」

「あのさあ」


 ヴァルクはティナの前でレタスをちぎりながら、淡々と語った。


「レンが言ってたよ。ごめんっていうくらいなら、感謝してありがとうを伝えた方が相手のためになるって」

「…………」

「本当に悪いと思ってるなら、ごめんなさいでもいいけど。責任取る取らないじゃないんだろ?」


 ヴァルクは最後のレタスをちぎり終えた。


「ちょっと見ないうちに、ヴァルクは可愛くなくなりましたねえ」

「うるせーよ。じじい」

「じっ…………」

「じじいだろ! 何百年生きてんだよ」

「……え?」


 ヴァルクの言葉の意味が理解できなかった。言葉が正しければ、アドニスは何百年も生きていることになる。


「はっはっは。僕はまだまだ生きる気でいますよ! ははは!」


 フライパンを華麗に回すと、アドニスは大盛りの野菜炒めを皿へと盛った。ベーコンが多めの野菜炒めだ。


「そのジャガイモ、ヴァルクと洗ったのよね」

「ほほう。結構なことです。その調子で料理も教わりなさい。マリアもですよ」

「この爺さん、ジャガイモにだけは五月蠅いんだよ」

「野菜全てに五月蠅いのですよ。食べ物を粗末にするように育てた覚えはありません!」

「よく言うよ。育てたのはレンだからな」


 レンはずっと、彼らを見守っていたのだろう。

 マリアと暮らしながら、夜を迎える度に。


 俯いたマリアを横目に、ヴァルクは食事のほとんどが出来上がっていることに気付いた。


「俺、ジジとフリージアを呼んでくるよ。あとはレオンって先生と、アルベルトさんか……」

「……私も手伝うわ」

「じゃあ俺はフリージアを探してくるよ。まだ外にいるかもしれないしな。……アルベルトさん、眠れたかなあ」


 返事をしようとマリアが入口の方へ目をやると、足の速いヴァルクは既に姿が見えなかった。

 驚いているマリアを前に、アドニスは料理を更に取り分け始めた。


「あの子たちにとっても、一応アルベルトは恩人なのですよ」

「帰還した船に乗っていたから?」

「それだけではありませんよ。彼は竜ですからね」

「……竜かあ…………」

「しかし……。アルベルトは皇子って柄じゃありませんよね」


 そのアドニスの言葉に嚙みついたのはマリアではなく、ティナだった。


「アルブレヒト様を悪く言うのだけは許しません」

「おお、怖い。君の忠誠心は素晴らしいですね、テ(・)ィ(・)ニ(・)ア(・)」

「…………」


 その反応だけで、マリアの心は一杯になってしまった。

 ティナがティニアであったことを、より実感したからだ。


「マリア、そんな顔をしないで。アドニスさんの言うことは事実ですから。今も昔も、私の忠誠はアルブレヒト様にありますから」

「ティナ…………」

「母君であられる、シャルロッテ皇妃様と約束したのです。先立つ自分に代わり、生涯を支えて欲しいと」


 ティナの言葉に、アドニスは言い放った。


「その結果が爆散ですか」

「アドニスさん!」

「四散したとはいえ、コアごと回収されたんでしょう。それがなければ、今頃レン様は……」

「今言うことじゃないでしょ!? はあ。アドニスさんとティナを二人きりにさせたくないけれど、アルベルトを起こしに行ってくるわ」

「私は大丈夫ですよ、マリア」

「……ま、僕としても喧嘩を売る事は致しませんので」

「よく言うわよ……」


 マリアは香ばしい香りのする台所を出ると、アルベルトの部屋へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。