㉟-1 機械仕掛けの船で
マリアにとって、機械とは便利な道具だった。
いつしか最も信頼していたレイス——ティナの前世が機械人形であることを知った。そして、同居していたティニア——レンが、機械人形と人造人間のキメラであると聞かされた。
いつしか機械と人間に壁はあるものの、さほど変わらない存在ではないかと思い始めていた。
——どんな物にも、心が宿る。
そうマリアに教えてくれたのは、幼いころに居たアウローラの所長だ。
彼の名——あだ名が『槍』であることさえ、マリアは最近まで知らなかった。
バラバラに活動していた者同士が、漸く一つになろうとしていた。
しかし、今の状況が歓迎すべき状況であるとは思えない。
マリアにとって、そしてアルベルトにとっての運命が変わろうとしていた。
◇◇◇
マリア、アルベルト、ティナ、レオンの四人はそれぞれ支え合いながら、コルネリアの案内で船と呼ばれる建物の中へと入っていった。
ドアは自動で開閉し、それぞれ何処からか機械の音声が聞こえていた。その音声とコルネリアは会話をしていたが、音声の人物の姿はなかった。
白を基調とした通路を進んでいくと、コルネリアは大きなドアの前で立ち止まった。
「ここが医務室です」
コルネリアが言い終わらぬうちに、ドアが自動で開いた。
医師の姿はないものの、町の診療所よりもずっと広く、幾重にもベッドが用意されていた。
「このカプセルに入ると、自動で怪我を治してくれます」
コルネリアはそういうと、何かのスイッチを押した。
カプセルと呼ばれた装置の透明な蓋が開くと、中には座れるようなスペースがあった。
「座るのが難しければ、寝ることも出来ます」
コルネリアは振り返ったが、ティナもレオンも押し黙ったままであり、装置に入ろうとはしなかった。
「よく分からないものに入るのは難しいですよね……」
「いえ、そうではないのです……」
レオンは言葉を詰まらせた。身体を支えていたアルベルトは表情を変えないまま、レオンを近くの椅子に座らせた。
「ありがとう、アル……」
「いや……。なあ、コルネリア。レオンは医者なんだ。だから、医療設備があるのなら、レオンは自力で治療が出来ると思う」
「あ、そうなんですね。でしたら、こちらに色々ありますので、好きに使って下さい。しゅじゅつすぺーすっていうのもあります」
コルネリアは近くのカーテンを開けた。そこには手術台の他、真新しいような設備があった。船の周囲は廃墟だらけであったが、船の設備はどこも真新しいように感じられた。
「……では、少し設備をお借り致します」
レオンは抑えていた脇腹から手を離した。出血は止まっているように見えるが、服のほとんどが赤く染まるほどの出血だった。
黙って話を聞いていたティナは視線を逸らした。身体を支えているマリアは、すぐにその意味に気付いた。
ティナは人間ではない。
コルネリアに、その装置は人間用ではないのか、とは聞けなかった。
「ティナ……。先生は、ティナのことを知っているの?」
「……はい。そうですよね、ゲオルク」
「…………」
レオンは何も答えなかった。
レオンと接しているティナは、マリアの知る彼女ではないように感じられた。なんとなく面白くない気分だ。
ティナも椅子に腰かけると、マリアから手を離した。
「大丈夫?」
「はい。……アドニスさんの治癒魔法で、止血されていますから」
「昔もそう思ったけど、私が大丈夫か聞いているときは、貴女が心配だから聞いているのよ。動けるかどうかを聞いているんじゃないわ」
「……ごめんなさい」
「謝らないでよ。その、撃ったのは私だし……」
忘れられる出来事などでは無かった。
ヴェルローラの構成員を撃つのと、彼女を誤射してしまったことは違う。
それに、今は他のことも気がかりだ。
ティナは思い詰めたように俯いていた。
「……アルベルトさん」
呆然と立ち尽くしていたアルベルトは、驚いたようにティナへ振り返った。
「はい?」
「その……、お怪我は……。……掠めたと話されていましたので……」
「……俺は何ともないですよ」
アルベルトは短く言葉を切った。
撃ったのはレン。そして、ラウルとの乱闘もあった。
ただ、アルベルトにとって重症なのは怪我ではなく、心の方だろうとマリアは思った。
そんなアルベルトに対し、ティナとレオンは何処かぎこちないように見える。
気のせいだろうか。
「アルベルト。問題ないなら、さっきの広場に戻りましょうよ。アドニスさんが何をするか分からないし」
「……ああ」
「先生。ティナのこと、よろしくお願いします」
レオンは無言で頷いた。
部屋を出ていこうとする二人を見つめていたコルネリアは、ティナとレオンに振り返った。
「では、僕もこの辺で。何かわからなければ、システムに聞いてください」
「分かりました」
システムが何のことなのか、マリアには分からなかった。返事をしたところを見るに、ティナにはわかっているのだろう。
違和感を覚えつつ、マリアは前を歩くアルベルトを見上げた。




