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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode35「哀しき御伽噺」
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203/236

㉟-1 機械仕掛けの船で

 マリアにとって、機械とは便利な道具だった。


 いつしか最も信頼していたレイス——ティナの前世が機械人形であることを知った。そして、同居していたティニア——レンが、機械人形と人造人間のキメラであると聞かされた。


 いつしか機械と人間に壁はあるものの、さほど変わらない存在ではないかと思い始めていた。


 ——どんな物にも、心が宿る。

 そうマリアに教えてくれたのは、幼いころに居たアウローラの所長だ。

 彼の名——あだ名が『槍』であることさえ、マリアは最近まで知らなかった。


 バラバラに活動していた者同士が、漸く一つになろうとしていた。

 しかし、今の状況が歓迎すべき状況であるとは思えない。


 マリアにとって、そしてアルベルトにとっての運命が変わろうとしていた。


 ◇◇◇


 マリア、アルベルト、ティナ、レオンの四人はそれぞれ支え合いながら、コルネリアの案内で船と呼ばれる建物の中へと入っていった。


 

 ドアは自動で開閉し、それぞれ何処からか機械の音声が聞こえていた。その音声とコルネリアは会話をしていたが、音声の人物の姿はなかった。


 白を基調とした通路を進んでいくと、コルネリアは大きなドアの前で立ち止まった。


「ここが医務室です」


 コルネリアが言い終わらぬうちに、ドアが自動で開いた。


 医師の姿はないものの、町の診療所よりもずっと広く、幾重にもベッドが用意されていた。


「このカプセルに入ると、自動で怪我を治してくれます」


 コルネリアはそういうと、何かのスイッチを押した。

 カプセルと呼ばれた装置の透明な蓋が開くと、中には座れるようなスペースがあった。


「座るのが難しければ、寝ることも出来ます」


 コルネリアは振り返ったが、ティナもレオンも押し黙ったままであり、装置に入ろうとはしなかった。


「よく分からないものに入るのは難しいですよね……」

「いえ、そうではないのです……」


 レオンは言葉を詰まらせた。身体を支えていたアルベルトは表情を変えないまま、レオンを近くの椅子に座らせた。


「ありがとう、アル……」

「いや……。なあ、コルネリア。レオンは医者なんだ。だから、医療設備があるのなら、レオンは自力で治療が出来ると思う」

「あ、そうなんですね。でしたら、こちらに色々ありますので、好きに使って下さい。しゅじゅつすぺーすっていうのもあります」


 コルネリアは近くのカーテンを開けた。そこには手術台の他、真新しいような設備があった。船の周囲は廃墟だらけであったが、船の設備はどこも真新しいように感じられた。


「……では、少し設備をお借り致します」


 レオンは抑えていた脇腹から手を離した。出血は止まっているように見えるが、服のほとんどが赤く染まるほどの出血だった。


 黙って話を聞いていたティナは視線を逸らした。身体を支えているマリアは、すぐにその意味に気付いた。

 

 ティナは人間ではない。

 コルネリアに、その装置は人間用ではないのか、とは聞けなかった。


「ティナ……。先生は、ティナのことを知っているの?」

「……はい。そうですよね、ゲオルク」

「…………」


 レオンは何も答えなかった。

 レオンと接しているティナは、マリアの知る彼女ではないように感じられた。なんとなく面白くない気分だ。


 ティナも椅子に腰かけると、マリアから手を離した。


「大丈夫?」

「はい。……アドニスさんの治癒魔法で、止血されていますから」

「昔もそう思ったけど、私が大丈夫か聞いているときは、貴女が心配だから聞いているのよ。動けるかどうかを聞いているんじゃないわ」

「……ごめんなさい」

「謝らないでよ。その、撃ったのは私だし……」


 忘れられる出来事などでは無かった。

 ヴェルローラの構成員を撃つのと、彼女を誤射してしまったことは違う。


 それに、今は他のことも気がかりだ。


 ティナは思い詰めたように俯いていた。


「……アルベルトさん」


 呆然と立ち尽くしていたアルベルトは、驚いたようにティナへ振り返った。


「はい?」

「その……、お怪我は……。……掠めたと話されていましたので……」

「……俺は何ともないですよ」


 アルベルトは短く言葉を切った。

 撃ったのはレン。そして、ラウルとの乱闘もあった。


 ただ、アルベルトにとって重症なのは怪我ではなく、心の方だろうとマリアは思った。


 そんなアルベルトに対し、ティナとレオンは何処かぎこちないように見える。

 気のせいだろうか。


「アルベルト。問題ないなら、さっきの広場に戻りましょうよ。アドニスさんが何をするか分からないし」

「……ああ」

「先生。ティナのこと、よろしくお願いします」


 レオンは無言で頷いた。

 部屋を出ていこうとする二人を見つめていたコルネリアは、ティナとレオンに振り返った。


「では、僕もこの辺で。何かわからなければ、システムに聞いてください」

「分かりました」


 システムが何のことなのか、マリアには分からなかった。返事をしたところを見るに、ティナにはわかっているのだろう。

 違和感を覚えつつ、マリアは前を歩くアルベルトを見上げた。


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