㉞-4 アルビノの君
ポツダムのバーで出会った男。
青年のようでもあり、少年のような幼さも残る、細身の男だった。
何よりも目を引いたのは、彼がアルビノであったことだ。
白銀の柔らかな髪、白い素肌。
そして、金色の瞳。
男であった彼に、何故か惹かれていた。
レンは、彼と似ている。
本人は別人であると語っていたが——。
アルベルトは俯き、目を閉じた。
レンの笑顔が、少年の笑顔と重なった。
「そうなのか……。あいつが——」
マリアは胸に手を当てた。
アルベルトの気持ちが、伝わってくるかのようだった。
レンはアルベルトと出会う前に、廃棄処分が決まっていた。
運命を受け入れたレンは、アルベルトと出会った後に、アウローラの拠点を襲撃した。
アウローラの構成員は全て死に絶えた。
彼らの死に、レンやラウルが直接関わっていたかは分からない。
押し黙ってしまったマリアとアルベルトを前に、アドニスは笑みを浮かべた。
「……廃棄処分されたレン様は、ラウルによって手厚く葬られる予定でした。しかし、ラウルに、レン様の遺体を回収するように命令が下った。その命令に背けば、レン様が死を選んだ意味がなくなります」
アドニスはモノクルを掛け直した。
「ヴェルローラは、回収されたレン様の遺体から魂を抜き取り、それを再利用したのですよ」
「……再利用?」
「えぇ、そうです。そして、どういう訳かレン様の魂は、ティニアという躯体に移され、再び生を受けることになったのです」
しばしの静寂。
アルベルトは理解が追いついていないようだった。
ましてや、幼いフリージアなど、状況は読めないだろう。
「よって、ティニアはレン様であり、レン様ではありません。レン様自身は、1936年の廃棄処分によって命を落としていますからね」
アルベルトは、アドニスの言葉の意味を噛み締めていた。
レンであって、レンではない存在。
ポツダムで出会った男はレンだった。
レンはティニアという躯体に入れられた。
ティニアはレンであって、レンではない。
レン——。
その名前を心で呼ぶたび、アルベルトの心に、細い針金が突き刺さっていくようだった。
アドニスは天を仰いだ。
呆然としていたアルベルトは、声を振り絞った。
「そんなことが、現実に起こったことなのか?」
「えぇ。現実的ではないでしょう? ですが、それがレン様の現実なのですよ」
動揺しているのはアルベルトだけではなく、フリージアもだった。
アルベルトと繋いだ手に、フリージアは力を込めた。
マリアはティニアとして生きているレンを思い出し、その思い出を噛みしめる。
彼女と過ごした日々は、紛れもなく幸せな日々であった。
「じゃあ……。今のあいつは……」
マリアは息を飲んだ。
結論をまとめられるのは、自分しかいないだろう。
「……アルベルト。今のティニアは、機械人形のティニアと人造人間の一部を使ったキメラなの……。その器に、レンの魂が捻じ込まれた。私はそう聞いてるわ……」
マリアは自らを抱きしめた。
——ティニアはレン。そして、彼女はキメラだ。
人でもなく、機械人形でもなく、人造人間でもない。
そんな複雑な存在に、レンの魂は入れられた。
二人で暮らしてきた道のりも、幸せな日々も、作られた日常であったのだろうか。
雪原で彼女に救われるよりも前。
アウローラの拠点で出会うよりも前。
ずっとずっと前から、彼女の運命は狂わされていたのだ。
それは、ラウルにも同じことが言える。
「それから……、ラウルのことだけど……。何か事情があると思うの」
「……事情だと?」
「ティナも言ったけど、ラウルはティナの……」
そう言いかけて、マリアは言葉を飲み込んだ。
この話は、マリアがすべき話ではないような気がしたからだ。
マリアの気持ちを感じ取ったかのように、ティナは俯いた。
「アルベルトさん……。あの……」
ティナはそのまま、言葉を詰まらせた。




