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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode34「紫雲英、拾ひ集む」
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㉞-4 アルビノの君

 ポツダムのバーで出会った男。

 青年のようでもあり、少年のような幼さも残る、細身の男だった。

 何よりも目を引いたのは、彼がアルビノであったことだ。


 白銀の柔らかな髪、白い素肌。

 そして、金色の瞳。


 男であった彼に、何故か惹かれていた。

 レンは、彼と似ている。


 本人は別人であると語っていたが——。


 アルベルトは俯き、目を閉じた。

 レンの笑顔が、少年の笑顔と重なった。


「そうなのか……。あいつが——」


 マリアは胸に手を当てた。

 アルベルトの気持ちが、伝わってくるかのようだった。


 レンはアルベルトと出会う前に、廃棄処分が決まっていた。

 運命を受け入れたレンは、アルベルトと出会った後に、アウローラの拠点を襲撃した。


 アウローラの構成員は全て死に絶えた。

 彼らの死に、レンやラウルが直接関わっていたかは分からない。


 押し黙ってしまったマリアとアルベルトを前に、アドニスは笑みを浮かべた。


「……廃棄処分されたレン様は、ラウルによって手厚く葬られる予定でした。しかし、ラウルに、レン様の遺体を回収するように命令が下った。その命令に背けば、レン様が死を選んだ意味がなくなります」


 アドニスはモノクルを掛け直した。


「ヴェルローラは、回収されたレン様の遺体から魂を抜き取り、それを再利用したのですよ」

「……再利用?」

「えぇ、そうです。そして、どういう訳かレン様の魂は、ティニアという躯体に移され、再び生を受けることになったのです」


 しばしの静寂。

 アルベルトは理解が追いついていないようだった。

 ましてや、幼いフリージアなど、状況は読めないだろう。


「よって、ティニアはレン様であり、レン様ではありません。レン様自身は、1936年の廃棄処分によって命を落としていますからね」


 アルベルトは、アドニスの言葉の意味を噛み締めていた。

 レンであって、レンではない存在。


 ポツダムで出会った男はレンだった。

 レンはティニアという躯体に入れられた。

 ティニアはレンであって、レンではない。


 レン——。


 その名前を心で呼ぶたび、アルベルトの心に、細い針金が突き刺さっていくようだった。


 アドニスは天を仰いだ。

 呆然としていたアルベルトは、声を振り絞った。


「そんなことが、現実に起こったことなのか?」

「えぇ。現実的ではないでしょう? ですが、それがレン様の現実なのですよ」


 動揺しているのはアルベルトだけではなく、フリージアもだった。

 アルベルトと繋いだ手に、フリージアは力を込めた。


 マリアはティニアとして生きているレンを思い出し、その思い出を噛みしめる。

 彼女と過ごした日々は、紛れもなく幸せな日々であった。


「じゃあ……。今のあいつは……」


 マリアは息を飲んだ。

 結論をまとめられるのは、自分しかいないだろう。


「……アルベルト。今のティニアは、機械人形のティニアと人造人間の一部を使ったキメラなの……。その器に、レンの魂が捻じ込まれた。私はそう聞いてるわ……」


 マリアは自らを抱きしめた。


 ——ティニアはレン。そして、彼女はキメラだ。

 人でもなく、機械人形でもなく、人造人間でもない。

 そんな複雑な存在に、レンの魂は入れられた。

 

 二人で暮らしてきた道のりも、幸せな日々も、作られた日常であったのだろうか。

 雪原で彼女に救われるよりも前。

 アウローラの拠点で出会うよりも前。


 ずっとずっと前から、彼女の運命は狂わされていたのだ。

 それは、ラウルにも同じことが言える。


「それから……、ラウルのことだけど……。何か事情があると思うの」

「……事情だと?」

「ティナも言ったけど、ラウルはティナの……」


 そう言いかけて、マリアは言葉を飲み込んだ。

 この話は、マリアがすべき話ではないような気がしたからだ。

 マリアの気持ちを感じ取ったかのように、ティナは俯いた。


「アルベルトさん……。あの……」


 ティナはそのまま、言葉を詰まらせた。

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