⑯-7 最後の誕生会
「誕生日おめでとう!」
教会の扉が開くや否や、子供たちや礼拝者の歓迎を受けたティニアは面食らった様子で、非常に驚いたと言わんばかりに目を見開いた。
「えっ‼ ……君、今日誕生日なの?」
「なんで俺なんだよ」
後ろのアルベルトが笑いだすと、子供たちまでも笑い出した。緊張が解けたのか、子供たちは一斉にティニアへ駆け寄り、手作りのプレゼントを手渡した。
すかさずに、レオンも花束を差し出した。色とりどりの見事な花束がティニアの眼下に広がる。
「おめでとう、ティニアさん」
「え、うそ。先生、どしたのこの花束! なんで、もー。何も言わなかったじゃん!」
「素直に受け取れよ。先生が可哀想だろ」
アルベルトの言葉に、ティニアは気恥ずかしそうに花束を受け取った。歓声が上がり、ケーキがシャトー婦人とミランダによって運ばれてくる。
「おめでと、ティニア!」
マリアは花で作ったリースを差し出すと、両手に塞がったティニアの首へかけて無邪気に笑った。
ティニアは花だらけだ。
「マリアまで! どうしたの皆しちゃって」
「はいはい。とぼけても、今日が貴女の誕生日よ、ティニア」
「いや、でもいつも何もしないじゃん」
「ティニアが無頓着だからでしょ! リースはドライフラワーで出来ているから、玄関にでも飾ってよ」
ティニアは腕を組んで考えると、手をポンっとたたいた。
「ああ。今日六月十四日か」
「お前なあ。昨日、前日祭を俺とやっただろう」
「なんですって! アルベルト、君は抜け駆けをしたのですか!」
「なんでアドニスが膨れてるの?」
「わ、ちょ。アドニスさん痛い」
アドニスの攻撃を避けることなく受けるアルベルトを見て、レオン医師も大笑いを始めた。
「アル、抜け駆けしたのですか。酷いですよ」
「ちょ、レオンまで止めてくれ。子供たちに聞かれたら……」
「ほほう。みなさーん!」
「わー! アドニス、やめろ!」
アドニスはアルベルトの腕を掴み、高らかに上げると宣言した。
「ティニアの為に、アルベルトが一芸を披露しますよ! 乞うご期待」
「なんで、そんな無茶ぶり……」
アドニスは教会に飾ってあった剣を抜き取ると、アルベルトに持たせた。
「ちょっと待て。流石にここで剣を振りまわすのは」
「皆さんいいですか! 今から僕がこのリンゴを投げますので、アルベルトが見事に剣で受け止めてくれますよ!」
「わー! アルベルト兄ちゃんすげー!」
「アルベルト兄ちゃん、がんばれー!」
子供たちの声援に引けなくなったアルベルトは、剣を身構えた。
「行きますよ! そおれ!」
アドニスがリンゴをわざと高く投げると、リンゴは回転を極めながら落下を始めた。アルベルトはその剣を抜くとすぐさま天へ突き刺し、リンゴを貫いた。
「おおおおおお……」
「すっげー、にいちゃん!」
投げた本人より、受け取った本人がたじろぐ程の驚愕の表情を浮かべていると、一斉に笑いが巻き起こった。ティニアが漸く自然な笑みを浮かべたことを見たマリアは、彼女へ寄り沿った。
「凄いじゃない。アルベルトもやるわね」
「………あれ?」
「ティニア? どうしたの?」
「今の、どこかで見たなって思って」
「ああ。大道芸じゃない?」
「うん。……そうだね」
ティニアは子供たちに倣い、拍手を送ると子供たちとつかの間のパーティーを楽しんだのだった。
薄暗い雲がシュタインアムラインを襲い、雨が降り出した。
それでも、教会では人々が笑い合い、また今ある幸せを噛みしめていたのだった。
つかの間の休息。笑い声はシュタイン・アム・ラインを駆け抜ける。
白鷺は羽ばたくと共に、ゆっくりと教会の屋根に腰を下ろした。
一羽は悲しそうに微笑むと、その笑う声に応えるかのように、静かに叫び声をあげた――。




