3-05 魔族の一斉攻撃
夕食を終えてお茶を飲んでいると、ヒルダさんが俺に【アクセル】を掛けてくれた。モモちゃんが使える魔法は7回だからなるべく戦闘に使って欲しかったんだろう。自分の事は自分でするとモモちゃんが言ってたけど、ここはヒルダさんの好意に甘えよう。
「モモは荷馬車の下から出るんじゃないぞ! これも持って行け」
シュタインさんがワシ掴みにして矢をモモちゃんに渡している。あれだけでも10本以上あるんじゃないか?
「荷車の下から私と矢を放っていれば良いでしょう? 問題はリーデルよねぇ」
「そこはアオイに期待する。なるべく扉付近で倒してくれ」
「問題は、ゴブリンとリーデルが一緒に突入するか、それとも遅れるのかです」
「リーデルが後だ。最初は弓で良い」
そう言う事か。とはいえ俺の弓の腕は悪いからな。牽制するつもりで放てば良いのかもしれない。というか、牽制にしかならないんじゃないかな。
お茶を終えて、リーザさんが櫓に上っていく。夜の見張りならネコ族が最適だ。
俺達は焚き火の周りで干し肉を噛みながら時間を潰す……。
村の塀の内側を村人が交替しながら巡回をしている。30分程掛けてたまに塀に作った足場から外を眺めているようだが、それで魔族の接近が分るんだろうか?
ちょっと不安な巡視だけどやらないよりは遥かにマシだ。
北の広場に回ってきたところで、櫓の下に作った焚き火のところでお茶を飲んでいくようだ。
そんな見回りの連中が数回広場に回ってきた時、櫓の上からリーザさんが大きな声で魔族の接近を知らせてきた。急いで立ち上がると、モモちゃん達のいる門の北側の荷馬車のところに走っていく。
急に広場が騒がしくなったから、一眠りしていたリーネさんは目が覚めたようで、隣に寝ていたモモちゃんを起こしている。
大きなアクビをしたところで俺と顔を合わせたモモちゃんが恥ずかしそうな表情をしているぞ。
「やってきたみたいだ。荷馬車の下から矢を放ってくれるだけで良い」
「そうだね。たっぷりと矢を持っているんだろう? それで1匹ずつ倒してくれれば、皆が助かるってもんだよ」
ファリスさんの奥さんが弓を手にして荷馬車の下を覗きこみながら言い聞かせている。
ファリスさんがやってきてフォークを樽に立て掛けると、俺の使っていた槍を手にする。樽の上に矢筒の矢を全ておくと、魔法の袋からボルトケースとクロスボウを取り出して急いで組み立てた。
「変わった弓だね? 使えるのかい」
「威力はあるんですが、時間が掛かります。リードルが現れたら、こっちに変えますから」
奥さんが難しい顔をしてるけど、扉が大きく音を発てたので直ぐに弓を手にして門に顔を向けた。
続けざまに門が音を立てて大きく揺れる。
「奴ら、破壊槌を2本用意してるぞ! まったく知恵の回る連中だ」
「となると、一気に雪崩れ込んで来ますね」
「俺達の思惑通りという訳にはいくまい。だが、ここを守れば十分に勝機はある!」
村の方に目を向けると、通りのバリケードにも弓を持った村人が何人かいるようだ。昨夜は気が付かなかったが、広場に面した民家の屋根にも何人かが上がっている。シュタインさん達が焚き火を越えて戦わない理由は同士討ちを避けるのが狙いだったようだ。焚き火から先が弓矢のキルゾーンという考えなんだろう。
「300の魔族が一斉に入って来たら、あんたでも当たるさね。気にせずに前に矢を放つんだよ」
「要は数を放て、ということですね。了解です」
下手な鉄砲も……、と言う事なんだろうな。まだ鉄砲は無いみたいだから弓矢がそれに当たるわけだ。広場の3方向から矢を放つんだから同士討ちが怖くなるが、門に向かって放てばそれを避けることができる。
ドォン! と、一段と大きな音がして丸太が1本顔を出した。そろそろ準備しておくか。クロスボウの先端の金具をブーツで踏んで両手で弦を引きトリガーにロックしておく。改めて弓を取り、最初の矢を弦に挟むと門をじっと睨む。
昨夜と同じように顔を出したゴブリンに矢が放たれる。俺の矢は当たらないだろうから門が破れるまでは我慢しよう。
足元から放たれる矢はリーネさんみたいだな。かなり命中しているぞ。
荷馬車に近付いたゴブリンを確実にし止めているのはモモちゃんなんだろう。まだ俺の出番では無さそうだ。
ドオォン! という音を立てて門の扉の片方が倒れ、ゴブリンの群れが広場に雪崩れ込んできた。
弓を引き絞ってゴブリンの群れに放った。直ぐに次の矢をつがえると弦を引く。
破れた門は横幅2mにも満たなけど、次々にゴブリンが現れるから門の方向に向かって矢を放てばどれかに当たる。
たまにこっちに近付いて来るのがいるけど、モモちゃん達がきちんと始末をしてくれる。
ウオォォ! と広場に喚声があちこちで敵味方共に上げているから、うるさくてしょうがない。
だけど、叫んだ方がやる気が出るし、ともすれば怖気づきそうな気持を奮い立たせる事ができるのも確かだ。
一矢ごとに叫び声を上げて矢を放っていると、門の奥からのそりと大柄な影が現れた。あれがリードルなんだろう。ともすればゴブリンの2倍の背の高さに見えてしまう。
弓とクロスボウを交換して、既にボルトがセットしてあるクロスボウの狙いを定めてリードルに放つと、急いで弦を引く。
ボルトをセットして、次の獲物をターゲットスコープに捕えてトリガーを引いた。
今のところは全て矢じりにクギを使ったものだ。5寸クギみたいなクギだったから、相手の腹や胸に深々と突き刺さる。
ボルトを受けるとうずくまるから、かなり効果があるみたいだな。矢を受けただけでは気にせずに槍衾を作って迎撃しているシュタインさんのところまで走っている。
たまに魔族の群れの中に火炎弾が炸裂する。魔法で作られた火炎弾の飛距離は30m程度なのだろう。門の外に飛んでいく火炎弾は一つもない。
樽の上に転がし解いたボルトを全て撃ち尽くし、ボルトケースの中のボルトを今は使っている。
鈍角の矢じりはクギの矢じりよりも深くは刺さらないようだけど、払い落した場所にはぽっかりと穴が空いている。この矢じりも結構使えそうだ。
全てボルトを撃ち尽くしたところで、クロスボウを樽の上に置き、背中の長剣を引き抜く。
「ファリスさん代わります!」
「済まん。……後ろは任せとけ!」
やはり疲れてたんだろうな。俺の言葉を聞くとほっとしたような表情を見せて後ろに下がった。
近付いて来たゴブリンを片手で血祭に上げながら、右手でも片手剣を逆手に持つ。
右手で相手尾攻撃をかわしながら左手の長剣で切裂いて行く。
ウオオォォ!
突然の歓声に驚いて周囲を見ると、いつの間にか魔物の群れが退いていた。
今夜もどうにか耐えたようだな。
シュタインさん達が3m程の槍を借り受けて、倒れている魔物を1体ずつ再度刺している。櫓の方を見ると、トラ顔のおじいさん達も同じような方法で死んでいるのを確認しているようだ。
あの作業が終わらない内は、戦闘状態と言う事なんだろう。後ろにいたファリスさんがいつの間にか隣にやって来ると、俺と同じくシュタインさん達の確認風景を眺めている。
「中々の腕だ。その若さで感心するぞ」
「褒めても何も出ませんよ。それより右手をありがとうございました。ファリスさんのおかげで安心して矢を放てました」
「それ位はなんでもねぇ。さて、そろそろ検分も終わりだな。ああやって検分しねぇと、近寄ってきた時に突然襲い掛かる奴もいるらしい。お前さんも覚えておくんだぞ」
知恵があるってシュタインさんが教えて貰った。だまし討ちをする位はわけもないと言う事だろう。
やがて検分が終わったらしくヒルダさんが俺達に向かって手を振っている。
モモちゃんとリーネさんを荷馬車の下から出したところで、全員で焚き火にそばに向かった。
適当に焚き火の周りに腰を下ろすと、リーザさんがお茶のポットを持って現れた。ヒルダさんの取り出したカップにお茶を注いで俺達に配ってくれる。
確かに喉が渇いてるな。ありがたく受け取って喉を潤した。
「村人が、売れそうな武器ははぎ取っている。広場の片付けは明るくなってからだが……。これはアオイが使えるんじゃないか?」
シュタインさんが取り出したのは小手じゃないのか。 手首のところがエビのしっぽのように鉄板が重ね合わされている。
持ってみると意外に軽いな。黒いから重そうだと思っていたけど、鉄板の厚さは結構薄そうだ。
ガドネンさんやシュタインさんの小手は、もっと厚い鉄板だし複雑な図案が彫刻されてるんだが、これはただの鉄板で装飾が無く、上面に沿って3本の畝が伸びているだけだった。魔族は実用主義なんだろうと感心してしまう。
「貰っても良いんでしょうか? 他の武具は一括に積み上げられてますけど」
「使えると判断したら参加した傭兵団の判断で問題ない。ガドネンもメイスを1つ手に入れているぞ」
「数点なら役特ってことじゃな。あまりやり過ぎるとギルドを追放されかねん」
頃合いが難しそうだけど、リーネさん達の内諾を受けて入るんだろう。小手を受け取ってひっくり返していると奇妙な点に気が付いた。上面の畝は飾りのようにも思えたのだが、そこだけ肉厚になっている。
「気が付いたようじゃの。それほどの鉄板加工は、ドワーフの職人でもできる奴は少ないぞ」
「俺達の装備はそうやって整えて行く場合もある。だが1つ注意しておかねばならんが、魔族の武器を持つ者は真っ先に狙われることも確かだ」
シュタインさんとガドネンさんの鎖帷子もそうなんだろうな。ヒルダさんやリーザさんが革鎧で武器が貧弱に見えるのもそれが原因なんだろう。
となると、モモちゃんの装備を整える上で注意する必要があるぞ。
やがて朝日が昇って来る。
朝食を終えると今度は穴掘りを始めなければならない。倒した魔族の数が多いから村人だけでは足りないみたいだ。
ヒルダさんが傷の手当てにかりだされ、リーザさんとモモちゃんは櫓の上で周囲を見張っている。




