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3-04 命中したのは1本だけ


「来たぞ!」

 櫓の上から俺達に向かってトラ顔のおじいさんが大声を上げた。

 急いで焚き火を離れると、門の北側の樽に向かって走る。モモちゃんとリーネさんが荷馬車の下で一眠りしていたんだけど、既に起きて弓を手にしている。


「モモちゃんに起こして貰ったわ。さすがにネコ族の人は気配に敏感ね」

「期待してますよ!」

 俺の言葉にリーネさんが笑い声を上げている。おかしい事を言ったかな?

「俺達も一緒だ!」


 振りかえると、息を整えているメタボな中年夫婦がいる。はぁ……とため息をついてしまった。


「あら、ファネスさん達じゃない。これで安心できるわ。おばさんはここで、ファネスさんはこの若者をカバーして欲しいわ」

 リーネさんはかなり期待してるって事か? 改めて2人を見ると、おばさんはヒルダさんの持っている魔法の杖と同じような杖をベルトに差して、弓を持っている。持っている矢筒は俺の物より大きなものだ。20本以上入ってるんだろうな。

 ファネスさんとリーネさんが呼んだおじさんが持っているのは、どう見ても農具なんだよな。フォークをおおききしたようなもので、荷車に収穫物を積み込む時に使うものだと思うけど……。


「若いの、これが珍しいか? 魔物相手なら槍より使いやすいぞ!」

「はぁ……、よろしくお願いします。俺の事はアオイと呼んでください。もう一人、荷車の下に妹のモモがいます」


 俺の言葉に荷車の下からモモちゃんが顔を出して、2人に頭をぺこりと下げている。

「ほう、ちっこいのに礼儀は出来てるじゃねぇか。そこに入ってるんだぞ。エルニー、頼んだぞ!」

「任せときな。大丈夫だよ。私等が守ってあげるさね」


 おばさんが腰を下ろしてモモちゃんの頭を撫でている。どう見ても孫を見る仕草なんだが、この2人強いんだろうか?


「ファネスさん達は若いころ傭兵団にいたのよ。10年ほど前に廃業してこの村に住み着いたの。今までも散々世話になってるわ」

「なら安心できますね。そんな村人も多いんでしょう?」

「けっこういるわよ。全員どこかで村の守りに着いてくれてるわ」


 辺境の村ならではなんだろうな。土地を安く手に入れて、開墾をしながら農業で余生を送るつもりだったに違いない。

 そうなると、少しはマシに戦えるってことになるんだろう。

 俺が矢を放っていても、右手から回り込んで来る魔物はファネスさんが相手になってくれるはずだ。手に負えなくなる前に俺が加われば良い。それでも3人が矢を放つ事が出来る。


 そんな事を考えていると、ドォン! と大きな音がした。

 門に視線を移すと、次の大きな音とともに門がきしんだのが見えた。

 櫓の上からほとんど真下に矢を放っているから、丸太でも運んで門にぶつけてるんだろう。

 

「始めやがったな! アオイと言ったな、矢を用意しとけよ。門が破られると同時になだれ込んでくるぞ」

「分かりました。直ぐに右に移動します!」


 弓を矢につがえて引き絞るだけの状態で樽の後ろから門を見守る。

 門が大きな音を立てるたびに少しずつ門の振動が大きくなっている。扉が持っても、門が持たないんじゃないか?


 一際大きな音がして扉を打ち破って丸太が顔を出した。

 丸太が抜かれると同時に、扉の穴に向かって矢が放たれる。そんな行為が無駄に思えるように再び丸太が扉を破る。外から破れた扉に向かって武器が大きな棍棒が振われてさらに大きく扉が壊れる。

 数匹のゴブリンが隙間から広場に出ようとしたところを矢で倒された。

 それでも、出口を塞いだゴブリンを後ろに引き抜くように取り除いて次々とゴブリンが姿を現す。

 俺が矢を3本放った時だ。一段と大きな音がして、扉の片方が吹き飛んだ。

 ウオォ! と大声を上げながらゴブリン達が押し寄せてくる。樽の横にファネスさんが移動してフォークを振い始めた。

 俺も樽に立て掛けてあった槍を掴んでファネスさんの横に出る。


「若いの。使えるのか?」

「何とかやってみます。少し横に出れば、樽を目標にはしないでしょう」

「そうだな。なら、場所を代わるぞ! 右手はやりずらいんじゃないか?」


 俺の槍さばきを見て左利きであることを直ぐに見抜いたようだ。確かにその方がありがたい。

 ファネスさんに頷いた瞬間、ファネスさんが後ろに下がった。すかさず槍を振り回して先ほどまでファネスさんのいた位置に体を移動する。槍を斜めに振り回していると俺の右後方で1体ずつ確実にし止めている。

 

 ゴブリンはガドネンさんのような筋肉質の体で棍棒や錆びた片手剣等を武器に向かってくる。

 少し大型のゴブリンが弓を持っていたけど、弓を引き絞る前に矢を受けて倒れていった。

 樽を乗り越えようとしたゴブリンに槍を突きさすと、別のゴブリンが俺めがけて棍棒を振り織りして来る。咄嗟に槍を離して避けてしまったから、今は背中の長剣を抜いて使っている。右手に短い片手剣を逆手に持って、樽の右前でゴブリンを倒していると、樽の隙間からモモちゃん達が援護してくれる。

 ゴブリンが樽を越えなければこっちのものだな。いつの間にかファネスさんが樽の右横に移動しているから、ゴブリンが横から入ることはできないだろう。

 

 広場が叫び声で満ちていたが、突然音が途絶えた。

 次の瞬間、ウオォォ! という雄叫びが上がったがこれは味方からの勝どきの声だ。

俺達も大声で唱和に加わった。


「若いの。 結構やるもんだな。だが、あまり前に出るな。嬢ちゃん達の矢で助かっていたぞ」

「はぁ……。なるべく気を付けます。でも、俺が前にいればモモちゃん達が安心して矢を放てますからね」


 俺の肩をポンっと叩いて、ファリスさんは大笑いを始めた。

「まったくだ。良い妹を持ったな。俺の方にはかみさんの矢が1本も飛んでこなかったぞ!」

「何言ってんだい。ゴブリンぐらいで私が加勢する必要なんざあるもんかい。それに、同じ守るんだったら、あんたより若い衆にするよ」

 

 ファリスさんの嫁さんもファリスさん同様豪快な人だった。荷車の下から這い出して来たモモちゃんはリーネさんと顔を合わせて苦笑いをしているぞ。


「お兄ちゃんの矢も1本は当たったよ。後は、扉に刺さってた」

「もう少し練習しないとね。クロスボウならもっと当たるんだけど、ボルトをたくさん撃てないんだよ」


 とりあえず一段落らしい。矢を引き抜いて使える矢を束ねたり、北門の扉を修理したりとやることはたくさんある。

 何人か怪我をしたようだが、命を落した人はいなかったようだ。

 シュタインさんが俺達を焚き火の傍に集めると、お茶を飲みながら話を始めた。


「どうやら最初の攻撃は撥ね返した。次の攻撃がいつ来るかわからんから、今の守備位置で待機してくれ。交替に眠っても構わんぞ。だが1人は必ず起きているんだ」

「村人11人が怪我をしたらしいわ。北門では8人だけど、南門も3人のけが人が出てるから、ゴブリンはかなりいたんでしょうね」


 リーザさんがどこからか情報を仕入れてきたらしい。

 ひょっとして次はもっと数が増えるんだろうか?


「倒したゴブリンは37じゃ。100は超えていたはずだが、逃げ出したゴブリンも多かったぞ」

「ゴブリンも少しは知恵がある。負けを認めて去ったのかも知れんな」


 ガドネンさん達の話からすると、俺達が手強かったから早々に引き揚げたというkとになるんだろう。

 リーネさんがモモちゃんを連れて荷馬車に向かったから、馬車の下で一眠りするんだろうな。残った俺は、村人を手伝ってゴブリンの亡骸を村の外に運びだす。

 一応、リーザさんが櫓の上で周囲を見張ってくれるけど、全員が武器を持っての作業だから中々捗らない。

 やっと終わった頃には、東の空が明るくなってきた。

 朝食を頂いてからモモちゃんと代わろうかな。


 

 ドンドンと荷車を揺するような音で目が覚めた。

 荷車から這い出してみると、樽の代わりに丸太が格子状に日理場に向かって組まれている。俺が聞いた音は、広場に杭を打つ音と荷車に丸太を並べている音だったようだ。

 そんな俺を見とがめたシュタインさんが手を振っている。何か新しい情報でもあるんだろうか。


「起きたようだな。まぁ、座ってくれ。少し敵の様子が見えてきたぞ」

 

 シュタインさんの話では、リーデルが1個小隊、ゴブリンが3個小隊規模だと教えてくれたが、その数は10を基本としているようだ。

 王国の軍は分隊は10人だが、その上は4の倍数らしい。1個小隊は40人、1個中隊なら160人ということだな。

 ところが、魔族達の編成はどこまでも10が基本ということだから、1個小隊が100人で1個中隊なら1000人と言う事になる。

 どちらかに統一してくれれば良いと思うのは俺だけなんだろうか? 


「全部で400?」

「そうなるな。ゴブリンはお前や村人でもどうにかなるが、リーデルはそうもいかん。次は全軍でやって来るぞ。そのための補強だ。脇をファリスに任せて、できるだけ弓で相手をしろ。矢が尽きたら例の弓を使っても構わんぞ!」


 要するに隠れて矢を放て! と言う事だろう。シュタインさんに頷く事で了承を伝える。


「となれば、あの槍は俺が一時借りてもかまわんな? フォークも良いんだが、リーデル相手となるとやはり槍が欲しくなるぞ」

「使ってくれ。アオイ達を頼むぞ!」


 2人で腕を握り合っている。これはかなりの戦になりそうだな。チラリとモモちゃん達が昼寝を始めた荷馬車を見ると、太い丸太が組み終わっていた。長剣を持つリーデルもいるだろうから、枠の間から長剣を突き出すぐらいはするだろう。モモちゃん達には昨夜と同じように樽の隙間から矢を放って貰おう。

 丸太の枠から後ろに下がって俺が立つなら良い囮になる。俺に目が行ってるなら、モモちゃん達の安全は確保できるに違いない。


「昼間に、丸太や荷馬車に水を掛けておくんだぞ。火矢は魔族も使うからな」

「今の内にやっておきますよ。慌ててやるようでは抜けが出るとも限りません」


 焚き火を離れる俺の後ろで、シュタインさん達が笑い声を上げているのが聞えてきた。その通りだと思っているに違いない。


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