3-06 村の護衛を終えて
魔族の村への襲撃は3夜連続に行われたが、最後の夜の襲撃は100匹にも満たない数だったとシュタインさんが話してくれた。
門の扉を直して、俺達は村の周囲を巡回してるのだが、モモちゃんは尻尾が太くならないと言ってたからとりあえずの危険は去ったと言う事になるのだろう。
「早ければ明日には軍隊がやって来るわ。今の内にのんびりしていなさい」
「次はどこなんでしょうね? 山街道は物騒な感じですけど?」
「たぶん、旧街道になるんでしょうね。だけど山街道を縄張りにしてた私達みたいな傭兵団が大勢移動するから仕事はどうなのかしら?」
ヒルダさんにも予想がつかないみたいだ。場合によっては近場の狩りで冬を越す事も考えないといけないのだろうか? 冬装備の資金が足りない場合は、シュタインさんが貸してくれると言ってたけど、本当にそうなってしまいそうだ。
シュタインさん達がギルドに戻ると、もう一組の傭兵団が村の巡回を引き継ぐ。俺達は少し遅めの昼食を頂きながらシュタインさんの話に耳を傾けた。
「そろそろ軍隊が村に到着するだろう。それで俺達だが……」
シュタインさんの話では2つの選択肢があるらしい。1つ目は、ヒルダさんの言っていた旧街道へ移動して荷馬車の護衛をするというもの。2つ目は、山街道と旧街道をつなぐ間道を行く荷馬車の護衛ということだ。
前者は脅威のリスクは少ないが、仕事にありつく率も低いらしい。後者は脅威のリスクは高くなるが、収穫期を迎えた今ならかなりの確率で仕事ができるだろうと話してくれた。
「以前だったら迷わずに旧街道に向かうだろうが、今はアオイ達がいるからな。格段に俺達の戦力は伸びている。ビーゼント村を拠点に旧街道のハーネル町、東はこのベルク村までだ」
「イーデンの森が厄介だな。ラケット村の東の森も問題かも知れん。だが、軍がこの村に駐屯するなら、イーデンの森の脅威は薄れるじゃろう。ラケット村の東にあるラゲルの森はそれほど大きくは無い」
今までとそれほど変わらない暮らしをする事になりそうだ。
脅威はあるがシュタインさんが話してくれた2つ目の選択肢の範囲でなら俺達の活動ができると皆が考えているように思える。
「2つ目で良いじゃろう。1つ目は仕事にあぶれるぞ」
「私もそれに賛成するわ。ネコ族が2人はかなり贅沢な傭兵団だし、前衛も3人になったでしょう」
リーザさんは頷いてるし、俺とモモちゃんは皆に一任しよう。
「アオイはどうなんだ?」
「まだ傭兵が何なのかも分らぬ初心者ですから皆に一任します」
「なら、2つ目の案という事で、2つの街道をつなぐ間道を仕事場にするぞ。食料の買い出しは終わってるから、矢とアオイのボルトを買い込めば十分だろう」
スイっと銀貨2枚をリーザさんに渡してるから、それで買い込めと言う事だな。
直ぐに、リーザさんがモモちゃんを連れてギルドを出て行った。
モモちゃんとにこにこしながら出掛けて行ったから、余ったらお菓子でも買い込むつもりに違いない。
軍隊がやって来たのは翌日の昼過ぎだった。これで俺達の村の防衛任務が終了する。
シュタインさんから245Lを受け取り、その晩は村の宿に泊まる。明日は朝早く村を出て、ビーゼント村までの旅を始めねばならない。
翌朝、朝食を終えた俺達は村を出て山街道への間道を歩く。今夜はイーデンの森の手前で野営になるが、この頃は慣れたものだな。
夏を過ぎているからそよ風が涼しく感じられるし、強い日差しに悩まされることも無い。俺の前を歩くモモちゃんの足取りもだいぶしっかりしてきた。たぶん俺も、皆にそう思われているんだろうな。
弓やクロスボウは魔法の袋に入れているから、武器は背中の長剣と、杖代わりの短い槍だけだが、この槍は元々は杖だったから歩くには問題が無い。
リーザさんは弓を担いで、俺と同じように槍の穂先の付いた杖を付いて歩いているけどモモちゃんの弓は俺のバッグの中だ。細い杖をカツカツと音を立てて歩いているけど、ベルトに曲がったナイフと孫の手を差しているから、不意打ちを受けることは無いだろう。もっともそんな事態が生じるとは思えない。モモちゃんなら周囲に潜む危険な奴を知ることできるからな。
俺の少し前を左右にぴこぴこと揺れる尻尾を見ても危険はありそうもない。ヤバそうになると2倍程に膨らむことが分ったからね。
数本の木が植わっているこの世界の一里塚が2つ現れたところで、ちょっとした丘に腰を下ろしてお弁当を広げた。
かなり遠くに森が見える。森の手前の野営地にはだいぶ早く着きそうだ。
アビニオン傭兵団の野営は何時もの通りだ。
俺とモモちゃんが最初に焚き火の番になる。弓をバッグから取り出してモモちゃんに渡し、俺もクロスボウを用意しておく。
「何もいないにゃ。でも、もう少し頑張るにゃ」
「そうだね。でも疲れたなら横になってても良いよ。明日は森を通るからね。モモちゃんが頼りだ」
俺の話を嬉しそうに聞いて、俺の隣で俺の真似をするように毛皮の上に座っていたけど、10分も過ぎない内にこくりこくりと船をこぎだした。焚き火の方に倒れると大火傷をしそうだから、薄い毛布を取り出してモモちゃんを包むと横にする。
モモちゃんの眠りはかなり浅いようで、眠っていても周囲の気配に反応するから大したものだ。
3時間程経過したところでリーザさんを起こすと、俺もモモちゃんの毛布に包まった。
やはり1日歩くのは疲れるものだ。
翌日は朝食を終えると直ぐに出発だ。
モモちゃんの弓を肩に掛けて俺は昨日と同じ装備で歩く。何かあっても、弓の腕はまだまだだし、クロスボウの連射は無理だ。モモちゃんとリーザさんに援護して貰って槍や長剣を振る方が俺には合ってるような気がする。
「相変わらず静かだな……」
「でも、尻尾が膨らまないにゃ。怖いのはいないにゃ」
俺の独り言に、前を歩くモモちゃんが答えてくれた。そんな事を言うから隣を歩くヒルダさんが微笑みながらモモちゃんの頭を撫でている。
くすぐったそうなそぶりを見て、ヒルダさんがますます頭を撫でてるぞ。
「でも、静かすぎるのも考えものね。これだと、敵の接近が分らないわ」
後ろを歩くリーザさんが呟いた。森のざわめきというか、虫や小鳥の声である程度敵の距離と方向が分るんだろうな。俺にはさっぱりだけど、そんな勘みたいなものは文明社会に住んでいた俺には理解すらできない。
ある意味、野生の勘と言うものだろう。そうなると、一番勘が優れているのはこの間まで子猫だったモモちゃんと言う事になりそうだ。
「ここはモモちゃんの勘に頼りましょう。でも後方の確認はよろしくお願いしますよ」
「中々言うようになったわね。そうね……。殿はまだまだアオイに任せる事はできないわ」
手に持った槍で、リーザさんが俺の頭をコツンと叩く。
怒ってるわけじゃ無さそうだ。ある意味、スキンシップの一部なんだろうけど、けっこう痛いぞ。槍の穂先で叩かなくても良いような気がするな。
短めの休憩を何度か取りながら先を急ぐ。昼食は取らずにビスケットのようなお菓子で腹を満たした。
なるべく早く森を抜ける事に努めたから、まだ日が高い内に森を抜けることができた。森の手前の休憩所を使わずに2つほど先の一里塚で野営の準備を始めた。シュタインさん達は森からできるだけ離れたがっているようだな。
一里塚は直径10m程の範囲で2mほど土を盛り上げ数本の木を植えてある。かなり昔に作ったらしく、大きな枝を街道に張り出しているから、その下で休憩するには都合が良い。
俺達は街道の反対側に枯れ枝を集めて焚き火を作った。街道からは直接俺達を見ることができないだろうが、焚き火の明かりは知られてしまいそうだ。
そんな事を考えていると、ガドネンさんが俺達の槍を街道側に突き差して、黒い布を張り始めた。布は2重で片側は黒、もう片方は白に作られている。白は雪の中を想定してるんだろう。
「良し、これで街道に漏れる明かりは抑えられるぞ。夜は焚き火を小さくするんだ」
作業が終わったガドネンさんは焚き火の傍に腰を下ろしてバッグから水筒を持ち出した。小さなカプを2つ取り出してシュタインさんと酒を飲むつもりのようだ。
それを見てヒルダさんが呆れた顔をしてスープを作っている。小さな焚き火だから少し時間が掛かりそうだな。
「ベルク村であれだけ戦力を失っている以上、この辺りに偵察を出すことは考えられんが、一応備えた方が良いだろう。武器は直ぐ使えるようにしといてくれ。リーザやモモが怪しんだら、ヒルダは光球を頼む」
「来るかしら?」
「来ないだろうな。だが、万が一も考えられる。アルビオンは、まだまだ小さな傭兵団だ。ワシもシュタインに賛成じゃ」
俺達の顔を眺めてガドネンさんが呟いた。
シュタインさん達は、アルビオンをもっと大きな傭兵団にしたいんだろうか? あまり大勢だと、報酬の分配にも事欠きそうな気がするけど……。
そう言えば、長距離を進む荷馬車の警護を一時的に請け負ったことがあるな。現在のアルビオンは短距離の警護を選んで仕事をしてるんだろう。
慣れた場所ならば警護もしやすいという事かも知れない。さらに人数を増やした場合は一つの荷馬車の集団を最初から最後まで警護する事になるんだろうな。
それも少しおもしろそうだ。
リーザさんが渡してくれたスープとパンを受け取ってもしゃもしゃ食べながら、そんな光景を思い描いてみる。
その夜は、焚き火が消えないように注意しながらモモちゃんと焚き火の番をした。直ぐにモモちゃんは俺に持たれて眠ってしまったから、シュタインさんの危惧は取り越し苦労になりそうだな。だが、リーダーである以上、常に最悪を考えているんだろう。リネさんには感謝だな。アルビオンの仲間でいられるなら、俺とモモちゃんはこの世界でそれ程苦労することも無く暮らしていけるに違いない。




