第73話
イワレビコの「舶来槍」の先端が、磐井の狙撃に動揺したタケミナカタの胸当てに、死の楔のように打ち込まれた。
重力出力を全開にしたランスの回転が、闘神の不壊の鎧を軋ませ、空間ごと「穿孔」しようと咆哮する。
「……、……ッ! ぐ、ぁあああああッ!!」
タケミナカタの十握剣が、ランスの圧力に耐えかねて弾き飛ばされた。
勝機。神殺しの王の槍が、出雲の闘神の心臓へ届こうとした、その瞬間。
「……、……。……よくも、……よくも私の『お兄様』に……ッ!!」
後方から、戦場全体の気温を一瞬で氷点下へと叩き落とす、凄まじい「冷気」が爆発した。
シタテルヒメ。彼女の優雅だった面容は怒りに歪み、その長い黒髪が、意志を持つ「蛇」のように蠢き始めた。
「……穢れなき神の血を流した罪、……その身に刻んで死になさいッ!!」
――神権・【黒髪の針山】。
シタテルヒメが呪言を唱えた瞬間、彼女の髪が数百メートルにも及ぶ「黒い触手」へと変貌し、次の瞬間、その一本一本が鋼鉄の強度を持つ「針」となって、戦場全体へ無差別に降り注いだ。
それは雨ではない。出雲の黄泉の穢れを宿した、数万の「死の弾丸」だ。
「……、……ッ! スイゼイ、サクヤ、……俺の盾の後ろへッ!!」
ニニギがボロボロの盾を構え、イワナガヒメが双鞭を振るって針の雨を弾こうとする。だが、シタテルヒメの放った針は、彼女の「岩の肌」さえも貫通し、彼女の皮膚を黒く腐食させ始めた。
「……、……っ! が、は……ッ! ……この穢れ……鈴では、……払い切れん……ッ!!」
スイゼイが血を吐き、意識を失いかける。
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「……、……。……ちっ、……お高く留まった女神様が、……随分と荒っぽいことで」
ヘパイストスが、鉄を鍛える重槌を振るい、サクヤに迫る針を火花を散らして弾き飛ばした。
そして。
タケミナカタの懐に飛び込んでいたイワレビコの背後にも、数千の黒い針が迫っていた。
「……、……ッ! しま……ッ!!」
「……はははッ! 泥の王よ、……貴様の『貫通』も、……この死の雨の前では無力だッ!!」
ランスを突き刺したままのイワレビコは、背後からの攻撃を防ぐ術を持たない。
前線では王が、後方では仲間たちが、黒い死の雨の中に、一人残らず沈められようとしていた。




