第72話
タケミナカタの「十握剣」が、イワレビコの構える舶来槍の装甲を削り、火花を散らす。
王は重力操作で必死に体勢を維持しているが、闘神の絶え間ない連撃は、確実にイワレビコの「芯」を捉えようとしていた。
「……、……。……終わりだッ!!」
タケミナカタが剣を上段に構え、大地の重圧を一点に凝縮する。
だが、その必殺の剣が振り下ろされる直前。戦場の喧騒とは無縁の、静かな「呟き」が影の中から響いた。
「……、……。……『理』を食らえ」
巨木の影。そこには、いつの間にか本陣を離れ、敵の死角へと回り込んでいた磐井造がいた。彼は胸元の古びた首飾りに、祈るように一度だけ唇を寄せると、手にした黒い**弩**を水平に構える。
「……、……。……呪言・【因果の沈黙】」
彼が引き金を引くと同時に、弩から放たれたのは鉄の矢だけではなかった。磐井が紡いだ「呪言」が、矢に黒い霧のような尾を引かせ、大気を一切震わせることなくタケミナカタの喉元へと肉薄する。
「な……ッ!? どこから……ッ!!」
――ガキィィィィィィンッ!!!
タケミナカタは反射的に剣を戻し、矢を弾いた。
だが、その「想定外の狙撃」は、完璧だった彼の連撃のテンポを、僅か一拍だけ狂わせた。磐井の呪言は、弾かれた瞬間に「音の衝撃」を爆発させ、タケミナカタの三半規管を強引に揺さぶる。
「……、……。……ぐ、ああ……ッ! 目が、……霞む……ッ!!」
「……、……。……今だ、……イワレビコ王!!」
影の中から磐井が叫ぶ。
その隙を、神殺しの王が見逃すはずがない。
イワレビコは重すぎるランスの装甲を強引に重力で固定し、左腕の小手を限界まで赤熱させた。
「……、……。……恩に……着るぜ、……磐井ッ!!」
――突撃・【深淵の穿孔】!!
イワレビコが、大地を抉りながらタケミナカタの懐へと突き進む。
回転を始めたランスの先端が、動揺した闘神の胸当てを捉え、空間ごと「穴」を開けようと咆哮した。




