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神を殺す王 ―神武東征ダークファンタジー―  作者: 水前寺鯉太郎
出雲遠征編

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65/75

第65話

影が、最速の軌道を描いた。

 先鋒ツチグモの黒曜石の斧が、しめ縄の上に座る小さな神、スクナビコナの首を正確に刈り取ろうとしたその瞬間。

「……、……。……甘いよ。……『小さい』のが、僕の全力だと思った?」

 スクナビコナが、懐から古びた、しかし不気味な脈動を繰り返す木槌――**【打出の小槌】**を取り出した。

 彼がその槌で自らの膝を叩いた瞬間、周囲の空間が「ミシミシ」と悲鳴を上げ、視界が歪んだ。

 ――神権・【質量の叛乱エクスパンション】。

 爆発的な膨張。

 子供ほどのサイズだったスクナビコナの肉体が、一瞬にして屈強な戦士の体躯へと膨れ上がった。それだけではない。彼の手中にあった小さな槌もまた、巨大な岩塊を繋ぎ合わせたような**「大ハンマー」**へと変貌していた。

 ――ガキィィィィィィィィィィンッ!!!

 ツチグモの斧が、大ハンマーの鋼鉄の面に弾き返された。

 火花が霧を焼き、衝撃波で周囲の泥濘が円形に吹き飛ぶ。

「……な、……ッ!? 質量が、……数千倍に……!?」

 影へと逃れようとするツチグモを、巨大化したスクナビコナの瞳が逃さない。

 

「……逃がさないよ。……大きくなった分、……僕の『悪意』も……重くなってるんだからッ!!」

 スクナビコナが巨大なハンマーを片手で振り回し、薙ぎ払う。

 大気を圧縮する一撃。ツチグモは咄嗟に斧で受け止めるが、その圧力に耐えきれず、大木の幹へと叩きつけられた。

「……、……っ! が、は……ッ!!」

 マカツ軍に戦慄が走る。

 幻術を操る狡猾な小人だと思っていた敵が、今やタヂカラオにも劣らぬ「物理の化身」として立ち塞がっているのだ。

「……、……。……スクナビコナ……、……。……お前は、……『定義』を……弄んでいるのか……」

 幻術の深淵、重力の檻の中でもがくイワレビコが、低く呻いた。

 彼の視界はいまだ歪み、天地が逆転している。だが、失われた左腕の「断面」が、かつてないほど激しくズキズキと疼いていた。

 

 幻肢痛げんしつう

 存在しない腕が、実在する熱を感じている。

「……、……。……そうか。……お前が……空間を広げているなら……、……俺は……」

 イワレビコは、あえて「右目」を閉じた。

 正常な視界を捨て、左腕の「失われた神経」が叫ぶ、空間の歪み(ノイズ)だけを逆探知する。

 

 見えた。

 膨張したスクナビコナの足元。空間が最も引き伸ばされ、脆弱になっている「繋ぎ目」が。

「……ニニギッ!! 左三歩、……盾を斜めに突けッ!! ……そこが、……このデカブツの……『影』だッ!!」

「……殿ッ!? ……分かった、……やってやるぜッ!!」

 ニニギが、サクヤを守りながら地を蹴った。

 巨大化したスクナビコナの足元へ、不動の盾を楔のように叩き込む。

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