第61話
アマテラスが消滅し、偽りの夜が明けたマカツ。
そこにあったのは、勝利の美酒ではなく、焼け焦げた大地の臭いと、あまりに重い「静寂」だった。
「……、……。……左腕が、……痒いな」
イワレビコは、肩の付け根から失われた「かつての義手」の場所を、無意識に右指でなぞっていた。
神を呑み込み、太陽を喰らった代償。彼の肉体には、もはや人としての熱はなく、ただ冷徹な重力が、その魂を地面へと繋ぎ止めている。
「……殿。……そんな顔をするな。……あんたが笑わなきゃ、……死んだ奴らが浮かばれねえ」
ニニギが、包帯にまみれた身体を引きずりながら、イワレビコの隣に座った。サクヤとイワナガ、二人の幼馴染は後方で負傷者の看病に回っている。
「……、……。……ニニギ。……神を殺せば、……空が広くなると思っていた。……だが、……実際はどうだ。……空いた席を狙って、……地を這う影が、……騒ぎ始めてやがる」
イワレビコが視線を向けたのは、西の空。
そこには、高天原の白銀の光とは異なる、どす黒く、しかし力強い**「黄昏の雲」**が立ち込めていた。
「……注進ッ!! ……西より早馬!! ……筑紫の磐井造殿より、……火急の報です!!」
伝令の声が、静寂を切り裂く。
運び込まれた書状には、ただ一言、血の滲むような文字で記されていた。
『出雲、動く。地の神、万の妖を率いて、……日の本を飲み込まんとす』
「……、……。……そうか。……あのおじいさん、……ついに、隠居を辞める気か」
イワレビコの黄金の瞳が、暗く、熱く燃え上がる。
神殺しの戦争は、終わったのではない。
より泥臭く、より救いのない、**「土地の奪い合い」**という名の本質的な地獄へと突入したのだ。




