第34話
重力が狂い、瓦礫が宙を舞う砦の広場。
イワレビコがタヂカラオの巨体に肉薄するその傍らで、もう一つの死線が引かれていた。
「……目障りな盾だ。天の光を遮る不純物め」
ニギハヤヒが空中で指を弾く。
背後に浮遊する十種神宝のうち、二枚の円盤――『死返玉』が、意志を持つ捕食者のようにニニギへ向かって射出された。
「……っ、上等だ! 綺麗な顔して、吐く言葉はドブネズミ以下だな!」
ニニギが、隼人の黒石で補強した大楯を正面に構える。
円盤が接触した瞬間、火花が散るのではない。黒石の表面が、円盤の放つ「停止の理」によって、一瞬で白く結晶化し、崩れ落ちた。
「が、あぁッ……!?」
衝撃ではない。盾を「存在ごと消去」されかける感覚に、ニニギの腕の骨が悲鳴を上げる。だが、彼は退かない。
ニニギは盾の裏に隠していた直刀を抜き放ち、円盤の「面」を力任せに叩き落とした。
「ほう。……神具の理を、ただの鉄で押し戻すか」
ニギハヤヒの瞳に、冷徹な計算が走る。
彼は残りの円盤をすべて展開し、ニニギを取り囲むように配置した。
「『道返玉』。……空間を繋ぎ、逃げ場を断つ」
円盤同士が光の糸で結ばれ、ニニギの周囲に「絶対切断圏」が形成される。
一歩でも動けば、肉体はサイコロ状に切り刻まれる。ニニギは、自分の鼻先数センチを通過する光の糸の熱に、冷や汗を流した。
「……ニニギと言ったか。……お前は、なぜ戦う? その王を守ったところで、人間に残るのは神の怒りによる絶滅だけだ」
「……、……。……難しいことは分からねえよ」
ニニギは、盾を構えたまま、不敵に笑った。
口の端から血を流しながら、その瞳にはイワレビコと同じ、泥臭い「生」への執着が宿っている。
「……だがな、あいつは俺の『隣』に立ってくれたんだ。……神様みたいに空の上から見下ろすんじゃなく、同じ泥を啜って、同じ痛みを抱えてよ。……なら、俺の盾は、あいつのためにある。……それ以外に理由がいるかよッ!!」
ニニギが咆哮した。
彼は死の檻を恐れず、自ら前方へと踏み出した。
――覚醒・【不動の牙】!!
ニニギの全身から、黄金色の闘気が噴き出す。
彼が掲げた大楯が、十種神宝の「切断」を無理やり飲み込み、逆に円盤を盾の表面に「吸着」させた。隼人の黒石と、マカツの鉄。それにニニギの執念が混ざり合い、一時的に神の理を凌駕する「絶対防御の磁場」を生み出したのだ。
「……何だと!? 神具の制御が……乗っ取られた!?」
「……綺麗な円盤だな! ……俺の盾の、飾りに丁度いいぜッ!!」
ニニギが盾を突き出し、そのままニギハヤヒへ向かって肉弾突撃を仕掛ける。
空中の支配者であったニギハヤヒが、初めて地上に引きずり下ろされようとしていた。




