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神を殺す王 ―神武東征ダークファンタジー―  作者: 水前寺鯉太郎
神軍戦争

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33/75

第33話

その光景は、戦いというよりは「蹂躙」に近かった。

 巨神タヂカラオが、ひしゃげた城門の残骸をただの一蹴りで粉砕し、砦の内部へと踏み込んだ。その一歩ごとに、石造りの床が爆発するように弾け、守備兵たちは震動だけで吹き飛ばされる。

 彼は武器を持たない。その巨大な「拳」こそが、神が鋳造した最強の攻城兵器だった。

「逃げるな、不浄ども。……我がてのひらの中で、ちりとなる栄誉を与えよう」

 タヂカラオの三つの目が、イワレビコを捉えた。

 同時に、上空ではニギハヤヒが十枚の円盤――十種神宝を、蓮の花のように展開させていた。

「タヂカラオ、余興は終わりだ。……速やかに『神殺し』を処理し、この地の魂を回収する」

「……、……」

 イワレビコは、黒い義手の指を一本ずつ確かめるように動かした。

 ギチ、ギチ……。

 義手の隙間から、黄金色の蒸気が噴き出す。神具である十種神宝が放つ「聖なる気配」に、彼の「不浄の腕」が激しく拒絶反応を起こし、焼けるような激痛が走っていた。

「……ニニギ。……生存者を、奥の隠し通路へ誘導しろ」

「殿! ですが、こいつら二人は……!」

「……、……。……行け。……俺が、こいつらの『重さ』を引き受ける」

 イワレビコが槍を掲げた瞬間、ニギハヤヒの円盤が三枚、音もなく放たれた。

 『蛇比礼おろちのひれ』――。

 円盤が通過した空間が、捩じ切られた布のように歪み、イワレビコの視界が狂う。

 

「……ッ!」

 イワレビコは、義手の左腕を前方へ突き出した。

 

 ――重圧・防壁プレッシャー・ウォール

 義手から放たれた深海の重圧が、歪んだ空間を強引に押し戻し、円盤の軌道を逸らす。

 だが、その直後。

 頭上から、太陽を遮るような巨大な影が降り注いだ。

 タヂカラオの拳。

 それは、ただの打撃ではない。空気を圧縮し、熱エネルギーへと変えた「隕石」の落下だった。

 ――ドォォォォォォォォンッ!!

 砦の中心部が、一撃で消滅した。

 土煙が晴れた跡に残されたのは、深さ数メートルのクレーター。

 イワレビコは、義手の左腕でその巨拳の「指先」を受け止めていた。

「……、……!」

 義手の鋼が、タヂカラオの筋力に耐えかねて悲鳴を上げる。

 イワレビコの足元の地面は膝まで陥没し、全身の血管が破裂しそうなほどの負荷がかかっていた。

 

「ほう。……我が指の一突きを、その細い腕で支えるか。……だが、王よ。……支えるだけで、何ができる?」

 タヂカラオが、もう一方の拳を振り上げる。

 さらに、ニギハヤヒの残りの円盤が、イワレビコの死角から「停止の光」を収束させていた。

「……、……。……支えるだけだと……言った覚えは……ないぞ」

 イワレビコの灰色の左目が、赤黒く変色した。

 彼は、タヂカラオの巨拳に押し潰されながらも、右手の槍【天の沼矛】を、あえて「真下」――自らの足元の地面へと突き立てた。

「……ニギハヤヒ。……お前の円盤は、空気を切る。……タヂカラオ。……お前の拳は、大地を砕く」

 イワレビコの義手が、黄金色に発光し、脈動を始めた。

「……なら、この場の『重力』を……根こそぎ狂わせれば……どうなると思う?」

 ――深淵覚醒・浮獄うきごく

 次の瞬間、砦を囲む全ての重力法則が反転した。

 数トンある瓦礫が空へと舞い上がり、タヂカラオの巨躯が、その自重に翻弄されてバランスを崩す。

 空中のニギハヤヒも、予期せぬ引力の乱れに円盤の制御を失った。

 混沌とする無重力の戦場。

 イワレビコだけが、槍を大地に固定し、ただ一人、地に足を着けていた。

「……、……。……一万の命を預かった王を……『軽い』と思うなよ」

 イワレビコが、無防備に浮き上がったタヂカラオの「膝」を狙い、槍を構えた。

 反撃の幕が、上がる。

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