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8話 奴隷の少女

広場の中央。


そこには檻が並んでいた。


鉄の格子。

鎖。

そして――


中にいる人。


「奴隷市よ」


アリアが小さく言った。


俺は思わず顔をしかめる。


「本当にあるんだな……」


「珍しくはないわ」


アリアは落ち着いた声で言う。


「この世界じゃ普通の制度よ」


分かってはいる。


でも。


目の前で見ると、胸の奥が重くなる。


檻の中には色んな人がいた。


大人。

子供。

獣人。


その中で。


一人の少女が目に入った。


猫耳。


細い体。


腕には傷。


足には鎖。


ボロボロの服。


まるで商品みたいに座らされている。


「……」


奴隷商が声を張り上げた。


「見てくれ!」


「安くしてるぞ!」


「獣人の奴隷だ!」


「働き者だぞ!」


周囲の人が檻を覗き込む。


値段を聞く者もいる。


まるで家畜の品定めだ。


そのとき。


肩の上でリリィが小さく言った。


「……ユウ」


「ん?」


「この子」


リリィは少し驚いた顔をしている。


「精霊の気配がする」


「え?」


「しかも……」


「私が見えてる」


その瞬間だった。


檻の中の猫耳少女が顔を上げた。


そして――


まっすぐこちらを見る。


正確には。


俺の肩。


そこにはリリィがいる。


少女の目が大きくなった。


「……精霊さま」


小さな声だった。


でも確かに言った。


リリィが固まる。


「やっぱり……」


俺は檻に近づく。


アリアが少し驚く。


「ユウ?」


猫耳の少女は怯えた目でこちらを見ている。


でも。


リリィから目を離さない。


俺は奴隷商を見る。


「この子」


「いくら?」


奴隷商がニヤッと笑う。


「お、旦那」


「見る目あるな」


「そいつは獣人だ」


「安くして金貨一枚だ」


「……」


俺は一瞬だけ黙る。


(高いのか?)


(安いのか?)


この世界の金の価値が分からない。


俺は少し体を寄せて、アリアに小声で聞いた。


「……なあ」


「何?」


「金貨って」


「銀貨何枚?」


アリアは一瞬きょとんとした。


それから小声で答える。


「銀貨十枚よ」


「そうか」


高いのか安いのか、まだ分からない。


でも。


そんなことはどうでもよかった。


俺はポケットから銀貨を十枚出した。


「買う」


アリアが目を見開く。


「ユウ!?」


奴隷商はニヤッと笑って銀貨を受け取る。


「毎度あり」


鍵を取り出す。


ガチャリ


檻の扉が開いた。


猫耳の少女はゆっくり立ち上がる。


足の鎖も外された。


自由になったはずなのに。


まだ怯えている。


俺はできるだけ優しい声で言った。


「もう大丈夫だ」


少女は震えながら答える。


「……ミーナ」


「それが私の名前です」


リリィが小さくつぶやく。


「ミーナ……」


ミーナは再び俺の肩を見る。


リリィを見つめている。


「本当に……いる」


「精霊さま……」


アリアが首を傾げる。


「誰と話してるの?」


ミーナは慌てて口を閉じる。


リリィが小さく言った。


「この子、精霊に愛されてる子だわ」


「だから私が見えるの」


「そんなことあるのか」


「珍しいけどね」


そのとき。


ミーナがふらついた。


長く立っていなかったのかもしれない。


俺は慌てて支える。


その様子を。


エリシアは少し離れた場所から見ていた。


何も言わない。


ただ静かに。


ミーナを見ている。


ミーナの手が小さく震える。


そのとき。


エリシアが一歩だけ近づいた。


そして。


そっと。


ミーナの片手を握った。


何も言わない。


ただ。


静かに手を握るだけだった。


ミーナは少し驚いた顔をする。


けれど。


その手を振り払うことはなかった。


その様子を見て。


アリアが小さく息を吐いた。


「……とりあえず」


「その傷、治さないとね」


俺はアリアを見る。


「治せる場所ある?」


「薬師の店ならあるわ」


「腕のいいエルフよ」


「名前は?」


「ティアナ」


「この町じゃ有名な薬師」


俺はミーナを見る。


「行こう」


ミーナは少し迷ってから、うなずいた。


こうして俺たちは。


町の薬師――


エルフのティアナの店へ向かうことになった。


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― 新着の感想 ―
アスハネ様、コメントを失礼します。 奴隷市は胸に迫るものがありますね。 その場面を見事に描き切ったことに感心しました。 エルフからどう展開していくのか楽しみです。 ゆっくり楽しませていただきますね。 …
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