9話 エルフの薬師、ティアナ
アリアに案内されて、俺たちは町の通りを進んでいた。
「この辺よ」
アリアが指さした先には、小さな店があった。
木の看板。
そこには薬草の絵が描かれている。
「ここ?」
「ええ」
アリアは扉を開けた。
カラン、と鈴が鳴る。
店の中には乾いた薬草の匂いが広がっていた。
棚には瓶が並んでいる。
乾燥した葉。
粉末。
色のついた液体。
いかにも薬屋だ。
奥から声が聞こえた。
「いらっしゃい」
現れたのは――
長い銀髪の女性。
耳が長い。
エルフだ。
落ち着いた目でこちらを見る。
「珍しいわね、アリア」
「怪我?」
「違うわ」
アリアはミーナを見る。
「この子」
ティアナの視線がミーナへ向く。
一瞬で表情が変わった。
「……ひどい傷ね」
ミーナは少し身をすくめる。
ティアナはゆっくり近づいた。
「見せて」
ミーナは恐る恐る腕を差し出す。
鞭の跡。
古い傷。
かさぶた。
ティアナは静かに息を吐いた。
「奴隷ね」
誰も否定しなかった。
ティアナはミーナの目を見る。
「痛い?」
ミーナは小さくうなずく。
「大丈夫」
ティアナは言った。
「治るわ」
ミーナは少し驚いた顔をする。
ティアナは薬棚から瓶を取り出した。
淡い緑色の液体だ。
「少し染みるわよ」
布に染み込ませて、傷に当てる。
ミーナが小さく震える。
「……っ」
「我慢して」
ティアナの手つきはとても丁寧だった。
傷を洗い、薬を塗り、包帯を巻く。
その作業は慣れている。
数分後。
ミーナの腕は綺麗に包帯で覆われていた。
「今日は無理しないこと」
ティアナが言う。
「ちゃんと食べて、休めば治る」
ミーナは小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます」
ティアナは今度、俺を見る。
「あなたが買ったの?」
「ああ」
「優しいのね」
少し意外そうな顔だった。
アリアが横で言う。
「この人、変わってるのよ」
「初対面の孤児も拾うし」
ティアナの視線がエリシアへ向く。
エリシアは少し背筋を伸ばした。
「エリシアです」
丁寧に頭を下げる。
その仕草を見て、ティアナは少し目を細めた。
「貴族?」
エリシアは少し間を置いて答えた。
「……元、です」
ティアナはそれ以上は聞かなかった。
「なるほどね」
それだけ言う。
そしてミーナを見る。
「今日は安静にしておきなさい」
ミーナはうなずいた。
俺はティアナを見る。
「治療代は?」
「薬代だけでいいわ」
思っていたより安かった。
俺は銀貨を渡す。
ティアナはそれを受け取りながら言った。
「ちゃんと食べさせてあげて」
「痩せすぎ」
ミーナが少し恥ずかしそうに下を向く。
店を出ると、外は夕方だった。
空がオレンジ色に染まっている。
アリアが空を見上げる。
「……そろそろ夜ね」
「え?」
「森まで帰るんでしょ?」
「そうだけど」
アリアは腕を組んだ。
「今からだと夜になるわ」
「暗い森は危ない」
それは確かにそうだ。
ミーナも疲れている。
エリシアも長く歩いていない。
アリアが言った。
「今日は宿に泊まりましょう」
「町に宿屋あるから」
「明日の朝出ればいい」
それが一番良さそうだ。
俺はうなずく。
「そうしよう」
こうして俺たちは。
町の宿屋に泊まることになった。
そしてその夜。
俺の部屋のドアが――
静かにノックされることになる。




