71話 道中
翌朝。
ルークスの外れ。
乗り合い馬車の停留所は、すでに人で埋まっていた。
「多いね」
アリアが小さく言う。
商人。
冒険者。
荷物を抱えた旅人。
それぞれの目的を持って、同じ場所に集まっている。
「テルー行きか?」
御者が声を張る。
数人が手を上げる。
ユウたちもその中に入った。
「二人だ」
ユウが短く告げる。
「乗れ」
簡単なやり取り。
それで十分だった。
荷台に乗る。
木製の簡素な作り。
座る場所を確保して、落ち着く。
「思ったより普通だね」
アリアが言う。
「ああ」
特別なものはない。
ただの移動手段。
やがて馬車が動き出す。
街を離れる。
石畳が土へ変わる。
「……外、久しぶりだね」
アリアがぽつりと呟く。
「そうだな」
森とは違う景色。
開けた道。
遠くまで続く視界。
しばらくは、何も起きなかった。
揺れと、車輪の音。
それだけが続く。
「テルーに行くのか?」
向かいに座っていた男が声をかけてきた。
商人風だ。
荷物が多い。
「ああ」
ユウが答える。
「やめとけ」
即答だった。
アリアが眉を上げる。
「いきなりだね」
男は苦笑する。
「今、あそこは空気が悪い」
「採掘止まってるって話は?」
アリアが聞く。
「ああ、それもある」
男は声を落とした。
「事故が続いてる」
「しかも、理由が分からねえ」
馬車の揺れが、わずかに重く感じる。
「魔物じゃないの?」
「違うな」
男は首を振る。
「いたら分かる」
言い切る。
「もっと……気持ち悪い何かだ」
アリアがユウを見る。
「当たりっぽいね」
「ああ」
会話はそれで終わった。
しばらくして。
馬車が急に揺れる。
「……ん?」
御者の声。
次の瞬間。
ガサッ――
道の脇の茂みが揺れた。
影が飛び出す。
「魔物だ!」
小型。
数は三。
「ちっ、こんなとこで」
御者が舌打ちする。
他の乗客が身構える。
だが、動きは遅い。
ユウが立つ。
一歩。
踏み出す。
次の瞬間。
――消えた。
気付いた時には、終わっている。
魔物はすでに倒れていた。
「……は?」
誰かが声を漏らす。
ユウは何事もなかったように戻る。
座る。
「進め」
短く言う。
御者が慌てて手綱を引く。
馬車は再び動き出した。
静けさ。
誰も何も言わない。
やがて、ぽつりと。
「……今の、何だ?」
答えは返らない。
アリアが小さく笑う。
「まあ、気にしないで」
それだけだった。
馬車は進む。
目的地は変わらない。
鉱山都市テルー。
そこに、答えがある。




