70話 条件
ティアナの一言で、空気が締まる。
「条件があるわ」
静かに告げられたそれに、ユウは迷わず返す。
「内容は」
ティアナはすぐには答えなかった。
一度、考えるように視線を外す。
「簡単な話じゃないわよ」
「構わない」
即答だった。
アリアが横で小さく息を吐く。
「まあ、そう言うよね」
ティアナは肩をすくめた。
「鉱山都市テルー」
もう一度、その名前を口にする。
「最近、採掘が止まってるの」
店内に、わずかな静けさが落ちる。
「原因ははっきりしてない」
「事故が続いたって話もあるし、魔物って噂もある」
少しだけ声を落とす。
「でも――それだけじゃない」
視線が戻る。
「嫌な感じがするのよね」
アリアが眉をひそめる。
「それって……」
ティアナは小さく頷いた。
「断定はしないけど」
「歪みの残りみたいなもの、かもしれない」
ユウの目がわずかに細くなる。
完全に無関係ではない。
「で?」
短く促す。
「その原因を潰してきなさい」
はっきりと言い切る。
「それができたら――紹介してあげる」
アリアが確認する。
「ドワーフ?」
「ええ」
ティアナは頷く。
「一人、腕のいいのがいる」
「ただし」
少しだけ笑う。
「偏屈よ」
「知ってる」
ユウが返す。
アリアも苦笑する。
「だろうね」
ティアナは続けた。
「腕は確か。でも気分屋」
「興味がなければ話すらしない」
そこで一度、言葉を切る。
「だから――これを使いなさい」
引き出しを開け、小さな封筒を取り出す。
ユウの前に差し出した。
「紹介状よ」
アリアが覗き込む。
「へえ」
「対象はテルーにいるドワーフ」
「ただし」
ティアナの声が少しだけ強くなる。
「そのまま渡しても意味はないわ」
一拍。
「問題を解決した後で渡しなさい」
ユウは黙って聞く。
「そうすれば――少なくとも無視はされない」
十分だった。
ユウは封筒を受け取る。
「やる」
短い言葉。
だが、それで決まる。
アリアが肩をすくめる。
「まあ、そうなるよね」
ティアナは小さく息を吐いた。
「……本当に行くのね」
確認のような声音。
「ああ」
迷いはない。
ティアナは少しだけ目を細める。
「なら、これも持っていきなさい」
小さな袋を差し出す。
中には、数本の小瓶。
「簡易の回復薬と解毒」
「一応ね」
「助かる」
ユウが受け取る。
アリアが軽く笑う。
「準備いいね」
「商売だから」
ティアナは淡々と返す。
少しの沈黙。
そのあと、ぽつりと落ちる。
「……無茶しないでよ」
いつもより、少しだけ柔らかい声。
ユウは何も言わない。
ただ、頷いた。
それで十分だった。
アリアが振り返る。
「じゃ、行こうか」
「ああ」
扉へ向かう。
背後から声が飛ぶ。
「テルーは荒れてるわよ」
足は止まらない。
「気をつけなさい」
ユウはそのまま外へ出た。
街の喧騒が戻る。
「……歪み、ね」
アリアが小さく呟く。
「ああ」
完全に無関係ではない。
ユウは前を見る。
「さっさと終わらせる」
目的は、はっきりしている。




