6話 初めての町
朝食の木の実を食べ終わったころ。
アリアが言った。
「ところでユウ」
「ん?」
「この辺の地理、知らないわよね?」
「……まあ」
正直、まったく知らない。
ここがどこかも分からない。
「一番近い町なら、半日くらいの距離にあるわ」
「町!?」
思わず身を乗り出す。
「あるのか」
「あるわよ」
アリアは少し笑った。
「人間が住んでる世界なんだから」
そりゃそうか。
「そこに行けば」
アリアは指を折りながら言う。
「食料も買えるし」
「服もあるし」
「道具もある」
「……なるほど」
確かに必要だ。
今の俺の生活は
家一軒
畑少し
木の実
だけだ。
「行く?」
アリアが聞く。
「行く」
即答だった。
リリィが肩の上で小声で言う。
「どうするの?」
「何が?」
「お金」
「……」
そうだった。
俺にはお金がない。
この世界の通貨も知らない。
俺は少し考える。
そして小さくつぶやく。
「……クリエイトブック」
本が現れる。
アリアは外に出て準備をしている。
今なら大丈夫。
俺は素早く書いた。
『この世界で一般的に使われている銀貨が数枚、机の上に置かれている』
文字が光る。
次の瞬間。
チャリン
机の上に銀貨が現れた。
「おお……」
俺は思わず声を出す。
リリィがニヤッと笑う。
「やっぱりずるい能力ね」
「作者特権だ」
銀貨をポケットに入れる。
これでなんとかなるだろう。
外に出ると、アリアが待っていた。
「準備できた?」
「うん」
「じゃあ行きましょう」
俺たちは森の中の道を歩き始めた。
歩きながらアリアが聞く。
「そういえばユウ」
「ん?」
「冒険者じゃないのよね?」
「違う」
「商人でもないし」
「違う」
「じゃあ何してる人?」
「……」
困った。
本当のことは言えない。
「物書き」
「え?」
「物語を書く仕事」
アリアは目を丸くした。
「そんな仕事あるの?」
「まあ……趣味みたいなもの」
「変わってるわね」
「よく言われる」
リリィが肩で笑っている。
森を抜けて、少し丘を越える。
そのとき。
アリアが指をさした。
「見えてきたわ」
遠くに石の壁が見えた。
その内側に広がる建物。
煙突から上がる煙。
人の声。
「……町だ」
俺は思わずつぶやく。
異世界に来てから、初めて見る
人の集まり。
アリアが言った。
「ようこそ」
「冒険者の町、ルークスへ」
こうして俺は――
初めての町に足を踏み入れることになった。
そしてこの町で。
俺はまだ知らない。
この先
鍛冶屋
薬師
商人
そして――
未来の住民たちと出会うことを。




