56話 本気
静寂。
戦いの後とは思えないほど、森は静かだった。
「……逆に気味悪いな」
カイルが呟く。
「さっきまであんだけ来てたのによ」
「引いたからこそ、よ」
ティアナが言う。
「準備してる」
ガイアが頷く。
「次で決めに来るな」
「だろうな」
レナが短く返す。
拠点内では、すでに後処理が始まっていた。
エリシアが指示を飛ばす。
「怪我人は休ませて」
「動ける人は修繕に回って」
「無理はしないこと」
「了解!」
ミーナが元気よく返す。
「水持ってくるね!」
走っていく背中を見て、カイルが小さく笑った。
「……ほんと、変な場所だなここ」
「悪くないでしょ」
アリアが言う。
「まあな」
カイルは肩をすくめる。
「居心地はいい」
一瞬だけ、空気が緩む。
だが。
長くは続かない。
「……来る」
ユウが小さく言った。
その声で、全員の意識が戻る。
森の奥。
何も見えない。
だが。
「気配、濃くなってる」
ティアナが低く言う。
「さっきより、はっきりと」
「隠す気がねえな」
ガイアが剣を握る。
「いや」
ユウが首を振る。
「隠す必要がないだけだ」
カイルが眉をひそめる。
「どういう意味だよ」
「見せても問題ないってことだ」
レナが息を吐く。
「余裕ってわけね」
「……ムカつくな」
カイルが笑う。
だが、その目は笑っていない。
地面が、わずかに揺れる。
ズン……
「……来たぞ」
今度は、隠れていない。
森が大きく揺れる。
影が現れる。
「多い……!」
レナが言う。
数が違う。
さっきの比じゃない。
だが――
「一直線だ」
ガイアが言う。
迷いがない。
狙いがある。
「またあそこか」
カイルが笑う。
「学習してんのか、してねえのか分かんねえな」
「……違う」
ティアナが呟く。
「分かってて、来てる」
空気が変わる。
「は?」
「罠だと知ってる可能性がある」
全員が黙る。
「……それでも来るってことか?」
ダンが言う。
「ええ」
ティアナが頷く。
「それでも突破できると判断してる」
ガイアが低く笑った。
「上等だ」
剣を構える。
「受けてやる」
ユウは森を見る。
(……来るな)
奥。
闇の中。
“それ”がいる。
はっきりと分かる。
そして――
前に出た。
今までより、速い。
「……来るぞ」
ユウが言う。
その瞬間。
空気が変わる。
魔物たちが、一斉に加速した。
ドンッ!!
結界に激突。
狙いは同じ。
一点。
ミシッ――
「早い!」
ダンが叫ぶ。
二撃目。
間がない。
ドォンッ!!
ヒビが一気に広がる。
「やばいぞ!」
カイルが踏み込む。
三撃目――
その前に。
“それ”が動いた。
「……っ!?」
誰よりも速く。
一直線に、突っ込む。
ドゴォンッ!!!
衝撃。
今までと違う。
重い。
深い。
バキンッ――
「割れた!!」
叫びが上がる。
結界の一部が、崩れる。
魔物が流れ込む。
「来たぞ!!」
ガイアが吠える。
戦線が、一気に内側へ。
ミーナが飛び出す。
「来ないで!!」
爪が走る。
カイルが続く。
「今度は力押しかよ!」
レナが撃ち抜く。
「数が違う!」
ダンが支える。
だが――
押される。
明らかに。
「まずい!」
その中で。
ユウは一歩、前に出た。
(……想定内だ)
罠は見抜かれている。
それでも来た。
なら――
「次の段階だ」
小さく呟く。
ティアナが横で言う。
「……やるのね」
「最小限でな」
「任せるわ」
短い会話。
それで十分だった。
ユウは目を閉じる。
(……ここで止める)
開く。
「リリィ」
『了解、次だね』
軽い声。
だが。
やることは一つ。
ユウは前を見る。
流れ込む魔物。
その奥。
“それ”。
(……終わらせる)
その一歩を、踏み出した。




