53話 侵攻
夜。
空気が重い。
誰もが分かっている。
――来る。
「……まだか」
カイルが低く呟く。
「焦るな」
ガイアが返す。
だが、その声に余裕はない。
森は静かだ。
静かすぎる。
「……動いた」
ティアナが言う。
その一言で、全員の意識が研ぎ澄まされる。
「来るわ」
確信だった。
次の瞬間。
――ゾワッ
空気が“押し寄せる”。
「構えろ!!」
ガイアの声が響く。
森が揺れる。
影が現れる。
だが――
「……少ない?」
レナが眉をひそめる。
昨日より、明らかに数が少ない。
「おい、どういうことだ?」
カイルが構えたまま言う。
魔物たちは走らない。
ゆっくりと、歩いてくる。
一直線。
迷いなく。
「……変だな」
ガイアが低く言う。
「来るぞ」
ドンッ
結界にぶつかる。
だが、勢いがない。
押し込もうともしない。
「……様子見か?」
ダンが呟く。
誰も答えない。
違和感だけが積み重なる。
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その時だった。
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魔物たちが、ぴたりと止まった。
「……は?」
カイルが声を漏らす。
次の瞬間。
全ての魔物が――
同時にこちらを見た。
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沈黙。
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「……なんだよ、それ」
レナの声が僅かに揺れる。
視線が揃っている。
偶然じゃない。
「……来る」
ティアナが低く言う。
その奥。
闇の中から、“それ”が現れた。
ゆっくりと。
一歩ずつ。
「……昨日と違う」
ガイアが呟く。
形が、整っている。
歪みはある。
だが――
「……見てる」
ミーナが小さく言った。
“それ”の視線。
まっすぐに、こちらへ向いている。
「……あれ、狙ってるぞ」
カイルの声が低くなる。
何を、とは言わない。
だが全員が理解した。
拠点だ。
人だ。
「……来るぞ」
ガイアが構える。
だが。
“それ”は、動かなかった。
拳も振り上げない。
ただ、見ている。
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観察している。
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「……は?」
カイルが苛立つ。
「やる気あんのかよ」
誰も答えない。
その沈黙が、逆に重い。
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“それ”が、一歩前に出る。
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ドンッ
結界に触れる。
叩かない。
触れただけ。
「……調べてる?」
ダンが呟く。
「……ええ」
ティアナが答える。
その声は低い。
「強度、反応……全部」
空気が凍る。
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“それ”の視線が、わずかに動く。
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人。
武器。
配置。
順番に、なぞるように。
「……やめろ」
カイルが吐き捨てる。
本能的な嫌悪だった。
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ユウは動かない。
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(……完全に、知ってる動きだな)
戦いじゃない。
これは――
(……情報収集)
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「ユウ」
ティアナが呼ぶ。
「……まだ動かないで」
先に言った。
「分かってる」
短く返す。
ここで動けば。
見せることになる。
(……読まれる)
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“それ”が、ゆっくりと拳を上げる。
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全員が身構える。
だが――
振り下ろさない。
止めた。
「……は?」
カイルが困惑する。
次の瞬間。
拳が、わずかに横へズレた。
そして――
ドンッ
別の位置を叩く。
「……っ!?」
さっきとは違う場所。
結界の“弱い部分”。
ミシッ――
小さく、軋む。
「場所、変えた……?」
レナの声が震える。
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一度で終わらない。
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二度。
三度。
叩く場所が、微妙にズレる。
「……試してる」
ティアナが確信を持って言う。
「一番効く場所を」
「……ふざけんなよ」
カイルの声が低くなる。
怒りではない。
恐怖だ。
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そして。
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“それ”が、動きを止めた。
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一瞬。
ユウと目が合う。
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(……気付いたな)
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次の瞬間。
“それ”は、ゆっくりと後退した。
魔物たちも同時に引く。
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撤退。
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静寂が戻る。
だが。
誰も動けない。
「……なんだよ、あれ」
カイルが呟く。
「強いとかじゃねえ」
レナが言う。
「……気持ち悪い」
「ええ」
ティアナが頷く。
「戦ってない」
短く、言い切る。
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ユウは森を見た。
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(……まずいな)
これは。
時間をかけるほど、詰む。
「……次は」
小さく呟く。
「本気で来る」
その声に、迷いはなかった。




