4話 倒れていた冒険者(修正版)
「……た、助けて」
そう言って、少女は地面に倒れた。
「ええ!?」
俺は慌てて駆け寄る。
肩の上では、リリィが腕を組んで様子を見ていた。
「どうするの?」
「どうするって、助けるだろ!」
小声で返す。
「誰に言ってるの?」
「……いや、なんでもない」
一瞬だけ間が空く。
アリアは怪訝そうな顔をしたが、それどころではないらしい。
近くで見ると、少女はかなりボロボロだった。
革の鎧は傷だらけ。
腕には浅い切り傷もある。
それでも腰には剣を下げている。
どう見ても――
冒険者だ。
「大丈夫か?」
俺が声をかけると、少女はゆっくり目を開けた。
金色の髪。
整った顔立ち。
強そうな目をしているけど、今はかなり弱っている。
「ここは……?」
「森の中だ」
少女は小さく息を吐いた。
「……よかった」
「魔物に追われて……逃げてきたの」
「魔物!?」
俺は慌てて周囲を見る。
そのとき。
「大丈夫よ」
頭の上から声。
リリィだ。
「この辺にはもう気配ないわ」
「本当か?」
「妖精なめないで」
小さい胸を張るリリィ。
「……助かる」
思わず小さくつぶやく。
「え?」
アリアが反応する。
「今、何て?」
「いや、なんでもない」
すぐにごまかす。
アリアは少しだけ眉をひそめた。
(……誰かと話してる?)
そんな表情だった。
「とりあえず家に運ぼう」
「家……?」
「すぐそこ」
俺は少女の肩を支えて立たせる。
数歩歩くと――
森の中に建つ木の家が見えた。
少女ははっきりと驚いた顔をする。
「森の中に……家?」
「まあ、いろいろあって」
説明はあとだ。
俺は少女を中に連れていく。
ベッドに寝かせて、水を渡した。
少女は少し落ち着いた様子で起き上がる。
「……ありがとう」
「気にしなくていい」
少し沈黙が流れる。
その沈黙の中で――
アリアは部屋を見回していた。
壁。
床。
家具。
新しすぎる。
使われた形跡がない。
「……ねえ」
「ん?」
「ここ、本当にあなたの家?」
「そうだけど」
「……いつから?」
少しだけ間。
「昨日」
「昨日!?」
アリアは思わず声を上げる。
「そんなことある?」
「まあ……事情があって」
笑ってごまかす。
だがアリアの視線は鋭いままだ。
(嘘ではない……でも、何かがおかしい)
そんな顔だった。
「私はアリア」
「冒険者をしてるの」
「ユウだ」
俺は少しだけ間を置く。
「……一人でここにいる」
(リリィのことは言わない)
アリアはその言葉に少しだけ違和感を覚えたようだった。
さっきの独り言。
この家。
この状況。
だが、今は深く追及しない。
「怪我は大丈夫そうか?」
「うん、大丈夫」
アリアは腕を動かしてみる。
「少し休めば動けると思う」
「それならよかった」
そのとき。
リリィが俺の耳元でささやく。
「ねえユウ」
「なんだ?」
「この子、いいんじゃない?」
「……何が?」
「町づくり」
俺は小さく息を吐く。
そうだった。
俺はこの場所に
町を作るつもりなんだ。
俺はアリアを見る。
「行く場所あるのか?」
アリアは少し考えてから答えた。
「……特にはないかな」
「依頼の帰りだったし」
「そうか」
俺は窓の外を見る。
森。
家。
小さな畑。
まだ何もない場所。
「ここから町を作る」
アリアが目を丸くする。
「町?」
「最初はこの家だけだけど」
「家を増やして」
「人も増やして」
「村にして」
少しだけ言葉を区切る。
「そのうち町にする」
(……やっぱりこの人、おかしい)
アリアの中で、確信に近い違和感が生まれる。
でも――
嫌な感じはしない。
それどころか。
少しだけ興味が湧いた。
「ユウって、変わってるわね」
「よく言われる」
アリアはベッドから立ち上がる。
そして言った。
「でも……面白そう」
「面白そう?」
「ええ」
アリアは少し笑って言う。
「しばらくここにいてもいい?」
「もちろん」
こうして。
家一軒から始まった場所に――
二人目の住人が増えた。
だがその裏で。
アリアの中には確かに残った。
――この男は、何かを隠している。
その違和感が、やがて真実に繋がることになる。




