47話 満ちていく食卓
夕方。
拠点の空気に、わずかな変化があった。
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「……減ってるな」
ガイアが倉庫を見ながら言う。
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「ええ」
エリシアが頷く。
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「想定よりも早いです」
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並べられた袋。
干し肉。
保存食。
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どれも――
確実に減っていた。
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「人数が増えた分だな」
レナが腕を組む。
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「仕方ないけど、このままだと持たない」
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「どれくらいだ?」
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「数日」
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短い。
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「……どうする?」
アリアがこちらを見る。
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その視線には、焦りはない。
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でも――
判断を求めている。
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少しだけ考える。
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(拡張はまだ早い)
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(でも、ここは止められない)
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「……畑を見る」
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「畑?」
ミーナが顔を上げる。
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「もう育ってるんですか?」
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「確認だ」
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拠点の外れ。
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畑。
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整えられた土。
植えたばかりだったはずの作物。
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それが――
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「……早いな」
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芽が出ている。
それも、はっきりと。
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「普通じゃない速度ね」
ティアナが呟く。
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「環境の影響か……それとも」
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そこで言葉を切る。
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「……まあいいわ」
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完全には踏み込まない。
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「これなら」
エリシアが言う。
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「数日以内に収穫可能です」
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「間に合うか」
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「ぎりぎりですが」
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「じゃあ、それまでどうするか」
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リリィがひょこっと顔を出す。
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「ちょっと手伝う?」
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「……どの程度だ」
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「バレないくらい」
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軽い調子。
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「やりすぎるなよ」
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「分かってるって」
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少しだけ目を閉じる。
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(成長の補助)
(範囲限定)
(この畑のみ)
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静かに。
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ほんのわずかに。
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何かが“整う”。
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「……?」
ミーナが首を傾げる。
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「なんか、あったかいです」
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「気のせいじゃないか?」
カイルが言う。
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「いや、でも――」
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「……なるほどね」
ティアナが小さく呟く。
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「そういう使い方もあるのね」
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それ以上は言わない。
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数時間後。
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「……おい」
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「これ、見ろ」
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ガイアの声。
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振り向く。
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畑。
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さっきより、明らかに育っている。
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「はやっ!?」
カイルが声を上げる。
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「いやいやいや、おかしいだろ!」
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「でも、ありがたいわね」
レナは冷静だった。
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「……収穫、できそうです」
エリシアが言う。
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「やるか」
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全員が動く。
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土の匂い。
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実る作物。
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手に取る重み。
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「……すげえ」
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「ちゃんと、食い物だ」
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「当たり前でしょ」
アリアが軽く言う。
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でも、その表情は少しだけ緩んでいた。
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「配るぞ」
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収穫した分を分ける。
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新しく来た者たちにも。
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「……いいんですか」
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「ここにいるならな」
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「……ありがとう」
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夕食。
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鍋が並ぶ。
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湯気。
香り。
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「うま……」
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誰かが呟く。
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それが広がる。
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「うまい!」
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「生き返る……」
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笑い声。
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満たされる空気。
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「……なんとか、なったな」
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「ああ」
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アリアが隣に立つ。
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「今回はね」
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「分かってる」
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「でも」
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少しだけ笑う。
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「悪くないでしょ」
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「ええ」
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短く頷く。
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拠点の中。
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人が食べ、
笑い、
生きている。
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足りなかったものが、
満ちていく。
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それはただの食事じゃない。
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“この場所で生きていける”
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その証明だった。
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「……これならいけるな」
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小さく呟く。
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リリィが嬉しそうに笑った。
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「でしょ?」
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(続く)




