48話 森の奥で蠢くもの
翌朝。
空気が少し張り詰めていた。
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「……行くぞ」
ガイアが装備を整える。
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「奥まで確認する」
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「気をつけてね」
レナが短く言う。
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「昨日の感じ、普通じゃない」
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「分かってる」
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カイルが軽く笑う。
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「やばそうなら即帰る」
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「それがいいわ」
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「どこまで行くんだ?」
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「前回よりさらに奥」
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ティアナが答える。
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「原因があるなら、そこ」
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「……無理すんなよ」
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「言われなくてもな」
ガイアが軽く手を上げる。
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森の中へ。
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四人の姿が、徐々に見えなくなる。
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静けさが戻る。
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でも。
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その静けさは、どこか違った。
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「……嫌な感じだな」
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「ええ」
アリアが頷く。
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「静かすぎる」
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「何かある?」
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リリィに聞く。
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「あるよ」
即答だった。
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「でも」
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「でも?」
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「遠い」
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それだけで、十分だった。
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――数時間後。
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「……おかしい」
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森の奥。
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ガイアが足を止める。
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「気配がない」
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「さっきまであったのにか?」
カイルが周囲を見る。
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「いや、そうじゃねえ」
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ガイアは低く言う。
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「“なさすぎる”」
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「確かに」
レナも頷く。
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「魔物の気配が、途切れてる」
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「……逃げた?」
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「違うわね」
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ティアナがしゃがみ込む。
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地面に触れる。
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「流れが変」
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「流れ?」
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「気配の流れよ」
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「……集まってる?」
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小さく呟く。
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「どこかに」
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そのとき。
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「――っ!」
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カイルが振り返る。
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「今、何か……」
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気配。
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一瞬だけ。
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確かに、あった。
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「来るぞ」
ガイアが剣を構える。
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次の瞬間。
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“それ”は現れた。
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「……なんだ、これ」
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見たことがない。
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形が歪んでいる。
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魔物のようで、
でも違う。
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「気をつけて!」
レナが叫ぶ。
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それは、音もなく動いた。
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速い。
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「っ!」
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ガイアが受ける。
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「重っ……!」
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「普通じゃない!」
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ティアナが叫ぶ。
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「これ、自然発生じゃない!」
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「下がれ!」
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ガイアが押し返す。
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「カイル!」
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「分かってる!」
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一撃。
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だが――
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「硬え!?」
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刃が通らない。
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「撤退だ!」
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即決だった。
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「無理にやる相手じゃねえ!」
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「了解!」
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一斉に下がる。
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“それ”は追ってこない。
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ただ――
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じっと、こちらを見ていた。
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「……なんだよ、あれ」
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誰も答えられない。
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拠点。
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夕方。
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「戻ったか」
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全員が振り返る。
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様子を見て、すぐに分かる。
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ただ事じゃない。
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「……いた」
ガイアが短く言う。
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「見たことないやつだ」
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「魔物、なの?」
ミーナが不安そうに聞く。
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「分からねえ」
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「でも」
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「普通じゃない」
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「どこで?」
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「奥だ」
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ティアナが続ける。
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「気配が集まってる場所がある」
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「そこに、いる」
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静寂。
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「原因、か」
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「可能性は高い」
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全員の視線が、森へ向く。
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静かな森。
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でも、その奥には――
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確実に“何か”がいる。
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「……どうする?」
アリアが聞く。
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少しだけ考える。
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(放置はできない)
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(でも、まだ早い)
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「様子を見る」
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「今は、まだ」
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ティアナが頷く。
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「賢明ね」
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でも。
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その判断がいつまで通用するかは――
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分からない。
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森の奥。
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見えない場所で、
何かが動いている。
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その気配は、
確実にこちらへ近づいていた。
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(続く)




