44話 増え始める人
昼過ぎ。
拠点の中は、いつもより少しだけ騒がしかった。
「……来たぞ」
ガイアが低く言う。
その視線の先。
柵の外――森の中から、人影が現れた。
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「……人?」
ミーナが小さくつぶやく。
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三人。
装備はバラバラ。
傷もある。
――まともな状態じゃないのは一目で分かった。
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「止まれ!」
ガイアが声を張る。
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三人はびくっと体を震わせて、足を止めた。
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「……助けてくれ」
先頭の男が、かすれた声で言う。
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「魔物に追われて……仲間も、やられて……」
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そのまま、膝をついた。
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「……入れるか?」
ガイアが振り返る。
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全員の視線がこちらに集まる。
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俺は一瞬だけ考えて――
頷いた。
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「入れてくれ」
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柵の一部が開く。
三人はふらつきながら中へ入った。
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「……ここ」
一人が呟く。
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「魔物の気配が……ない?」
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「安全、なのか……?」
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その言葉に、誰もすぐには答えなかった。
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ただ一つ、確かなことがある。
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ここは――安全だ。
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「エリシア、頼む」
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「はい」
すぐに動く。
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水。
布。
簡単な処置。
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「ミーナ、手伝ってくれ」
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「はい!」
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慣れてきている。
自然と動けている。
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「……すごいな」
カイルがぽつりと漏らす。
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「前より、ちゃんとしてる」
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「当たり前でしょ」
アリアが横から言う。
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「誰かが考えてるんだから」
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ちらっとこちらを見る。
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「……まあな」
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少し離れた場所。
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「増えるわよ」
ティアナが言う。
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「こういうの」
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「ああ」
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「森の異変が続けば、避難してくる」
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「そして」
一拍置く。
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「ここは見つかる」
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否定できない。
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「どうするの?」
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「受け入れる」
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即答だった。
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ティアナは少しだけ驚いた顔をする。
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「いいの?」
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「見捨てる理由がない」
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「……甘いわね」
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「知ってる」
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でも。
それでいい。
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「ユウ」
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振り返る。
リリィがいた。
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「ちょっといい?」
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「なんだ?」
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「さっきの人たち」
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「うん」
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「結構ギリギリだったよ」
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「……そうか」
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「外、もう少し荒れてる」
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軽い口調。
でも内容は軽くない。
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「……範囲、広げるか?」
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「できるよ」
リリィはあっさり言う。
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「でも」
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「でも?」
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「人、増えるよ?」
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その意味は分かる。
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安全な場所が広がる。
↓
人が集まる。
↓
管理が必要になる。
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「……だよな」
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そのとき。
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「ちょっといい?」
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ティアナが割って入る。
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「今、“広げる”って言った?」
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……聞かれてたか。
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「まあな」
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「やめなさい」
即答だった。
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「早すぎる」
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「でも、このままだと――」
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「分かってる」
遮られる。
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「だからこそ」
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一歩近づいてくる。
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「順番を守りなさい」
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真っ直ぐな目。
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「制御、覚えたばかりでしょ」
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「……ああ」
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「なら、まずは今を維持」
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「拡張は、そのあと」
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正論だ。
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「……分かった」
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リリィが横で小さく笑う。
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「いいね、ブレーキ役」
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「助かる」
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しばらくして。
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三人の処置が終わる。
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「……助かった」
男が頭を下げる。
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「礼はする」
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「いい」
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首を振る。
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「ここにいる間は、安全だ」
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「……ここは、なんなんだ?」
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その問いに。
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少しだけ言葉を選んでから答える。
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「ただの拠点だ」
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嘘ではない。
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でも。
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それだけでもない。
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夕方。
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拠点の中に、人の気配が増える。
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声。
動き。
生活の音。
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確実に変わり始めている。
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ただの“場所”だったものが――
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人が集まる“場”へ。
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そして、それは。
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“村”の始まりだった。
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(続く)




