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42話 力の扱い方

朝。


拠点はいつも通りに動き始めていた。


……表面上は、だが。


「今日はどうする?」


アリアが聞いてくる。


「昨日の件、調べるのか?」


「いや」


少し考えてから答える。


「まずは、こっちだな」



拠点の外れ。


柵の内側、少し開けた場所。


ティアナもすでに来ていた。


「来たわね」


腕を組んでこちらを見る。


「で? 何をするの?」



「スキルの確認」


俺は短く言う。


「ちゃんと使えてるのか、確かめる」



ティアナは少しだけ目を細めた。


「いい判断ね」


「今のままだと危なすぎる」


相変わらず容赦がない。



「で、どうやるの?」



「……そこなんだよな」


正直に言う。


「感覚でしか使ってない」



「でしょうね」


即答された。



ため息をつく。


さて、どうするか――



「もう、今さらじゃない?」


不意に、頭の中に声が響いた。



「……は?」


思わず声が出る。



「なに?」


アリアが怪訝そうに見る。


「いや、なんでもない」


慌てて誤魔化す。



(……リリィ?)



「やっと気づいた?」


少し呆れたような声。



次の瞬間。


ふわりと、視界の端に光が揺れる。



小さな少女の姿。


淡く透けるような存在。



「久しぶり」


リリィが、楽しそうに笑った。



「……お前、どこ行ってた」


思わず小声になる。



「ずっといたけど?」


さらっと言われた。


「気にしてなかっただけでしょ」



……否定できない。



「で?」


リリィはくるりと回る。


「やっとちゃんと使う気になった?」



「……まあな」



「遅いよ」


即答だった。



ちょっとイラっとする。



「使い方分かんないんだよ」



「でしょーね」


楽しそうに言うな。



「いい? ちゃんと“意識して書く”の」



「書く?」



「うん」


リリィは空中に指を走らせる。


何かを書くように。



「今までのユウ、ほぼ無意識」


「だから漏れるの」



「漏れるって言うな」



「事実でしょ」


ぐうの音も出ない。



「範囲も、強さも、ちゃんと決めるの」


「“ここまで”って」



「……できるのか?」



「できるよ」


あっさりと言う。



「だってそのためのスキルだし」



妙に納得してしまう。



「……やってみるか」


小さく息を吐く。



「今、何してるの?」


ティアナが不思議そうに見る。



「……ちょっとな」


誤魔化しつつ、前を見る。



意識する。


拠点。


柵。


その内側だけ。



(この中だけ、安定させる)



イメージする。


書くように。



「そう、それ」


リリィの声。



「ちゃんと“限定”して」



集中する。


余計なものを切る。



――一瞬。


空気が、静かに変わった。



「……今の」


ティアナが目を見開く。



「何か、変わったわよね?」



「分かるのか?」



「ええ」


即答だった。


「さっきより、安定してる」



「外との“差”がはっきりした」



……成功、か?



「いいじゃん」


リリィが満足そうに頷く。



「それが“制御”」



「……なるほどな」



「今の、わざとやったの?」


ティアナが聞く。



「ああ」



「やっと自覚したわね」


少しだけ笑う。



「遅いけど」



「うるさい」



でも。


悪くない。



今まで曖昧だったものが、


はっきりと形になった感覚がある。



「これなら」


ティアナが言う。



「暴走は防げる」



「……多分な」



「“多分”じゃ困るけど」


すぐ返される。



厳しい。



「まあいいわ」


ため息をつく。



「少なくとも、昨日よりはマシ」



それは確かだ。



「ねえ」


リリィがひょこっと顔を出す。



「もっとできるよ?」



「……マジか」



「うん」


にやっと笑う。



「ここからが本番」



嫌な予感しかしない。



でも――



少しだけ。


楽しみでもあった。



拠点の空気は、安定している。



だがその裏で。



“力の使い方”は、


確実に次の段階へ進み始めていた。



(続く)

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