41話 抱えるもの
翌朝。
拠点は、いつも通りの朝を迎えていた。
鳥の声。
朝の光。
……なのに。
「……なんか、空気重くね?」
カイルがぼそっと言う。
「気のせいじゃない?」
レナは平然としているが、視線はどこか鋭い。
「昨日のあれがあるしな」
ガイアも腕を組む。
「警戒は続ける」
「了解」
短いやり取り。
いつも通りに見える。
でも、“何かあった後”の空気だった。
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一方で――
「……」
俺は井戸の前にいた。
桶を下ろす。
水を汲む。
それだけの動作なのに、妙に考え事をしてしまう。
(……バレたな)
ティアナには完全に。
いや、もう“バレた”っていうか――
共有された、が正しいか。
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「難しい顔してるわね」
声をかけられる。
振り向くと、ティアナがいた。
もう普通に来るな、この人。
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「そりゃまあな」
苦笑する。
「昨日の話のあとだし」
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「そうね」
あっさり頷く。
そのまま、井戸の縁に軽く寄りかかる。
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「で?」
いきなり本題だ。
「どうするの?」
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「どうするって?」
分かってるけど、一応聞き返す。
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「その力」
ティアナが言う。
「使い続けるんでしょ?」
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「……まあな」
否定はしない。
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「なら」
少しだけ真剣な顔になる。
「自覚はちゃんと持ちなさい」
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「……」
言われなくても分かってる。
でも、改めて言われると重い。
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「あなた、自分で思ってるより影響出してるわよ」
ズバッと言ってくる。
「森の状態、明らかに変わってる」
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「……やっぱりか」
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「ええ」
迷いなく頷く。
「しかも、いい方向だけじゃない」
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そこは、分かってる。
昨日のあれを見れば。
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「でも止めないんでしょ?」
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「止めない」
即答。
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ティアナは少しだけ目を細めた。
「……そう」
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少しの沈黙。
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「なら」
ティアナは続ける。
「制御する方法、考えなさい」
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「制御?」
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「ええ」
頷く。
「今のあなた、ほぼ“垂れ流し”よ」
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言い方がひどい。
……でも否定できない。
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「範囲とか、強度とか」
「意識して調整できるはず」
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「……できるか?」
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「できるようにするの」
即答だった。
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厳しいなこの人。
でも――
正論だ。
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「……分かった」
素直に頷く。
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ティアナはそれを見て、少しだけ表情を緩めた。
「よろしい」
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なんだその上から。
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「あと」
ふと思い出したように言う。
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「このこと、誰にも言ってないわよね?」
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「ああ」
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「ならいいわ」
小さく息を吐く。
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「現状、知ってるのは――」
指を折る。
「アリア、エリシア、ミーナ、私」
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「……だな」
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「これ以上は増やさない方がいい」
はっきり言う。
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「やっぱりか」
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「当然よ」
即答。
「この規模のスキル、バレたらどうなるか分かる?」
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「……面倒なことになる」
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「面倒で済めばいいけどね」
さらっと怖いこと言うな。
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「国が動くレベルよ」
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「……だろうな」
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そこで会話が一度切れる。
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風が吹く。
井戸の水面がわずかに揺れる。
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「でも」
ティアナがぽつりと言う。
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「隠しきるのも無理よ」
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「……」
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「昨日ので確信した」
視線を外さずに続ける。
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「いずれバレる」
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分かってる。
それも。
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「だから」
ティアナは言う。
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「“バレた時どうするか”も考えておきなさい」
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それは――
考えてなかったわけじゃない。
でも。
現実味が一気に増す。
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「……了解」
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短く答える。
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ティアナはそれ以上は何も言わなかった。
軽く手を振って、その場を離れる。
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一人になる。
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「……はあ」
思わずため息。
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やることが増えた。
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守るだけじゃない。
隠すだけでもない。
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「制御、か……」
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小さくつぶやく。
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――その頃。
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少し離れた場所。
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アリアが腕を組んで、その様子を見ていた。
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「……どう?」
ティアナが隣に来る。
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「ちゃんと釘は刺したわよ」
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「そう」
アリアは小さく頷く。
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「どう思う?」
ティアナが聞く。
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少しだけ考えて。
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「止まらないわよ、あの人」
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即答だった。
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ティアナは苦笑する。
「でしょうね」
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「でも」
アリアは続ける。
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「暴走もしない」
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「……ずいぶん信用してるのね」
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「してるわよ」
迷いのない返事。
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「だから見てる」
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短い言葉。
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ティアナはそれを聞いて、少しだけ目を細めた。
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「面白い関係ね」
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「でしょ」
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軽いやり取り。
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だが。
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二人とも分かっている。
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これはまだ“序盤”だと。
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拠点。
森。
そして――
あの力。
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すべてが、これから大きく動いていく。
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その予感だけが、
静かに広がっていた。
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(続く)




