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39話 問いの直前

夜。


拠点は、静けさを取り戻していた。


先ほどまでの騒ぎが嘘のように、魔物の気配は消えている。


「……散った、のか」


ガイアが低く言う。


「みたいね。追ってくる気配はない」


レナも周囲を見渡しながら答えた。


カイルが肩の力を抜く。


「助かった……のか?」


「分からん」


ガイアは短く返す。


「あれだけ集まって、何もせずに引いた。普通じゃない」


その言葉に、誰も反論しなかった。


ティアナが静かに続ける。


「最初から普通じゃないわ。この森も、この場所も」


カイルが苦笑するが、余裕はない。


「とりあえず見張りは続ける。交代で休め」


ガイアの指示に、全員がうなずいた。


動きはいつも通りだが、空気は明らかに違っている。



拠点の中心。


焚き火の前で、ユウは一人座っていた。


揺れる炎を見つめながら、さっきの光景を思い返す。


境界の歪み。


あの異形。


そして――修復した“感覚”。


(……やったのか、俺が)


完全に無意識ではない。


だが、意図したわけでもない。


曖昧な手応えだけが残っている。


(やっぱり、影響してる)


否定はできなかった。


むしろ、ほぼ確信に近い。



「……隣、いい?」


顔を上げると、アリアが立っていた。


「ああ」


短く答える。


隣に腰を下ろすと、しばらくは焚き火の音だけが続いた。


「見たでしょ」


「ああ」


「どう思う?」


逃げ場のない問いだった。


ユウは少し考え、それでもはっきりと口にする。


「……関係あると思う」


アリアは何も言わず、続きを待つ。


「多分、俺のやってることが、この森に影響してる」


言葉にした瞬間、重さが増す。


アリアは静かにうなずいた。


「そうでしょうね」


否定はしない。


ただ事実として受け止める。


「止める?」


短い問い。


だが核心だ。


「いや」


迷いはなかった。


「ここは守る」


視線を上げる。


家も、畑も、仲間も――すべてがそこにある。


「これをやめたら、守れなくなる」


静かな声だが、芯は揺れない。


アリアはしばらく黙っていた。


やがて小さく息を吐く。


「そう」


それだけ言って、少しだけ表情を緩める。


「なら、ちゃんと考えてやりなさい。無自覚が一番危ない」


「……分かってる」


ユウも頷いた。



「……あの人」


アリアが小さく言う。


「気づいてるわよ」


「……だろうな」


ティアナの視線を思い出す。


分からないはずがない。


「どうするの?」


「そのうち話す。でも、まだ早い」


アリアはうなずいた。


「妥当ね」



そのときだった。


視線を感じる。


振り向くと、少し離れた場所にティアナが立っていた。


暗がりの中、こちらをまっすぐ見ている。


目が合う。


逸らさない。


ゆっくりと歩いてくる。


その一歩ごとに、空気が張り詰めていく。


アリアも気づいていたが、何も言わない。


ただ座ったまま、静かに見ている。


やがてティアナは二人の前で足を止めた。


焚き火の音だけが、やけに大きく響く。



「……ねえ」


静かな声だった。


それだけで、空気が変わる。


わずかな間を置いて、言葉が続く。


「聞いてもいいかしら」


視線は、ユウから外れない。


逃げ場はない。



「この場所――」


一拍、置く。



「誰が“作ったの”?」



沈黙。


ユウは答えない。


答えられない。


だが、もう誤魔化せる段階ではなかった。


夜の拠点、その中心で。


“真実”が、口にされようとしている。


(続く)


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