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33話 違和感の報告

朝。


森は、昨日と変わらない静けさだった。


――いや。


「……静かすぎるな」


ガイアが低く言う。


拠点の外。


柵を出た瞬間に、空気が変わる。


重い。


張りつくような感覚。


「昨日より、気配が偏ってる」


レナが周囲を見渡す。


ミーナほどではないが、彼女も感覚は鋭い。


「偏ってる?」


カイルが眉をひそめる。


「ああ」


レナはうなずく。


「いる場所と、いない場所が極端」


ダンが地面にしゃがみ込む。


「……足跡も妙だな」


指でなぞる。


「同じ方向に集中してる」


ガイアの目が細くなる。


「……移動してる?」


「可能性はある」


ティアナは周囲の木々を見る。


葉の揺れ。


空気の流れ。


そのすべてを観察するように。


「自然な動きじゃないわね」


ぽつりと。


誰に向けたわけでもなく言った。



「とりあえず、奥まで行くか」


ガイアの判断。


全員がうなずく。


隊列を整え、森の奥へ進む。


進めば進むほど、


違和感は強くなる。


「……いねえな」


カイルが小さくつぶやく。


魔物が、いない。


本来なら、このあたりは出てもおかしくない。


それなのに。


「さっきの“集中”と関係あるかもね」


レナが言う。


「どこかに集められてる?」


「誰が?」


カイルの軽口。


だが。


誰も笑わなかった。



――その時。


ガサッ。


「来るぞ」


ガイアの声。


構える。


茂みから飛び出してきたのは――


二体。


見慣れた魔物。


だが。


「……動きが変だ」


ダンが言う。


一直線に突っ込んでくる。


迷いがない。


まるで、


“命令されている”みたいに。


「来るぞ!」


ガイアが前に出る。


剣が振るわれる。


一体、斬る。


レナが横から援護。


もう一体も仕留める。


――だが。


「……おかしい」


ティアナが低く言う。


倒れた魔物を見下ろす。


「普通、ここまで一直線には来ない」


「……確かに」


ガイアもうなずく。


呼吸を整えながら、


周囲に目を配る。


「警戒を上げろ」


「ただの調査じゃ済まないかもしれん」



さらに進む。


そして。


それは起きた。


「――っ!」


カイルの声。


その直後。


横から飛び出す影。


「ぐっ!」


ダンが弾き飛ばされる。


「ダン!」


レナが叫ぶ。


すぐに構える。


現れたのは――


「……見たことねえな」


カイルが息をのむ。


狼型。


だが、体格が異様に大きい。


目が、赤い。


「新種……?」


レナがつぶやく。


「いや――」


ティアナは首を振る。


「“変質してる”」


その一言。


ぞくりとする響き。


「下がれ、ダン!」


ガイアが叫ぶ。


前に出る。


剣と牙がぶつかる。


火花。


「速え!」


カイルが横から入る。


だが、弾かれる。


レナが援護。


隙を作る。


「今だ!」


ガイアの一撃。


――仕留める。



静寂。


誰もすぐには動かなかった。


「……大丈夫か」


ガイアがダンを見る。


「……ああ、かすり傷だ」


だが、息は荒い。


「撤退だな」


レナが即断する。


「情報は十分」


「これ以上は危険」


ティアナも静かにうなずく。


「同意」


ガイアも迷わない。


「戻るぞ」



拠点へ戻る道。


誰も軽口を叩かなかった。


空気が重い。


「……なあ」


カイルがぽつりと言う。


「これ、普通じゃねえよな」


誰も否定しない。


「……ああ」


ガイアの短い返答。


それだけで十分だった。



拠点。


柵を越えた瞬間。


空気が変わる。


「……は?」


カイルが思わず声を漏らす。


「軽い……」


さっきまでの重さが、嘘みたいに消える。


ダンも息を吐く。


「……助かった」


ティアナは、その変化をはっきりと感じていた。


そして――


確信ではないが、


一つの疑問が形になる。


(この境界……)


(外と内で、何かが違いすぎる)


視線が、自然とユウへ向く。


ユウは、いつも通りの顔をしていた。



「戻ったか」


ユウが声をかける。


「どうだった?」


ガイアが短く答える。


「……良くないな」


「魔物の分布が明らかにおかしい」


レナが続ける。


「それに、新種……いえ、変異個体」


「一体確認した」


空気が少し張る。


アリアの目が細くなる。


「怪我は?」


「軽傷だ」


ダンが答える。


エリシアがすぐに動く。


「手当てします」


ミーナも駆け寄る。


「だ、大丈夫ですか」



その様子を見ながら。


ティアナは、ゆっくりと口を開いた。


「……ねえ」


静かな声。


「この森」


「何が起きてると思う?」


誰に向けたのか分からない問い。


だが――


その視線は、


はっきりとユウに向いていた。



ユウは、答えない。


答えられない。


ただ。


一つだけ、頭に浮かぶ。


(……俺のせいか?)


拠点。


結界。


環境の変化。


積み重ねてきた“便利”。


それが、


何かを歪めているとしたら。


「……」


何も言えない。



静かな拠点。


だがその中に、


確実に。


“何かがズレ始めていた”。

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