28話 集まる気配
ウルフが去ったあと。
しばらく柵の外を見ていたが、魔物が近づく様子はなかった。
ガイアが息を吐く。
「……とりあえず安全そうだな」
アリアもうなずく。
「みたいね」
だがミーナはまだ森の方を見ていた。
「……まだいる」
「でも、来ない」
不思議そうに小さくつぶやく。
そのとき。
ぴょん、と何かが跳ねた。
「……?」
エリシアが声を上げる。
「今の……」
柵の近く。
小さな影がひょこっと顔を出した。
茶色の小動物。
リスだ。
ミーナが少し身を乗り出す。
「……リス」
リスは警戒する様子もなく、ちょこちょこと近づいてくる。
そして――
柵の内側へ、するりと入ってきた。
「え?」
カイルが目を丸くする。
「入ったぞ?」
確かに。
ウルフは入れなかった。
でもリスは普通に入ってきた。
リスはそのまま、ミーナの足元まで来る。
ちょこん、と座った。
ミーナがゆっくりしゃがむ。
「……どうしたの?」
そっと手を差し出す。
リスは逃げない。
それどころか、ミーナの手にちょこんと前足を乗せた。
「……」
ミーナの顔が少し柔らかくなる。
リリィが嬉しそうに飛び回る。
「来た!」
「いっぱい来るよ!」
その言葉の直後だった。
パタパタ、と羽音。
小鳥が一羽、柵の上に止まる。
さらにもう一羽。
気づけば、何羽も。
カイルが呆れたように言った。
「なんだこれ……」
レナが周囲を見渡す。
「動物が集まってる……?」
アリアがミーナを見る。
「ミーナのせい?」
ミーナは首を振る。
「……分からない」
リスがミーナの膝に乗る。
小鳥が近くに降りる。
どこか安心したような空気。
まるでこの場所が――
安全だと分かっているように。
ティアナが静かに言った。
「……居心地がいいのかもね」
ガイアが腕を組む。
「魔物は入ってこない」
「動物は寄ってくる」
少し笑う。
「変な場所だな」
俺はその光景を見ていた。
柵の内側。
穏やかな空気。
昨夜、書いた一文。
――聖域。
どうやら効果は思っていた以上らしい。
リリィがくるくる回る。
「ここ好き!」
ミーナも小さくうなずいた。
「……うん」
迷い霧の森の奥。
小さな拠点。
その場所は今――
少しずつ、特別な場所へと変わり始めていた。




