14話 森の温泉
湯気が立ち上る。
迷い霧の森の奥に、天然の温泉が生まれていた。
アリアが湯気の向こうを見ながら言う。
「……すごいわね」
エリシアも目を輝かせている。
「温泉なんて初めて見ました」
ミーナは恐る恐る湯を触った。
「……あったかい」
リリィは空中でくるくる回る。
「いいお湯!」
だが。
アリアが周囲を見回した。
「ちょっと待って」
腕を組む。
「このまま入るの?」
俺も周囲を見る。
森。
木々。
完全に丸見えである。
確かにこれは落ち着かない。
「そうだな」
俺はクリエイトブックを開いた。
「クリエイトブック」
光とともに本が現れる。
そして書く。
『温泉の周りに高い木の塀を作る』
文字が光った。
次の瞬間――
ゴゴゴゴ……
地面が震える。
太い木の柱が次々と立ち上がる。
温泉を囲むように、高い木の塀が出来上がった。
外からは中が見えない。
アリアがうなずく。
「これなら安心ね」
だが俺はさらに書いた。
『男女で分かれるように中央に仕切りの塀を作る』
また光る。
ドン、と木の壁が真ん中に立った。
これで
右側と左側。
完全に分かれた。
アリアが笑う。
「完璧じゃない」
エリシアも安心した顔をする。
「これなら大丈夫ですね」
ミーナは少し首をかしげる。
「……ユウ様は?」
アリアが言う。
「男はユウだけでしょ」
指をさす。
「こっち」
反対側の温泉。
俺は苦笑した。
「まあそうなるか」
リリィがふわっと浮かぶ。
「リリィはどっちでもいい」
アリアが言う。
「女子側」
「決定」
リリィが笑った。
「はーい」
俺はため息をつく。
「じゃあ俺はこっちだな」
女性陣は塀の向こうへ。
俺は反対側へ。
湯気が静かに上がる。
俺は服を脱ぎ、温泉に足を入れた。
「……ああ」
思わず声が漏れる。
最高だ。
疲れが一気に抜けていく。
そのとき。
塀の向こうから声が聞こえた。
アリアの声だ。
「いいお湯!」
エリシアの声も聞こえる。
「本当に気持ちいいです……」
ミーナの小さな声。
「……あったかい」
リリィが笑う。
「精霊の温泉だからね!」
静かな森。
湯気。
温泉。
俺は空を見上げた。
異世界に来て。
家を作って。
仲間が増えて。
そして今。
温泉に入っている。
思わず笑った。
「スローライフだな」
迷い霧の森の奥。
世界の端。
そこに――
小さな村が生まれ始めていた。




