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青春の被害者たちのラブソング  作者: 竹湧綺 / Take You-ki
第一楽章:残暑が奏でるプレリュード
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9/33

感覚のズレ

 それからの俺たちは愛歌さんも加えてそこで、一緒に昼食を取るようになった。

 大した話はしていないが、例えば……。

「日本のStudent Council……、生徒会役員だったかしら? って何をするの?」

 愛歌さんが訊いてきたことがある。

「やったことある人ー」

 真夏に訊かれるが、陽も俺もやったことはない。

「陽、文化祭実行委員なんだから関わりないの?」

 と真夏が訊いた。

「あんまり。委員長ってわけじゃないから。それより白は去年、先生から推薦されてなかったか?」

「え、そうなの?」

 真夏は驚いたような反応をする。

「意外で悪かったな」

「あはは。ごめんって。じゃあ先生から仕事内容とかの説明、受けてたんじゃない?」

 確かに聞いた記憶あるけど。

「わかる範囲で教えてくれないかしら?」

 愛歌さんはいつの間にか俺たちの前でだけはタメ語になっていた。俺たち側もそうだけど。

「学校の機材の維持とか、それぞれの委員会のサポートとか、地域のイベントとか中学生向けの学校説明会の時は代表として話をしたり……、あとはボランティアとか。メインはそんなとこじゃないかな」

「うへえ、大変そう」

 平時は別に忙しいわけじゃないだろうけど、俺みたいな面倒臭がりには合わないな。

「あとはある程度制限はありつつ、新しいことを導入できたりするはず。例えば学校の昇降口と渡り廊下の自販機はそれぞれ8年前と5年前の生徒会が設置したもの。夏服にポロシャツがオッケーになったのは4年前からだし、女子が冬期にスラックスの着用が許可されるようになったのは去年からだったよな」

 去年は時々、着ている生徒を見た。

「そう考えると、色々やってんね」

「何かできた時のやりがいはあるかもしれないけど、誰がいつどうやったってことは、一週間も記憶されないだろうな」

「やりがい搾取って、学校生活から始まってる社会問題なんだね」

 真夏がしみじみと、といった様子で言った。

 それはちょっと問題を大きくしすぎな気がするが。

「まあ、アニメみたいなキラキラした生徒会なんてのは、少なくともこんな公立校じゃあありえないな」

「だねー。なんで急にそんなこと気になったの?」

 真夏が愛歌さんに聞いた。

「担任の先生に今日、やってみないかって提案されたの。日本の生徒会はすごいんだぞって力説されたのだけど、あれは虚偽誇大ってことかしら?」

 ……。俺が断ったせいか?

「そっちの担任って誰だっけ」

「橋和田先生。物理の」

「ああ、パチ和田ね。あいつのいうこと信じない方がいいよ」

「パチ和田?」

「そうそう話の7割、嘘か盛ってるかだから。ねえ?」

 話が俺にまで飛んでくる。

「まあうちの学校じゃ有名だけどね……」

 正直、擁護できない。

「そうそう。テストでここ出るぞー、だの、そのまんま出すからなー、だの、このプリントやっとけば余裕だぞ、だのって言ってたとこ、一個もでないし。自分で作ってるのにね!? 高校の時、自分は甲子園行ったんだぞー、って言ってたけど、観戦で行っただけだったし。テレビに出るからー、って休んだ時は、観覧席にいて冒頭ちょこっと映っただけだったし。留学行ったことある、って言ってたけど、10日間旅行に行っただけだったし。ってか物理教師が留学経験あるって嘘ついて、なんのアドがあるっての!?」

 後半の見栄からついたであろう嘘はどうだっていいのだが。テストに関しては、学生としては死活問題だから、どうにかして欲しいものだ。

「で、挙句ついたあだ名が『嘘っぱちのパチ和田』ってわけ」

 これがまあ語感のいいあだ名なもんで、一瞬で広がってしまった。

「なら……、生徒会入るのはちょっとやめておこうかな。みんなとご飯食べれなくなっちゃうし」

 おそらく、愛歌さんは少し驚いてたんだと思う。日本とアメリカとの認識の差に。

 アメリカのドラマとか見てるとカーストトップが、周りから推薦されてたりするのをよく見る。実際どうかは知らないけど、日本と違って人気者がやるイメージは実際にある。

 そう言えば、そういう国ごとの認識の差の話をすると、かなり物騒な話をしたこともあった。真夏が次みたいなことを愛歌さんに聞いた時の話だ。

「愛歌ってさ」

「何?」

「こんな学校にいるけど、一応お嬢様なわけじゃん?」

 一応て。

 前はお姫様みたいだのって言ってた癖に、一応って。

「まあ、そうね」

 愛歌さんは普段から、あまり自分がお金持ちであることを気にしてほしくないと思っているようで、複雑な表情をしていた。

「SPとかついてなくていいの? 護衛とか」

 確かにその点は、気になってはいた。

「もちろん、学校の近くに永沙って執事を待機させているから、通報すれば彼に届くわよ」

「それで十分なの?」

「うーん、一応、この車椅子に護身用の道具が入っていて」

「護身用?」

「ええ」

 そういって愛歌さんが肘掛けの裏にあるボタンを押す。

 カチリ。

 ゆっくりと開いた中から、黒いL字型の物体が顔を出した。

 サーッと血の気が引くのを感じる。

「な、何それ」

「Smith & Wesson M&P Shield EZ。ワルサーPPKと悩んだのだけれど実用性を考えてこっちにしたの」

 一瞬言葉を発せなかった。外からの生暖かい風を感じる。

「じ、実用性……?」

「ええ。PPKの方がクラシックで美しいし好きなのだけれど、スライドが少し硬くてね。反動も強いし。私って車椅子で、筋力も少々人に劣るでしょ? 最悪の場合、片手でも使える方が実用性がある。あと誤射の可能性も減るしね」

 愛歌さんが淡々と説明する。

「……いやそうじゃなくて、実銃だよねそれ!?」

 真夏が叫ぶ。

「ええ、そうよ」

「なんでんなもん持ってるの?!」

「だから、護身のためだけれど……」

 うーん。どうにも認識の差がでかい気がする。

「愛歌さん。あの、日本だとそもそも携帯するのが犯罪だからさ。そういう意味のなんでだと思うよ」

「ああ、なるほど。安心して。警視庁に特別な許可をいただいているから。あと殺傷能力のない護身用道具もいくつか持ってるし」

 おそらく瀬里賀家だから許可されたんだろうな。もしくは愛歌のお父さんあたりに札束で叩かれたとか。

「だってさ。よかったな」

 真夏の方を見ると複雑そうな顔をしていた。

「そう言う問題かなぁ?!」

 実際、愛歌さんは人よりも危険な目に遭う可能性はずっと高いだろう。でもそういう時、車椅子だと逃げるという選択肢を取ることが難しい。こういった手段を持っておこうとするのは仕方ないのかもしれない。

 とはいえ銃社会出身者とそうでない人との認識のズレが結構あるのは確かだと思う。

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