噂と新しい友達
翌日、三時間目と四時間目の間。
次の授業のために、体育館に向かっていた時のことだった。
「あ、真夏」
更衣室から出てきた真夏を呼び止めた。
「何? あ。あんまし近づかないでよ。まだ汗臭いかもしんないから」
「? ああ」
あんまり気にならないけど……、まあいいか。
「あのさ。昼、飯食う場所ちょっと変えられない?」
「いいけど、どうして?」
「一緒に飯食いたい、ってやつがいてさ。できれば人の少ない場所がいいんだけど」
「ふーん。珍しいね。いいよ。考えとく」
「ありがとう」
そこで一旦真夏とは分かれた。
* * *
「空音さん」
白と話してから体育館を出てすぐ、真夏は二人のクラスメイトの女子に話しかけられた。
(いつも一緒にいる二人だ。漫研の子だっけ)
心の中で思う。
「なーに?」
「さっきの青鏡くんだよね!」
「時々一緒にいるのを見かけるけど、仲良いの? まさか彼氏?」
「彼氏ではないけど」
あいつ、いつの間にそんな有名人になったんだ? と思いながら返事をした。
「そうだね。もう何だかんだ一年くらいの仲かな? お互いただの友達だと思ってると思うけど」
「あの! 青鏡くんと関わるの、やめた方がいいと思うんです!」
「ん? なんで?」
自分の教室に入りながら返した。唐突な話に困惑する。
「だって色々噂あるじゃないんですか!」
「中学のときタバコ吸ってたって聞いたよ」
「え、マジ?!」
「しかも女子更衣室にカメラ置いてたとか」
「やば、普通に犯罪じゃん……」
片方は興味本位、片方は本気で怖がってる感じがした。
「あー」
真夏は席に座って二人が話すのを黙って聞いていた。
そして一年生の時、白と同じクラスだった時のことを思い出した。
(前もそういう噂があったな。だからあたしもちょっと警戒しちゃってたっけ。……でも陽が気にせず話しかけてて、気づいたらあたしも一緒にいることが増えて……)
で、もう一年か。早いなぁ。などと懐かしく思っていた。
「それって中学生の時の話でしょ? 高校になってから何かしたって話は聞かないじゃん」
「ま、まあ確かに」
「中学ん時の白がどんなヤツだったのかって、あたしにはわかんないけどさ。少なくとも今の白がそんなことするやつだーとは、あたしは思わないかなー」
真夏は思うままを言った。
「でも……」
「忠告はあんがとね。でも噂は噂っしょ?」
「そうだけど」
次の授業のチャイムが鳴った。
「ほら、次現国だよ。体育の後の現国とか拷問だかんね。気合い入れないと寝ちゃうよ」
「あ、そうだ。ロッカーから資料集取ってこないと!」
「そうだ忘れてた」
真夏は二人が急いで教室外のロッカーに向かうのを見送った。廊下のざわめきが、少しだけ遠く感じた。
「……なーんか、嫌な感じだな」
あの二人がというよりも、噂自体に対する嫌悪だった。
* * *
昼休みになり、真夏が教えてくれた場所に向かった。そこは職員兼来賓用の玄関、その前だった。
「盲点だったなぁ」
そう呟いた。この場所だけ、校舎の喧騒から切り離されている。
確かにここは生徒が来にくい。かといって教師が頻繁に来るか、と言われたらそうでもない。来賓用にベンチなどは用意されている。
「あたしは白が連れてる人の方がびっくりなんだけど……」
「どうも。無理を言ってしまってごめんなさい」
一緒にそこまで来ていた瀬里賀さんが、真夏に言った。
「いやそれは、いいんすけど……、えと、ちょーっと待っててくださいね」
そういって真夏に首根っこを掴まれ、端まで連れてこられた。
「な、なんだよ……」
「やるじゃん、白! 奥手だと思ってたのにさ! どうやってオトとしたの?! 瀬里賀さんのこと!」
真夏がニヤニヤしている。
「お、落としたって……?」
「あれ違うの? じゃなかったら、どうやってご飯に誘えたわけ?」
「あっちから誘ってきたんだよ、今朝」
「はぁぁぁあ?!」
耳元ででかい声で叫ばれる。鼓膜が痛い。
「ダメだよ白、犯罪は」
「ひっでぇ言い草」
俺のことなんだと思ってんだコイツ。
「ジョーダン。で、ホントのとこは?」
「昨日ちょっと話しただけだよ。図書室で」
「それだけ?」
「ああ」
「へぇ……」
なんかまた、ニマニマした顔をしている。
「まあ、白だってそれなりにいい奴だもんね。うんうん、やっと春が来たんだね。お姉さん嬉しいよ」
「なんだお前」
やっぱなんか勘違いしてるだろ。
「さてと瀬里賀さん、ですよね。あたしは……」
振り返りながら真夏が、瀬里賀さんに話しかける。
「空音さんですよね。空音真夏さん。先週金曜に三階の廊下でお会いした」
「え? 覚えてくれてたんですか?」
「ええ。確か水泳部に入ってるんですよね」
「っっっ!!!」
またも首根っこを捕まれ、端っこに連れて行かれた。
「な、なんだよ」
「やっばぁ。めっちゃいい人じゃん。あんたが違うってなら、あたしが嫁にもらってもいい?」
「好きにしろよもう」
気づいてないかもしれないけど、お前も割と忘れられない性格してるからな。
「お前、白の友達なのか?」
気づくと陽が瀬里賀さんに話しかけていた。
「そうですね……。青鏡さんがそう思ってくださっているのならば」
「……いえ。ごめんなさい。記憶にはありませんけれど」
「そっか」
と陽が妙なことを聞く。
「まあ、白の友達なら俺たちも友達だな! 俺は唯原陽。よろしく!」
そういって手を差し出した。
「はい。よろしくお願いします、唯原さん。瀬里賀愛歌です」
「陽でいいぞ」
「あら、そうですか? でしたら私も愛歌でいいですよ」
「わかった」
なんか一瞬で打ち解けあっている。
「お前、俺とどっかで会ったことあるか?」
「あたしさ、あいつって大物なんじゃないかって時々思うよ」
「わかるよ」
なんだかんだで瀬里賀さんは、二人と打ち解けたようだった。




