歓迎会
土曜日。真夏の部活が午前で終わった、のどかな昼下がり。
「せっかくだし歓迎会しようよ。転入から結構時間経っちゃってるけどさ」
という真夏の提案で、近くの家系ラーメン屋に行った。
「美味しい。ジャンキーな味わいのように一見感じるんだけど、複雑な味が重なっているような感じで。チャーシューも美味しいし。日本のラーメンが世界で人気な理由がわかるわ」
舌が肥えてそうなお嬢様の口に合うかわからなかったが、そう嬉しそうにしていた。
「っしょ? やっぱたくさん動いた後の昼はこれなんだよね」
真夏は一人、大盛りを頼んでうまそうに啜っている。対する愛歌さんは、啜るのが難しいのかレンゲに少しだけ麺を乗せ、慎重に口へ運んでいた。
「歓迎会とか言っといて、真夏が食いたいだけじゃんか」
陽がツッコむ。
「歓迎会はこの後やるの。陽ん家で」
「げぇ。俺ん家かよ」
「いいでしょ。広いんだから。叔母さんたち、いないんでしょ?」
ああ。土日は家空けてるんだっけ、陽の両親は。隣の家には幼馴染がいて……。よく考えたら、ラブコメの主人公みたいなやつだな。
「てか二人はなんで並? 男子でしょ?」
真夏に言われる。
「いや、少食なんで。男女差別っすよ」
「そうだそうだ。ゴリラ女と違うん———ぶへっ! 痛ぇ!」
陽が真夏に叩かれる。余計なこと言わなきゃいいのに。
食べ終わって店を出て、電車に乗った。
「噂には聞いてたけど、日本の電車って本当に静かなのね。時間も正確だし……」
そんななんでもないことに驚いていて新鮮だった。
陽ん家の最寄り駅で降りる。
「んじゃ、買い出し行くよ」
「「買い出し?」」
「そうだよ。歓迎会でしょ」
「「??」」
真夏に連れられるまま、駅前のスーパーに行った。
俺たちはカートを運ばされ、真夏がジュースやらお菓子やら何やらをポンポンと入れていくのを眺めていた。
愛歌さんは買うもの買わないもの関係なく、あれは何? とか、これは? とか目をキラキラさせながら真夏に聞いていた。
「一回まとめて払っちゃうけど、二人の分は後から払ってよ? あ、愛歌さんはいいからね?」
とよくわからぬままに、痛い出費が決まってしまったのだった。
その後スーパーを出て歩いていく。駅前の喧騒を抜け、田畑が現れ始めた。そんな住宅の密集度が低いとこに陽ん家は建っている。
隣の一階が美容室の家が真夏ん家だ。
「重ぇ! 指痛ぇ!」
陽が叫ぶ。
俺たち男二人は当然のように、飲み物とか重いものが入った袋を持たされている。
「えーっとよかったら、少し膝に置く?」
愛歌さんが陽に聞いた。
「いいのか!」
「ダメダメ。あたしだって持ったげてんだからね」
真夏が止める。
「真夏のはお菓子とか軽い方だろ」
「うるさいなー、もうほら」
真夏は自分の軽い方の袋を愛歌さんに預け、陽の袋を片方持った。
「おお! ありがとな!」
「まったく。あたしだって疲れてんだかんね」
陽の家に着く。
「うわあ。すごい。日本家屋ってやつよね!」
愛歌さんが目を輝かせる。
「そうか?」
「そうよ! アニメで見たのとそっくり! 憧れてたの!」
「愛歌さんアニメ好きなんですか?」
中に入りながら訊いた。
「ええ。日本語もそれで勉強したようなものっていうか……」
「それにしては割と自然に話せますよね」
アニメの話し方とか、語尾とか、一人称に引っ張られちゃう海外の人とか、いるみたいだけど。
「父も母も日本人だから。母はハーフだけれど。だから日本語を話す機会はあったの。どちらかというと復習とボキャブラリーを増やすために観てた、って言った方が近いかしら」
なるほど。それなら納得だ。
居間にいくと、初めての畳にまた大興奮していた。
「直接足で歩けないのは残念だけれど、この空間に入れるだけで嬉しいわ」
「ってか愛歌さ、そんなにいうなら引っ越してくる時の家、和風建築にすれば良かったんじゃないの?」
確かにと思うことを真夏が訊いた。
「あれお父様が勝手に建てちゃったものなのよ。でも敷地内に増設してみるのは悪くないかもしれないわね」
「いいねいいね。そしたらあたしも住ませてよ」
「いいわよ」
などとすごい方向に話が飛んでいく中で、真夏はちゃぶ台にさっき買ったお菓子を広げていった。
「あ、いけね。愛歌がいるならテーブルの方が良かったかな」
「大丈夫よ。気にしないで」
そういって愛歌さんが車椅子のボタンを押すとなんか変形していって、座椅子くらいの高さになった。
改めてスッゲェと思った。
「とにかく! 歓迎会始めちゃおー! かんぱーい!」
まあ歓迎会なんていっても、買ってきたお菓子を食べながら話したり、ゲームしたり、映画を観たり。夜になったら、買ってきた食材で夕飯を作ったりしたくらいだ。
気づけば外が暗くなり始めていた。
「もうメンドくなったし、泊まってっちゃおうかな」
と真夏が言い始めたことで、なんだかんだ陽の家に泊まる流れになってしまった。
真夏と愛歌さんは一緒にお風呂に入っていた。愛歌さんはある程度手助けも必要だからね。
もちろん俺にはそんな趣味ないので、陽とは別で入った。
ただ、その愛歌さんと真夏の二人が出た後に入ったものだから、その……、色々と良くないなと思った。
風呂から出てきた二人はパジャマに着替えていた。真夏は隣にある自分の家から、愛歌さんは泊まるってなってすぐ、執事の永沙さんに取ってきてもらったらしい。
パジャマ姿の愛歌さんはなんていうかその……、男の自分が見ていいものか、とちょっと戸惑った。
どうでもいいけど、俺は陽の甚平を借りた。
最後に風呂に入った俺が出ると、みんなは客間にいて布団を敷いていた。
「え? 同じ部屋で寝るの?」
布団が三つ敷いてあるのを見て、心臓が変なリズムで鳴り始めた。
「そうだよ。いくらうちらが可愛いからってヘンな気起こしちゃダメだかんね?」
真夏はだらしなく寝転がりながら、ニマニマと笑ってる。
ポーズを取るな、ポーズを。
「いやいやいや。別の部屋にすればいいだろ」
「えー、布団運ぶのめんどくない?」
「じゃあ、布団が3つなのは?」
陽の分がないじゃん。
「足りないから陽は自分の部屋で寝るって」
なんでだよ!
「あのなぁ……」
「別にいいでしょー。もう敷いちゃったし」
こいつ……、まあいいか……。
と、その時は飲み込んだ。その後も寝るまでの間、他愛もない話をしたり、ゲームをしたりして騒いでいた。
そして気づけばみんな疲れが溜まっていて、夜の暗さが部屋に入り込んできた。




