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青春の被害者たちのラブソング  作者: 竹湧綺 / Take You-ki
第一楽章:残暑が奏でるプレリュード
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理由と理由

 翌日。学校が終わり、またも職員室に呼ばれ昨日と同じことで説得されたが、長くなる前に断って出てきた。しつこいなと思いつつ放課後の廊下を歩いていく。

 体育館までの渡り廊下に出た。そこに設置されていた自販機の前に人がいた。

(最近よく見るな)

 瀬里賀さんだった。車椅子から上段の水に手を伸ばしていた。

 後ろからそのボタンを押す。

 ピッ。……ガコン。

 自販機の乾いた音が、がらんとした廊下に転がった。

「あ、ありがとうございます」

「ん」

 二百円を入れた。そのたびに硬貨が落ちていく音が響き渡る。瀬里賀さんがペットボトルを取ったのを確認してから、自分の欲しいもののボタンを押した。

 おつりが流れ出てくる。

「……五百円、取り忘れてますよ」

 なぜかまだそこにいる瀬里賀さんに声を掛けた。

「あ、いいんです。差し上げます。迷惑料というか、ボタンを押していただいたので。ほら、昨日の朝も手伝っていただきましたし」

「要らないですよ、別に」

「あっ……」

 指で弾いて、瀬里賀さんの膝の上に転がした。

 もう200円入れて、今度はおやつを買った。その間も瀬里賀さんはそこにいたままだった。何をしてるんだろう。

「あの」

 買ったものを持って目的地に向かおうと歩いていくと、後ろから声を掛けられた。

「なんです?」

「え、えっと、このあとどちらへ?」

「図書室」

 放課後の図書室は人がいなくていい。テスト期間以外は。

「私も行ってもいいですか……?」

「? 好きにしたらいいんじゃないですか?」

 自分の入学した学校なんだし、好きにしたらいいのに。

 前のように瀬里賀さんを二階に上げ、図書室に行った。適当な本数冊を手にとって、いつもの席に座った。

「……」

「えっと、なんすか」

 本を読んでいると視線を感じた。瀬里賀さんにじろじろ見られている。

「あ、え? えっとあの、その……。青鏡白《あおみはく》さん、ですよね」

「はい」

「変な質問なんですけれど、私のこと興味ないのかな? って」

「はい?」

 何言ってんだ?

「ほ、ほら! 初日から今日まで私、たくさん声を掛けてもらえたりしましたし! 声は掛けてくれない人からも、じろじろ見られましたし……」

「確かに」

 最初の一週間だけで十五人がフラれたとかって噂で聞いた。どいつもこいつも頭沸いてんのか。

「でも、あなたはそうじゃなかったから、ちょっと不思議っていうか、どんな人かなって思ってて。でも昨日の朝とかさっきとか、助けてくれましたし嫌われてるわけではないみたいで」

 瀬里賀さんは焦ったように、一気にそう言った。

「だから、その……」

 言い終えて、自分でも恥ずかしくなったのか、瀬里賀さんは視線を落とした。

「あはは……、ちょっと自意識過剰でしたでしょうか……?」

「いや。自分の立場をちゃんとわかってる人の、妥当な疑問だと思いますよ」

 瀬里賀さんって、転校生とか絶世の美女とかって点を抜きにしても、家の名前が有名だ。当然出てくる疑問だろう。

「別に興味がないわけじゃないです。まあ、瀬里賀さんの周りにいる人とは少し種類が違うと思うけど」

「……違う?」

「こんなどこにでもあるような普通の公立校に、転入して来た理由とか、金持ちなのになんで自販機で水買うんだろうとか。気になるのはそういう、あなた自身の行動理由です」

 そう言いながら、無意識に本のページをめくっていた。

「じゃあ、他の人はなにに興味を持ってくれてるんでしょうか?」

「全員かどうかは知らないけど、金か顔か体じゃないですか?」

 よく知りもしない人に出会って二日で告白するなんて、タマで物を考えている証拠だ。

「私、胸ないですけど」

「ブフッ」

 とんでもない角度からの悲しい返しが来て、つい吹き出してしまった。

 図書室の静けさの中で、自分の笑い声だけが妙に響いた。

「笑わないでくださいよ。気にしてるんですから!」

「ごめんなさい。そういうつもりじゃなくて」

 なんだこの人、天然か。

「そういう、欲のために利用したいって腹づもりの人が大半なんじゃあないですか、ってことです」

 箱入り娘って感じがするから、そのへん心配になるな、この人。

 俺が数分黙って今日借りる本を選別していたら、瀬里賀さんはまた急に話し始めた。

「……家が近かったからです……」

「……はい?」

 なんの話だ?

「この学校選んだ理由……」

「ああ……」

「すみません。大した理由もなくて」

「いや、別に」

 こっちが勝手に期待してただけだし。金持ちだし、大層な理由があるんじゃないのかって。

「瀬里賀さんの家って、あれですよね。遊園地跡の」

「そうです。あれ、なんで知ってるんですか?」

「冬に工事が始まった頃から、ここらあたりじゃずっと噂でしたから。なんでこんな辺鄙(へんぴ)なとこに引っ越してきたんです?」

 瀬里賀さんならどこでも、好きな場所に住めるだろうに。

「お父様が」

「お父様……」

「……なにか?」

「いや、なんでも」

 お嬢様って本当に父親のことお父様っていうのか、と妙なとこで感心した。

「前から日本の学校に憧れてて、その話はしてたんです。ほら一応日本の血が流れているわけですし、それで、お父様が誕生日にあそこに家をくれたんです」

「家をくれたぁ?」

 初めて聞いた言葉だな。

「それであそこから一番近い学校を選んだんです」

「でも、あっちなら玖国山《くこくやま》学園とかあるでしょう? なんで秋高に?」

 うちの高校の名前は秋波高校だ。みんな秋高って呼ぶ。

「あそこ私立ですよね」

「ああ。小学校から高校までの一貫校。このあたりじゃ割と名門」

 そっちの方がお似合いだと思うけど。

「さっきも言った通り、アニメやゲームに憧れて来たので、日本の普通の高校生活を経験したくて。もちろん私立でも普通のところもあるのでしょうけど、名門校では意味がなかったので」

「へぇ……」

 この人レベルになれば、高校選びも習い事感覚か……。

「あと、日本のお水は美味しいんですよ! 軟水が多いですし」

「え、水?」

「そうです!」

 え、急に水の話?

「さっき、なんで自販機でペットボトル買ったのか、って聞いていたじゃないですか」

「ああ……」

 適当に話してたから忘れてたけど、確かにそんな話したな。

「あなたはなんでこの高校にしたんですか?」

「……家が近かったから」

「じゃあ一緒じゃないですか」

「確かに」

 そうとも言えるけど、それでも偏差値とかはある程度見たしさ。それに地元から二、三駅のとこだったから、一緒になりたくない人たちが来ないかとかくらいは確認した。

「瀬里賀さん、帰らなくていいんですか?」

「私、お邪魔でしたか?」

「そうじゃなくて、いつも迎えの車に乗ってるの見かけるから今日はいいのかなって」

「皆さんが帰る時間に帰ると、少々目立ってしまうようですから。永沙(ながさ)……、執事に遅めに来るように言ってあるんです」

 この人なりに気にはしてたんだな。橘みたいなのが言ってる戯言。

「そうですか。それで……、俺はそろそろ帰りますけど」

 借りる本も決めたし。

「では私も……」

 本を借りて瀬里賀さんを一階に下ろして帰路に就いた。

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