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青春の被害者たちのラブソング  作者: 竹湧綺 / Take You-ki
第四楽章:デュオが声を焦がすまで
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それでも

 焼きそばの匂いとアンプの残響が、夜気の中にまだ漂っている気がした。

「私の家には、いつまでいるの?」

「あー、今日は泊まって、明日帰ろうかな」

「そっか」

 窓の外を見た。校庭のあちこちがキラキラと光っている。

「やっぱ本業でやってる方は巧いなぁ」

 教室で窓際から校庭を眺めている。空はゆっくりと暗くなっていた。

 後夜祭。それぞれの教室で売れ残ったものを校庭で売り出し、生徒間で消化する。そうしながら校庭に設置された舞台で、各文化系の部活によるパフォーマンスが行われる。

 今はナイ音の舞台を眺めていた。

「私たちもよかったと思うけど? すごく盛り上がったよ」

 俺と愛歌は離れた教室から、その様子を見て、文化祭の余韻に浸っていた。

 教師にばれないよう、教室の電気は付けなかった。

「そうかな」

「そうよ」

「そっか……」

 そんな話をしたあたりで、外の音が止み歓声が上がった。

 最後の演目だった。それももう終わろうとしている。

「私たちも、そろそろ帰らないとね」

 愛歌が言って動き出した。

「……なぁ、愛歌」

 その手を掴んで止めて俺は、絞り出すように声を出した。

 昨晩言えなかったことを、やっぱり今、伝えておきたくて。

「……なに?」

「あー、えっと」

 しかし、さっきまで口に出そうとしていたセリフ。それが、急に頭が真っ白になって、うまく喉から出てくれない。

 愛歌は不思議そうな顔をして、俺の顔を見つめている。

 外の光に照らされるその顔を見ていると、心臓の音が加速し余計に言葉に詰まった。だから、行動で示そうと思った。

「っ! いたっ」

 コツ。

 前歯と前歯が当たり、鈍い痛みが走る。

「いてて。あ、ご、ごめん……」

「う、ううん。それより……」

「えっと、その……」

 キスしようとしてこれとか、格好悪いったらありゃしないな。

「この前の返事というか……、それを伝えたくて、でも言葉がうまく出てこなくて、なら行動でと思ったんだけど。あっはは、慣れないことはするもんじゃないな」

 まだ少しズキズキする前歯を感じながら言った。

「愛歌はすごいな。なんでも簡単にできて」

 いつもそう。勉強とかそういう事だけじゃない。

 欲しい言葉とか行動とかいつもくれる。俺には、そんなことが上手くできない。

「愛歌」

 もう一度手を握る。その温かくやわらかな感触と、綺麗な緑色の瞳を見つめる。

「好きだ。だから、その、友達より少しだけ特別な関係になりたいって、思う」

 簡潔に、思うままの言葉を率直に伝える。

「どう、かな……?」

「……」

 ドッドッドッドッドッドッドッドッ…………。

 校庭の喧騒が心臓の音でかき消えていく。

 そうしている時間が、一瞬にも永遠にも感じられた。

「あ、愛歌?」

 時間が経っても愛歌が口を開く気配がなく、そう訊いた。

 しかし代わりに……。

「あ、愛歌!?」

 つーっと、左目から涙が流れ出てきた。

「ご、ごめんなさい」

 そう言いながら涙を拭く。

「え?」

「あ、いや違うのそうじゃなくて……」

 うつむいて涙を腕で拭っている。

「私は……」

 愛歌が言葉を紡ぐ。

「すごく嬉しくて、感情も高ぶってて、本当ならあなたの胸にとびこみたい。でも私の足じゃ、そんな簡単なことすらできないっ!!」

 肩を震わせ泣きながらこちらを見る。

「そんな自分がいつだって悔しくて、これからもきっと、あなたに負担をかけてしまう……」

 愛歌は怒るかもしれないけど、そんな泣き顔すら愛おしいと思ってしまった。

「っ!」

 その衝動のままに愛歌を抱きしめる。

「愛歌が手を握りたいっていうなら握るし、抱きしめたいっていうなら抱きしめる。愛歌ができないっていうことは俺がするから」

 愛歌の啜り泣く声が聞こえた。

「私でいいの?」

「愛歌がいい」

 少し離れ愛歌の顔を見つめながら言った。

「……私も、白がいい」

 どちらからともなく俺たちは、唇を重ね合わせた。

 窓の外ではまだ誰かの喧騒が聞こえている。教室の奥まで外の光で照らされている。

 そんな世界の海みたいな光の中で、俺たちの時間も揺らめいていた。

 世界が大きく変わったわけではない。風向きが変わったわけでもない。

 ただ少しだけ、船の位置が変わっただけだ。

 それでもきっと、生きていける。

 今はただそんなふうに感じていた。

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