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青春の被害者たちのラブソング  作者: 竹湧綺 / Take You-ki
第四楽章:デュオが声を焦がすまで
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開幕

 翌日、もうライブ開幕の時間が近い。

 慌ただしく準備をしている中、会場によく知った顔があった。

「……来たんだ」

「当たり前でしょ」

 母さんだった。

「……」

「……」

 話しかけたのに何を話したらいいかわからなくて、少し言葉に詰まってしまった。

「あのさ」

「ごめんなさい」

 ずっと考えていた言葉にしようとした時、なぜかあちらから謝罪の言葉が飛び出してきた。

「あなたが真白のことを、あそこまで思い詰めているなんて、思ってなかった」

 ああ、そっか。そのことか。

 頭に血が上っててすっかり忘れてたけど、事件のあったあの日、そんなこと言っちゃったんだっけ。

「いや、俺の方こそ……、その、ごめん」

 俺も謝罪を口にする。

「きっと俺は兄さんみたいにいい子供じゃなかったよね。期待していたような息子に、なれてなかったよね……。迷惑も心配もかけっぱなしで、何にも親孝行できてなくて」

「そんなこと……」

 兄さんは人当たりもよくて、なんでもできて、きっと俺とは真逆の、自慢の息子だっただろう。

「まあ、兄さんほどじゃないけどさ、俺も少しは頑張ってみようかなって思って今日まで準備してきたんだ。だから、その」

「うん見てる」

 その声は少しだけ震えていた気がした。

「……ありがと。じゃ」

 それだけ話して俺はその場を離れた。

 胸につかえていた棘が、少しだけ取れた気がした。

「よかったね」

 戻ると愛歌がそう話しかけてきた。

 見てたのか、……人が悪いな。

「ああ」

 俺たちは残りの準備を終えた。



 気がつけば、出番までもうあと数分もない、という時間になっていた。

 俺たちは下手側で、講堂に集まった人たちのざわめきを聞いていた。変な汗が頬を伝っていく。

「あー、もう。愛歌!」

「なに?」

「やっぱ、こんなに人が集まっちゃったじゃん! あんたのせいで!」

 真夏が愛歌に文句を言った。

「おかげと言ってほしいのだけど……。というかあなたのお友達も、結構多いよ?」

 真夏を見ると、この薄暗いとこからでもわかるほど、緊張していた。

「真夏は緊張しすぎだろ」

「あたしあがり症なの!! こういうの苦手なんだってば」

 意外。初めて知ったな。

 そんなことに驚いていると、その場所に外から入ってきた人物がいた。

「よ、白。大盛況だな」

 是視だ。

 俺の中だと、図書室でしかエンカウントしない人物だと思ってたから、少しだけ新鮮だった。

「あ! あなた、瀬里賀さん?!」

「ええ」

 そして是視が愛歌を見て、目を丸くしていた。

「近くでご尊顔を拝しますと……、これまたとてもお美しい。付き合ってください」

「ええと、ごめんなさい」

「ですよね」

 なんだこいつ。もしかして会う女子全員に、これやってるんじゃなかろうか。

 そりゃ、イケメンでも陽キャでもモテねえよな……。

「ってかお前何しに来たんだよ」

 少しムッとして訊いた。

「何って応援だよ。言った通り、友達みんなに声かけてきたからな! 頑張れよ!」

「……」

 なんだ、陽キャっぽいオーラがすごくてあんま話してこなかったけど、いい奴じゃん。「同学年の生徒」から「知り合い」くらいには、壁を薄くしておくか、と心の中で思った。

 おかげで少しだけ緊張が和らいできたし。

 深呼吸をひとつ。

 ……そして舞台の幕は上がる。


 *


 ……舞台に上がり、そのまま一曲目を始めた。

 わりと有名なロックの曲。それをコピーして演奏した。知っている人も多かったおかげか、ノッてくれている人が多くてよかった。

 一曲目が終わると、愛歌がMCを務め、俺たちを一人ずつ紹介していった。

 そして二曲目。

 愛歌がどうしてもアニソンをやりたいといったので、やることにした曲。

 といってもポップな方じゃなくて、こちらもバンドとしてコピーしやすいロック調の曲。

 ここまで弾いて、それぞれの難所もしっかりと突破していっていた。みんなの調子が好調であることがそこまでで十分にわかった。

 真夏の緊張も、もうすでに解けていそうだ。

 そして二曲目が終わり、講堂の照明が少し落ち、ざわめきが少しだけ波のように遠のいた。

 ピックを握る指先が汗で滑りそうになる。でも、不思議と怖くなかった。

 スポットライトがひとつ、俺の足元だけを照らす。頬から首筋へ一本の汗が伝う。それを拭いながら口を開いた。

「多分ね。またみんなここで愛歌が話を始めるのを期待したんだと思うんだけど」

 今度は俺がMCをする番になった。

「みんなの思い通りになっちゃさ、つまらないでしょ? ってことで、ここでは僕がMCをします。残念でした」

 ブーイングと歓声、そして少しの笑い声が混ざり合い、講堂が一瞬ざわめいた。

 その笑い声に一瞬、紙袋の匂いと音を思い出して、吐き気がした。

(……それでいい)

 一度深呼吸して、続けた。

「次の曲は僕と愛歌が共同で創りました。…………まあ同級生の人は知ってると思うんだけど、いろんなね、僕に関するね、噂、聞いてると思う」

 幻覚か見間違えかわからないんだけど、一瞬、視界の端に橘が映った気がした。

「まあもう、一年も前からの話で気にしてないんだけどさ。でもみんなもあるでしょ、そういうの。多かれ少なかれ。噂とか印象とかで、人から勝手にラベルを貼られるようなことってさ。そう言うの、ムカついたから作りました。その溜まったもん、全部吐き出すつもりで、最後の曲を歌うから! みんなはついてこれんの?」

 少しだけ声が上がる。

「ついてこれんのかって訊いてんの! お前ら俺みたいな陰キャにそんなこと言われてていいのかっ!?」

 煽りに焚きつけられた声が上がる。

 そして、静かになったとき、スポットが一点、俺たちの前に落ちる。

 息を吸う音だけが、マイクに拾われた。

「———『ラベリング』」

明日、10月23日金曜日の20時、新エピソード更新とともに、YouTube、ニコニコ動画に、楽曲『ラベリング』を投稿いたします。

新エピソードにもURLを貼り共有させていただきますが、よろしければ聴きに来ていただければと思います。

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