文化祭一日目①:カジノとメイドと占いと
時の流れは早いもので、気づけば文化祭当日になった。
俺たちのライブの出番は二日目。一日目は俺は基本暇だ。
うちの学校は、一年生はカジノとかお化け屋敷とかみたいな体験型のアトラクションを、二年生はカフェとかスイーツ店みたいな飲食系を、三年生は劇や映画みたいな舞台系をやるのが伝統となっている。
俺のクラスはダーツバーなるものをやるらしい。もちろん酒の提供なんかできやしないのに、バーと名乗るのはいかがなものか、と思う。というか文化祭の飲食系なんて、二郎系ラーメン屋くらい回転率命のはずなのに、その辺大丈夫なんだろうか。
「ノンアルカクテル出して、ダーツは1ゲームとかにすればいけるんじゃない?」
と愛歌が言っていた。
「本来のカクテル飲んだこともない人が、ノンアルカクテル作るって、それこそ二郎食ったことない人が、二郎インスパイア系の店出すぐらい変じゃない?」
とツッコんだ。
「文化祭に対して、なに真面目にツッコんでるの?」
しかし愛歌に逆に、ツッコまれてしまった。
ちなみに俺は謹慎の影響もあって、ほとんど関われていない。というかシフトにも組まれていない。
愛歌は愛歌で、車椅子で接客は大変だし、調理側に回るのもちょっと危ないか、という話になった。クラスの人たちは申し訳ないな、という雰囲気を出していたが、そもそも愛歌が転入してくる前から決まっていたものだったから、それは仕方ないだろう。
俺は一人でぶらぶらでもしようかと思っていたのだが———。
「何言ってんの! 二人で回んなよ! バカなの!? ってか白! あんたから誘いなさいっての!」
となぜか真夏にブチギレられ、愛歌と二人で文化祭を回ることになった。
なんだかいつも以上に騒がしく、いろんな匂いのする廊下を歩く。
午前中は一年生のアトラクション系のとこを回ってた。
まず縁日に入ったんだけど、あまりに愛歌の射的が上手すぎて、一年生をドン引きさせてしまった。本物を隠し持ってる人はレベルが違う。
カジノも同じで、特にカードゲーム系が強すぎた。文化祭のトランプゲームでイカサマなんかしますかね、普通。
「何言ってるの。バレないようにイカサマができるなら、それは本気で挑んでるのと同じでしょう」
とか言ってたけど、倫理観はどこに置いてきたんだろう。
その後にお化け屋敷のクラスの人に、入っていかないかと誘われた。
「え、いやよ。なんで脅かされるってわかってて、行かなきゃいけないの?」
「同感。心スポ行く方が100倍いいね」
と断った。なんかホラー系に対する考え方は似てるのかもしれない。
聞いてみると、案の定スプラッター系やジメっと系は見れるが、ジャンプスケア系は苦手だと言っていた。
次に占いの館に入った。
「え! カップルですか!?」
「いやカップルっていうか……」
「じゃあ、相性占いやっていきましょうよ」
と乗せられ二人で座らされた。占い師役の女の子が占いの本を開く。「今日からできる占い」と書かれている。せめて、覚えてからやってくれ、と思った。
「えっと……、そうだ。誕生日と星座は?」
「1月15日の山羊座」
「8月9日の獅子座よ」
俺と愛歌がそれぞれ答えた。
「ありがとうございます。えーっと、運命数7の山羊座のあなたは、思索的・分析的・精神性を重視するタイプ。自分の世界を大切にし、少数の信頼できる人と深く関わる傾向がある。理想を追いながらも現実的で、冷静に物事を見極めます。恋愛でも信頼がすべて。たとえ恋に落ちても慎重に慎重に見極め、信頼を築いていく。でも、この人、って人が見つかったときの愛の深さは人一倍強いでしょう」
と、まずは俺が占われた。
「当たってるんじゃない?」
愛歌が笑いながら言ってくる。
「そうかなぁ。あれじゃないのか? えっと、プラシーボ効果?」
愛歌が一瞬フリーズする。
「……バーナム効果のこと言ってるの?」
「ああ、それそれ。さすが」
というやり取りをしながらふとみると、女の子がにやにやと笑っているのが見えた。
「このタイプの人は考えすぎちゃって、恋を逃すことが多いらしいですから、気を付けてくださいね」
「ほら言われちゃってるよ」
「うるさいな……」
難しいんだよ。そういうのって。
「運命数8の獅子座のあなたは、行動力・カリスマ性・成功志向の象徴。外向的で、力強く周囲を引っ張るリーダータイプ。結果を出すことや社会的成功に強いモチベーションを持ちます」
「えーそうかな」
お前は社会的に成功した状態から、人生が始まってるからな……。
と心の中でツッコんだ。
「恋愛でもカリスマ性があり、好きになったら一直線。派手なアプローチや、印象的な言葉で惹きつけます」
「……当たってるんじゃない?」
と今度は愛歌に言った。
「えーそうかな?」
愛歌が自分のことになると否定する。
「お二人の関係は一見対極ですが、真剣さや一途さは似たところがあるため、同じ方向を向いた時の噛み合いは運命的な物があります。お互いに敬意と愛を育んで行けば、足りないところを支え合うような素敵な関係になれるでしょう。だそうです」
「だそうですと言われても……」
愛歌も少し頬を赤らめていた。
すごく気恥ずかしいんだけど。なにこれ。
占いって、そういうものだったっけ。もっとカウンセリング的な感じじゃないの?
昼頃になり、お腹が空いてきたので2年生の飲食店のエリアに向かった。
「そうだ。真夏のところに行きましょうよ。優先券もらったの」
「えー、あれ入るの?」
何をやるか聞いていたので、少し渋った。
「ええ、日本と言ったらあれなんでしょ?」
「その偏った知識は、早く脳から追い出したほうがいいぞ」
愛歌に連れられて2年7組の教室に向かった。
「「おかえりなさいませ、ご主人様!」」
そう、メイドだ。メイド喫茶だ。
メイド服のフリルの白さが、窓から差し込む昼の光を反射していた。
甘いクレープの匂いが漂って、なんとなく居心地が悪い。
「やっぱ、文化祭っていったらメイド喫茶っしょ」
俺たちが通された席に真夏が寄ってきた。
「素敵ね。真夏、似合ってるわよ」
「ホント? お嬢様の愛歌が言うならそうかもね」
いや、金持ちの家にいそうなメイドってもっと、クラシックなのじゃないの? ってか愛歌の家にはそんな型にはまったメイドはいないだろ。
もちろんでかい家だし使用人の方はいるが、服装は自由だし。
「で? ご主人様の方は?」
そう言ってこっちを向いてポーズを取ってきた。
なんで俺だけご主人様呼びなんだよ。
「いや、まあ、わかんないけど、可愛いんじゃないか?」
正直なところ、真夏はスタイルもいいし、顔は可愛い方だ。
胸を強調するような服だし、スカートは短くて水泳部の健康的な脚が眩しくて、目のやり場に困る。
「お、照れちゃって。この浮気者~」
「浮気者~」
愛歌まで一緒になってこっちをからかってくる。
「何が浮気だよ……」
「女の子にバレちゃう浮気なんて最低なんだ~」
さらに愛歌に揶揄われる。
「しないよそんなの……」
ちょっとムッとしてそう言った。
「…………わかってるわよ……」
「……」
「……」
「あの、人の教室でイチャイチャするのやめてもらえない? ってか早くご注文いただけますかね、ご主人様?」
真夏に怖い笑顔で言われた。
元はと言えば、お前が蒔いた種だろと言いたいのを飲み込んで、俺たちはメニューからそれぞれ注文した。
「ちょっと空音さん! 家庭科室にきてくれない!? また唯原くんが!」
と教室に女の子が駆け込んできた。
「陽のやつ、またなんかやらかしたの!? あーもう!」
そう言って、真夏が出て行くのを見送った。大変そうだな。




