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青春の被害者たちのラブソング  作者: 竹湧綺 / Take You-ki
第三楽章:アッチェレランドの果てに
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幸せになれない理由

 その晩、愛歌の家で風呂を借りたあと、いつも週末に使わせてもらってる部屋で少し体を休めた。

 窓のへりに座って、雨の雫が窓を伝って落ちていくのを眺める。

「これ歌詞のノート?」

 いつの間にか部屋に入ってきていた愛歌が、テーブルに乗っていたノートを見て言った。

 ペラッとページをめくる音がする。

「そう。全然書けなくて」

 窓から目を離さずにそれだけ答えた。

「中にはいいのもあると思うけど」

「ダメだよ。だって……、空っぽな気がする」

 世にある歌詞をただ真似しただけみたいな、そんなふうに感じてしまう。それでは中身が無く、空虚さが際立つだけだ。

 愛歌はしばらく何も言わず、その間俺は窓の外の雨を見ていた。

「……ねぇ、白。ずっと聞きたかったことがあるんだけど」

「なんだよ」

「答えたくなかったらいいんだけど、白って、なんていうか、ずっと、さ。幸福になるのを避けているような、そんな印象があるなって、思ってたの」

「……」

「それって、昼間言っていたお兄さんのことと、何か関係あるの?」

 返事を考えながら、雨音を聞いていた。

「最近さ。早く歌詞を考えなきゃって思って、よくいろんな曲聞くようになってさ」

 結局わからなくなって浮かんできたまま、口にすることにした。

「『やまない雨はないよ』なんてよく言われるけど。じゃあ、死って名の雨が明けることはあんのかな」

 肉体が滅んでも、心が死んでも、それも雨って表現されるんだろうか。

「えっと……」

 愛歌は何か言葉を探しているようだったが、それは音にならなかった。

「ごめん。困らせた」

 愛歌に向き直った。

「兄貴の真白《ましろ》とはさ、結構年が離れてて、俺の6歳年上だったかな。俺が小一の時、兄貴が中一の時か、花火大会に連れてってもらって。すごい感動したのを覚えてる。人間にあんなものが作れるんだってびっくりしてさ。……きっと俺のそんな顔が嬉しかったんだろうな。その日から花火職人になるんだ、って言い始めて」

「あなたのことが大好きだったんだね」

「……そう、だったのかな。中3の冬、あの人はその花火大会を手がけた花火師のとこに頼み込んで、弟子入りした。そして、そこから帰ってくる時、交通事故で亡くなった」

 雨音だけが、やけに鮮明に聞こえていた。

 その時の母さんが俺に一瞬見せた顔が、今でも忘れられない。泣いているのか、怒っているのか、哀れんでいるのかもわからない、あの目が。

「だからお兄さんの死に、責任を感じてるの?」

「……わからない」

 返事をして立ち上がった。

「日本ではさ、兄弟の名前に同じ漢字が入っていると、片方が幸せな時は片方は不幸になる、なんて言われてるんだ。名前占いってやつだな」

 言いながら、ベッドに腰掛ける。

「兄貴はきっと天国に行っただろう。それなら……、俺が幸せになることなんて、できやしない」

 投げ出すように言った。

「……だから、幸福から逃げるの? そうなるのが、怖いの……?」

 愛歌の声が、雨の音よりも小さく響いた。

 少しの間だけ、何も言えなかった。

「わからない、自分は幸せになんて、なれる人間じゃないって思ってたけど、それから逃げてる人間ってのは、今初めて気がついたよ」

 ベッドに寝転がる。

「もちろん、そんな占いなんて、ただの迷信だってわかってる。……でも俺は『俺が幸せになれない理由』が欲しかったんだと思う」

「……」

 二人はただ、そこで雨音を聞いていた。

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