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青春の被害者たちのラブソング  作者: 竹湧綺 / Take You-ki
第三楽章:アッチェレランドの果てに
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突き刺さる噂

 雨が葉や窓を叩く音だけが、教室を満たしていた。

 放課後の教室には、もう生徒の声がほとんど残っていない。黒板の白い文字も、湿った空気に滲んで見えた。

 今日は金曜日。「家に帰ってみんなを迎える準備をしないと」と愛歌は帰る準備をしていた。

(雨が強くなってきているし、お風呂の準備もさせておいた方がいいかしら?)

 などと考えて、家の雑務用AIに連絡しようとしていた時のことだった。

「瀬里賀さんさ」

「はい?」

 話しかけてきたのは、白がよく「一軍女子」って呼んでいた三人組だった。愛歌がこの学校に転入してきた頃に、学校を案内してくれたりした人たち。

 プライドが高そうなリーダーっぽい子と、髪を指で巻いてる子と、笑い方にちょっと毒がある子。そんな感じだったと記憶している。

「青鏡くんと最近仲良くしてる、って聞いたんだけどそうなの?」

「ええ。とても良くしていただいていますよ」

 正直に答えた。

「えー、あいつは絶対やめといた方がいいって! 見るからに陰キャじゃん! 愛歌さんとは合わないって」

「その陰キャというのが何なのかは、とんと存じ上げませんが」

 もちろん知っているが、愛歌は笑顔でとぼけながら言った。

「とても素敵な方だと、私は思っていますよ」

 これまた本心を言った。

「好きなんですか?」

「へ?」

 その言葉で愛歌は、ぼっ、と顔が熱くなっていくのを感じた。

「え、冗談のつもりだったのに。マジ反応じゃないすか」

「えーマジぃ!?」

 そう指摘され、さらに顔が熱くなっていくのを感じた。

(いやいやいや、違うから! 白はその……、そう、友達で、バンドメンバーで! 一緒にいるとちょっと楽しいし嬉しいけれど……。あれ? それって……)

「ぜーったい、青鏡くんはやめた方がいいですよ! ね?」

 愛歌が心の中でぐるぐると葛藤していると、そんな声が耳に入ってきた。

「え?」

「だってぇ、中学ん時、プールの時に女子のパンツ盗んだことあるって聞いたよ!」

「………っ????」

「えー、まじぃ? サイテーじゃん!」

 困惑する愛歌を他所に、女子たちは話を進める。

「まじまじ! それがバレて不登校になったって話だよ」

「あ。あたし、人を死なせたって聞いたことあるよ!」

 愛歌の心臓が一瞬、止まった気がした。

「あー、それね。同級生をレイプして妊娠させて、それで自殺しちゃったんだって。教室で首吊って」

「えー、やっばぁ。女の敵じゃん。悪魔だよ悪魔」

「そんなのが同じ教室って最悪だよね。吐き気がしちゃうっていうか」

「あ、じゃあ、殺しちゃう? 階段から落とせば事故ってことで死んでくれんじゃね?」

 ドッドッドッ。

 ——愛歌の心臓の音だけが、鼓膜の内側で響いていた。

 そのほかの音は、まるで水の底に沈んだみたいに遠のいていく。それでも彼女たちの話し声だけは、はっきりと聞こえてしまっていた。

「確かにー! だーれもあいつのことなんて気にしてないし、生きてたって死んでたって変わんないでしょ!」

「ってか、悪魔討伐した英雄でしょ、うちら」

「ちょっとやめなーよ。あたしらがそんなことしたら、あいつと同類になっちゃうじゃん」

「確かにそっかー」

「勝手に死んでくれたらいいのにね」

 残酷な言葉が、軽々しく飛び交っていく。

「……ごめんなさい」

 愛歌はそれに耐えられず、その三人から逃げるように飛び出した。

(どういうこと? 嘘、だよね……!?)

 愛歌はわかってる。今回の話に事実だと断定した言葉は一つも出てきていない。どれも噂にすぎないものだ。どれもくだらないと一蹴してしまえばいいものだ。

 でも愛歌と白はまだ、出会って二ヶ月も経っていない。それまでの白を何も知らない。それだけで全てのことがわかった気になどなれない。

 完全に信用していいかなんて……。

(わからないよ、白!)

 心の叫びすらも、雨の音に飲み込まれていった。

 世界の輪郭が、少しずつ滲んでいく。

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