朝の図書室
二つほどの台風が近づいている。その影響でしばらく雨が続きそうだと、天気予報がそう告げていた。
珍しくはあるが、東京近郊のこの辺に来る頃には、たいてい逸れるか、消えているだろう。
そんな風に思っていた、雨の日のことだった。
放課後はバンドの練習で行けなくなったが、朝だけはまだ図書室に通っていた。
図書室には自分以外、誰もいなかった。ページをめくる音と、自分の呼吸だけが、やけに大きく聞こえた。
本を借りても読む時間がないから、一人でゆっくりする時間はここくらいだ。それに、こうして言葉に触れていたら、歌詞のインスピレーションが湧いてくるかもしれない。
そう思ってゆっくり本を読んでいたというのに……。
「あ、やっぱいた! 青鏡!」
と、静かな朝は儚くも終わってしまった。
「お前、最近、瀬里賀さんと仲良いって噂なんだけど」
と是視が爆弾を持ってきた。
「まあ仲はいい、と思ってるけど」
「まじかよ! すっごい綺麗な人だったよな! 今度、紹介してくんね?」
「嫌だよ」
少し苛立ちを覚えてそう返した。
「なんでだよ。あ、お前! 彼女は作らないって言ってたじゃんか!」
何を勘違いしたのか、そんなことを言ってきた。
「……彼女じゃないけど」
「ならいいじゃん」
「あいつ、そういうの嫌がるの」
「えー、お嬢様だしそうなのか……」
……はぁ……。なんで俺こんな嘘ついた?
「じゃあさ、瀬里賀さんが文化祭で出しものするって話は?」
「本当だよ」
面倒臭いので、とりあえず短く返事をしていく。
「まじか。これも当たってんだ。じゃあ、それに青鏡も一枚かんでるの?」
「一枚というか、一緒にやるよ」
それを聞いた是視が、大袈裟にうなだれる。
「くっそぅ。俺が色のねぇ、むさ苦しい学校生活を送ってる間に、そんな青春しやがって……」
「青春って……。バンドだよ。ずっと練習してるだけ」
青っていうより、スタジオ色だ。
「バンド?! くっそ青春ど真ん中じゃねぇか!」
じゃあナイ音入れば良かったじゃん……。なんでサッカー部の副キャプテンやってんの?
「お前ずっと何言ってんの?」
「気づいてないバカに、青春真っ只中にいるんだぞって教えてやってんだよ」
バカってお前。
……なんだその押し付けがましい優しさ。
「青春、なんてのは大人たちが勝手に、子どもたちに押し付けてるだけの希望にすぎないの。もしくは、創作物で消費するためだけの売り文句」
「相変わらず、冷めてんなー、お前」
呆れたように言われた。
「まあいいや。友達も誘って見に行くわ。楽しみにしてるよ」
「そりゃどうも」
その辺で予鈴が鳴った。
「あ、やっべ、先生んとこ行かないと。じゃな」
そういって是視が出ていった。なんだったんだ。
図書室はまた、ガタガタと風が小さく窓を揺らすだけの、静かな空間に戻っていた。




