音楽談義とバンド
愛歌と遊ぶようになって一週間がたったある日。
その日も四人で昼食を食べていた。
「どうかなー。今もいい音楽はたくさんあるなとは思うんだけど。音楽として好きなのだと、90年代〜2000年代の曲が好きだよ」
その日は音楽の話題で盛り上がっていた。真夏って意外と趣味が、今風じゃないとこがある。
「愛歌はやっぱり、小さい頃からクラシックとか聴かされてたわけ?」
「もちろん聴いてはいたわよ。コンサートも定期的に行ってはいたし。でもそれだけしかダメとは言われてなかったわね。ポップスやカントリーや民族音楽から、ロックやメタルだって聴いてたわよ」
「怒られないの?」
「ええ別に。お父様は演歌が好きだしね。お母様はビートルズが好きだったみたいよ」
みたいってことはあんまり知らないのかな。CDが残ってたとか?
愛歌のお母さんは、すでに他界していると聞いた。愛歌の半身が動かなくなった事故の時に。
「私はやっぱりアニソン系のJPOPが好きかな。それも別に止められなかった。あ、でもエレキギターを買った時は、ちょっと怪訝な顔された記憶があるわね」
「えー、世代的かなぁ」
エレキは不良がやるもの、みたいな感覚って、俺たちの親世代よりさらに前な気がするけど……。
「楽器集めが一つの趣味みたいな感じで、その一環だったのだけれど。だから弾くのは小さい頃からやっていたピアノとヴァイオリンだけにしてたわね」
「へぇ、本当にお金持ちって感じの2つだね」
「そうかしら?」
「そうだよ。ピアノはともかくさ、ヴァイオリンを小さい頃から習わせておこう、って家なんてそうそうないよ」
確かに。その情報だけなら絵に描いたようなお嬢様だ。
「白確か、ギター弾けたよね」
真夏が聞いてくる。
「ああ、そうだな」
「あたしがベース弾けるから。あとドラムがいたらバンド組めちゃうね」
「それだ!」
急に陽が話に入ってきた。
「な、何が……?」
真夏も驚いている。
「前に言ってた穴埋めだよ! 俺たちがバンドやれば解決だろ!」
「はあ?! 今のは冗談だよ? いきなりできるわけないっしょ? あと二ヶ月しかないんだよ!?」
……なんか話が見えてこないな。
陽が言うってことは文化祭関係か?
「なんの話だ?」
また陽の思いつきに乗せられてしまう前に、一応聞いておいた。
「……はあ……。えっと、音枝センパイわかる? ナイ音の」
ナイ音とは、ナイトミュージック部。かっこいい言い方をしてるが、実態は普通の軽音部だ。なんでも「軽い音楽って差別だろ」とか言い始めた先輩がいたらしく、数年前から変わったらしい。
「いや知らない」
「一応、ナイ音のエースだったらしいんだけどね。夏休み中にデキちゃったんだってさ」
「……は?」
またも話が斜め右上に行き、ついていけなくなる。
「だから! 妊娠しちゃったの。マジかは知らないけど相手29歳だって」
「えぇ……」
十歳以上も年上じゃねぇか。
「で、もう夏休みのうちに自主退学しちゃったんだけどね。その人、文化祭の講堂でのステージに2枠出る予定だったのね、所属してたバンドで。でもいなくなっちゃって、バンドもほぼ解散状態らしいんだ」
文化祭の日だけでも呼び戻せば、と思ったけど無理だろうな。そんな噂が広まっちゃってるとこに、わざわざいくなんて、しんどいだけだろう。
「片方の代わり見つけるだけでも大変だったんだ」
陽が言った。
「なんだ片方は見つかったのか」
「うん。初日の前半に十分と二日目の午後の二十分の合計2枠で、前者の方になんとか。3年のセンパイに芸人志望のコンビがいてさ、漫才やってくれるって」
へえ。そんな人が秋高にね。
「で、問題は二日目の方なんだけど」
「ナイ音の誰かが代わりやればいいんじゃないのか?」
「前後の準備の関係とか、クラスでの出番とか色々被って難しいんだって。締め切りも近いし、すぐには決められないらしくて……」
なるほど……。
「文化祭実行委員として、一枠無駄時間作ったら、文句言われかねないだろ! 毎年ぎりぎりになってから、劇五分オーバーしちゃいそう、だのなんだのって相談来ても、無理ですってはねのけてんだからさ!」
外部からゲスト招く、なんて公立高校じゃ無理だしな。
「で、それなら、俺たちでどうにかしちゃえばいいじゃんか、って話だよ!」
「あんのねぇ! 何度も言うけどできるわけないでしょ! あと二ヶ月もないの! 音楽ってアニメほど簡単じゃないんだよ?!」
「わかってるけどさ。そろそろ決めないと、この案も無理になるぞ。難しいだろうけど、可能もあるってことだ。他に案あるか?」
「……ないけどさ」
いつになく真剣な顔してる陽に、真夏が押されている。
「でもさっきも言ったけど、ドラムがいないんだよ。そこ、どうすんのさ?」
「俺がやる」
陽が真顔で言った。
「はあ? できんの?」
「俺昔から太鼓やってただろ? リズム感には自信あるし」
「……まあ確かに」
祭りの時にも叩いてたな。七月に真夏と一緒に見に行った。
確かに上手かった記憶がある。
「土曜までにはうちに、練習用のスタジオを完成させて見せるわ」
愛歌がすっと手を挙げた。
「愛歌、これ賛成なの?!」
「ええ。せっかくのチャンスだもの。それに、それこそアニメみたいで楽しそうじゃない?」
「それよりも、練習場所提供してくれるって?」
陽が愛歌に訊く。
「ええ、土曜には完成させて見せるわ、スタジオ」
「さっすが!」
陽が盛り上がっていた。
「ねぇ白」
二人に聞こえないように、真夏が俺に話しかけてきた。
「白は賛成なのこれ」
あんただけはあたしの味方だよね、と言った顔をこちらに向けられる。
「……賛成っていうか、ああなった陽は止まらないだろ……」
「いや、そうなんだけど……」
もう止めたって無駄だなって諦めがでかい。
「あいにく友達が他にいないからね。失敗したとこで問題ないかなって」
「あたしは違うんだけど」
「覚悟、決めた方がいいぞ」
はぁ、と真夏が大きくため息をつく。
「わかった! もうわかったよ!」
真夏が大きな声でそう言って、おもむろにスマホを取り出し誰かに電話を始めた。
「あー、もしもし、真央? ごめん。あたし今日から文化祭まで部活いけないから。うん。そう」
電話越しに聞こえる相手の驚き声がちらと聞こえたが、真夏はそれを気にしなかった。
「そうそう。わかってる。大会はもう諦めるよ。しゃーないしゃーない。うん。センセには言っとく。んじゃね」
そういって電話を切った。
「まず言っとくよ。見に来る人は私たちを見になんて来ないからね?」
そして静かに言い始めた。
「かといって誰も来ない、なんてリアル指向のアニメみたいなお話みたいにもならないよ」
「あー、そりゃなんで?」
「ここに!」
急に大きい声を出しながら愛歌の肩に腕を回して、ホールドするように掴む。
「いっちばんリアルじゃないやつがいるからだよ!」
「わーお、真夏のおっぱいやわらか……」
愛歌がなんだかご満悦そうな顔をしている。
「こいつに! 普段から! 鼻の下を伸ばしてるような男どもが来るだけ! バンドなんかやるより愛歌一人でアイドルやらせた方が絶対、盛り上がるよ」
「あ、スクールアイドルってやつね!」
愛歌はそれはそれで楽しそー、と、目を輝かせている。
「いい? やるからには、本気でやるかんね? 今日から放課後はずっと練習。恥をかかない程度に、なんて甘っちょろいとこで止める気はないよ。ってかその程度だったらあたしは即刻やめるから。いい?」
「もちろんだ」
陽が返事をする。
その日のうちに出場届を陽が提出してしまった。なんで受理されたのかわかんないんだけど、愛歌の名前を見た途端、簡単に通ってしまったらしい。
その日の放課後、全員で学校近所のカラオケに行った。
「わぁ。これがカラオケなのね!」
愛歌がはしゃぐ。
「とりま、やる曲とボーカル決めないとでしょ」
「確かにな!」
「あ、陽はダメだかんね、ボーカル」
「え? なんでだよ」
陽がショックを受けた顔をする。
「ったりまえでしょ! 他のみんなより楽器経験で出遅れてるくせに、一番大事なドラムやるんだよ!
あんたがリズム崩したら全員転ぶんだからね! 歌? 論外! コーラスもなし!」
まあ、な……。それは仕方ないと思うよ?
「え? 曲は作るんじゃないの?」
愛歌が無邪気に言う。
「……いやいや、無理に決まってるでしょ」
「白はしてるでしょ? 普段」
「へ?」
え、いや。その……。
「白って作曲できるん?」
「できるというか趣味で……。人に見せられるようなもんじゃないよ」
「えー知らなかった」
まあ言ってなかったし。
「オリジナル曲やったら少し盛り上がると思わない?」
「いやどうかなぁ」
既存曲だろうが、なんだろうが、内容によるんじゃないかな。
「でも面白そうだね。セトリはギリギリまでは書き換えできたはずだから、お願いできない?」
「『恥をかかない程度になんて甘っちょろいとこで止める気はない』んじゃなかったか?」
「もちろん適当なの作ってきたり、あまりにも難解でそれまでの練習じゃあ応用利かずに無理だこれ、とかなったら止めるよ」
ま、真夏はその辺容赦なさそうだし安心だな。
「はいはい。まあ、努力はしてみますよ。で? 今日はボーカルとカバー曲だろ?」
「あ、そうそう。いくらオリジナル曲を作るにしても、二十分だからね。二、三曲は必要だからね」
で、愛歌の歌を知ってた自分としてはなんとなく予想はできてたが、メインが愛歌になった。そして何故か、サブとコーラスが俺になってしまったのだった。




