↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/49

1. アスフォデルのまともな一日 (6)

 右にいた奴が腕を大きく回してストレッチをしながら聞いた。


「手も足も全部引き抜いていいよ。」


 ボスは席から立ち上がらなかった。二人の体格があまりに大きくて並んで立つだけで通路が狭くなって見えた。


「悪い行動は!ダメですよ!」


「気をつけろよ。準軍用強化きょうか義体ぎたいだ。少し古い世代だけど軍隊でも使用した記録きろくがある。」


 それだけ信頼性と威力は検証された義体ぎたいだった。意外と人脈と資金力のあるギャングだったようだ。


「ふん!お金を払わない悪い子は許しませんよ!」


 有栖 あらは右耳の近くにゲンコツを食らわせる準備をしながら近づいていた。


「へ……」


 見ている者は苦笑いが出た。背丈もずっと小さい子が、幼稚園の先生みたいに子供を叱るといって近づいてくるから。


「そうだな。一発くらいはなんだ。効果がなければ勝手にひれ伏せ?」


「あらまあ。怖いですねえ。あまり痛くしないでくださいよ~。」


 二人のやくざが馬鹿にしたが有栖 あらは最後まで態度が変わらなかった。


「先生の!愛の鞭だよ!」


「ドン」


 少し中指が飛び出るように拳を握ったまま、右にいた敵の肩をちょいと叩いた。


「はははははは……あ?」


「テトン」


 一拍遅れて肩が溶け落ちて腕が落ちた。そして当たった部分がぶくぶくと沸き立つように気泡が浮いた。


「うわわわわ!?」


「ふん!これからは悪い言葉と!悪い行動は!」


 有栖 あらは左手でゲンコツを食らわせる準備をしながら近づいた。当然当たった奴は後ろに退いて避けようとしたが、有栖 あらが前に歩く方がずっと速かった。


「ドン」


「うわあああああ!?」


 叩かれただけなのに肘が溶け落ちて義体ぎたいが床に落ちた。


「気、気が狂った。何だ!?」


 それでも残った敵は驚きながらも突進とっしんして有栖 あらを攻撃しようとした。人の頭より大きな拳を使って有栖 あらを打ち据えようとした。


「これ?先生の!愛の鞭!」


「ドン」


 でもあまりに簡単に防がれた。有栖 あらの手が5倍は小さいのに、手を開いて拳を掴んだまま堪えていた。


「拳を振るう悪い子は!許しませんよ!」


「うわあああああ!」


 有栖 あらが掴んでいた手が溶け落ちた。高温のオーブンやIHヒーターに乗せたように、宙で蛋白質たんぱくしつの構造が溶け落ちた。そしてその後を追って義体ぎたいの部品が落ちた。その義体ぎたいの部品たちも高熱で加熱かねつされて赤く焼けていた。


 有栖 あらは少しの間作動さどうさせていた極超短波ごくちょうたんぱ発生器モジュールを解除かいじょした。


「はあ。本当に使えるやつがいないな。」


 これでボス一人だけ残った。しかし机の後ろからまだ立ち上がっていなかった。


「さあ、お月さま組の子。約束をしたなら守らないといけないよね?」


「……何?」


「与えると言ったものは渡して、約束をしたら守らないといけないの。そうすると良い子ですよ!」


「コンセプトがなあ……」


 有栖 あらの言葉にボスはため息をついた。自分の手足のような団員たちが床で呻いているが一言も声をかけなかった。今それが重要なことではないから。


「まさかあの運送業者……誰だっけ?そいつのためにこうしているのか?」


「うん!渡すものがあれば渡さないと!」


 アベルはこのくらいになれば受け取るお金はどうでも良かった。すでにお金に比べてちょっとやり過ぎた——完全にギャングの根を引っこ抜いてしまったのだから。もちろん一度こうすれば仕事の時にアベルのお金を踏み倒すことはないだろう。後のためにこうするのも念頭にはあった。


「はあ。いい。とりあえず下りてから話そう。」


「え?」


 有栖 あらが首を傾けたのに、ギャングのボスは机の下のボタンをぐっと押した。


「ドーン!」


 突然床が揺れてふっと沈む感じがした。有栖 あらは驚きながらもDNIを使って脚の筋力きんりょく強化きょうかした。このまま地下室まで落ちても大きな怪我がないように。


「もともとここに使うものではないんだけどな……」


 ボスが落ちる場所には大きな鉄の塊があった。慣れてはいないがちゃんと着地してその鉄の塊の中に入った。有栖 あらは着地しながら体勢が崩れたが。


「だから4階が空っぽだったのか?」


 そこに入るのがぎりぎりな大型の物体だった。有栖 あらはこれが何か分からなくてしばらく状況を確認かくにんした。いろいろな攻撃方法があるから、あれが何かを知らないと効果的に攻撃できないだろう。


「有栖 あら、戦争ロボットだ。できれば後退して。」


「え?」


「主力戦車ではなく悪路突破とっぱ用に作られた6脚戦車だよ。120mm主砲しゅほう機関銃きかんじゅう、近距離レーザーカッターが付いている。誘導ミサイルポッドは後ろ側に二つ。ソフトキル、ハードキルシステムもあるから生半可な砲撃ほうげきも通じないと思う。五発くらいは防御できるだろう。」


 アベルの言った通り6本の脚が地面を踏んで立っていた。短くはない砲身ほうしんが下の方についていた。運転席より低い場所に取り付けられた砲塔ほうとうはかなり素早く回転かいてんして有栖 あらを捕捉した。


「おい!有栖 あら!避けてくれって!」


 これくらいならテストの話ではない。アベルが後退を勧めたのも戦略的な選択だ。今持っている武器ぶきでは歯も立たないだろう。大型重機関銃じゅうきかんじゅう迫撃砲はくげきほう対戦車武器ぶきでも持ってこない限り、戦車の装甲板そうこうばんを貫く方法はない。


「何よあんな程度で?」


 しかし有栖 あらはため息をついて自分に向けて回転かいてんする砲塔ほうとうを見た。あの砲のサイズなら当然、軍用の歪曲場で外れさせるのは通じないだろう。人型サイズに搭載とうさいする歪曲場は重量の限界が決まっているから。


「とりあえず狙撃そげきで補佐するから、なんとか避けながら撃てないようにして!」


「え?あ、そうだ。」


 有栖 あらは何か思い出したように目をぱちぱちとさせた。そして何かを言おうとした瞬間……


「ドドーン!」


 戦車の主砲しゅほうが火を噴いた。


「くそ!」


 徹甲てっこうてっこうだん弾倉だんそうを交換していたアベルは揺れる建物を掴んで悪態をついた。発射はっしゃする時の反動はんどうだけでも周りの建物が揺れるほどだった。出力しゅつりょくが尋常ではなかった。


「有栖 あら!」


 建物の内部で爆発ばくはつがあったのだから、爆発ばくはつ衝撃しょうげきしょうげきはだけで有栖 あらは重傷だろう。もし砲弾ほうだんに直撃していたなら遺体も見つけるのが難しいかもしれない。


「本当に……なんでギャングがあんなものを持っているんだ!?」


 もともとビーストヘッドというギャングは近接戦闘せんとうで有名なチンピラ集団だったのに。アベルも戦争兵器を持っているとは思っていなかった。急いで有栖 あらのDNI情報じょうほう記録きろくを受信してみたのだが……


「え?」


 1分前のデータと大きな差がなかった。至って正常だということだ。暗号あんごうあんごうかされた数字が一つ増えていたのが違いだった。


「え、アベル。私を少し助けて。私が素手であれを引っこ剥がしたら……」


 有栖 あらは戦車の脚についている装甲板そうこうばんを剥がそうと努力していた。しかし掴む場所が適当ではなくてうまくいかなかった。


「生きているか!?怪我は!?」


「爪が全部欠けちゃうよ!」


「……」


 アベルはあきれてため息をついた。とにかく有栖 あらは無事だった。直撃は避けて、破片はへん衝撃しょうげきしょうげきはを防ぐために歪曲場を使ったのだろう。


「でも静かになったね。生きているのかな?」


 有栖 あらはひょっとしたらギャングのボスが衝撃しょうげきしょうげきはに気絶したのではないかと思って聞いた。本当にとんちんかんな話だが、たまに自分が発射はっしゃした砲弾ほうだん爆風ばくふう衝撃しょうげきを受ける場合もあるから。


 戦車というのはもともと室内で使うものでもないし。


「ウィン……」


 次の瞬間センサーと機関銃きかんじゅうが忙しそうに動いた。有栖 あらを探そうとしているようだった。


「あははは!良かった!死んでないね!?」


 有栖 あらはセンサーの赤外線と感知範囲をぎりぎりかすめながら戦車の捜索そうさくから外れた。いくつものセンサーが同時に動いているが、有栖 あらはその範囲を直接見て避けるように軽やかに動いて躱した。


 アベルはため息をついて神経を集中した。銃口じゅうこうの向こうには半分壊れたギャングの建物があった。砲撃ほうげきで建物の一部が吹き飛び、アベルも直接狙える状況になったのだ。


「くそ野郎ども!もう全部いらない!近くのギャングはこの戦車で全部なぎ払って!俺が全区域を取ってやるぞ!」


 でなくても真夜中の砲撃ほうげきで周りの住民たちはみんな起き出して避難の準備をしていた。そしてギャングのボスがスピーカーでそんなことを言っているのだから、街中が騒然としていた。おそらく少しすれば警察けいさつも来るだろう。様子を見るに特殊部隊とくしゅぶたいが来そうだった。


「ふーん……」


 そして不可能な話ではない。あれは戦争でも使用される軍用兵器だから。弾薬だんやくとパイロットが十分にあれば戦争の遂行も可能なスペックだ。


 アベルは倍率のない光学装置を持ってきたのが惜しかった。少なくとも1.5倍拡大でもできれば少し楽なのに。


「どうしよう?爪くらい犠牲にしてあれを壊そうか?」


「センサーに捕捉されるな。戦車の後ろからミサイルを撃ち始めたら誘導されるよ。」


「おお。誘導ミサイル!面白い武器ぶきだね!」


 アベルは何か反論しようとして口を閉じた。顎を動かすと精度が落ちるから。呼吸はさっきから調整ちょうせいしていた。


「バン!」


 鮮明な銃声じゅうせいが響いた。徹甲てっこうを施した弾頭は十分に重く、ライフリングを通りながら回転かいてん力を得て時計回りに回転かいてんした。照準装置しょうじゅんそうち視野しやとは3.42cmの誤差を持って発射はっしゃされた弾丸だんがんは直線で17.22m飛んだ。


 空気の密度と湿度、温度おんどを考慮して調整ちょうせいされた軌道きどうは……


「カキーン!」


 直径2mmの穴に正確に命中した。戦車の超音波センサーが無力化された瞬間だった。これで近くの物体を探知する性能が落ち始めるだろう。特に戦車の下の部分に関しては。


「何だ、これ!故障?!」


 ギャングのボスは突然視野しやが制限されたのに驚きながら戦車を操作そうさして上の方に動かした。半ば崩れた建物を伝って上に登って、まず有栖 あらを振り落とそうとするのだ。


「有栖 あら。」


「ちょっと待って。この装甲板そうこうばんが剥がれそうだよ!この上に弾薬だんやく保管庫があるはずだよ!」


「いいから離れろ。」


「うーん……ここに爆弾ばくだん一発あれば終わるのに。」


爆弾ばくだんもないじゃないか。」


 正確には武器ぶき一つも持たせる前に、有栖 あらが屋上からそのまま飛び降りた。行くというなら斧でも一本貸してあげようとしていたのに。


「えい。外体がいたいさえあれば砲塔ほうとうを貫通できるのに。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。