1. アスフォデルのまともな一日 (6)
右にいた奴が腕を大きく回してストレッチをしながら聞いた。
「手も足も全部引き抜いていいよ。」
ボスは席から立ち上がらなかった。二人の体格があまりに大きくて並んで立つだけで通路が狭くなって見えた。
「悪い行動は!ダメですよ!」
「気をつけろよ。準軍用強化義体だ。少し古い世代だけど軍隊でも使用した記録がある。」
それだけ信頼性と威力は検証された義体だった。意外と人脈と資金力のあるギャングだったようだ。
「ふん!お金を払わない悪い子は許しませんよ!」
有栖 あらは右耳の近くにゲンコツを食らわせる準備をしながら近づいていた。
「へ……」
見ている者は苦笑いが出た。背丈もずっと小さい子が、幼稚園の先生みたいに子供を叱るといって近づいてくるから。
「そうだな。一発くらいはなんだ。効果がなければ勝手にひれ伏せ?」
「あらまあ。怖いですねえ。あまり痛くしないでくださいよ~。」
二人のやくざが馬鹿にしたが有栖 あらは最後まで態度が変わらなかった。
「先生の!愛の鞭だよ!」
「ドン」
少し中指が飛び出るように拳を握ったまま、右にいた敵の肩をちょいと叩いた。
「はははははは……あ?」
「テトン」
一拍遅れて肩が溶け落ちて腕が落ちた。そして当たった部分がぶくぶくと沸き立つように気泡が浮いた。
「うわわわわ!?」
「ふん!これからは悪い言葉と!悪い行動は!」
有栖 あらは左手でゲンコツを食らわせる準備をしながら近づいた。当然当たった奴は後ろに退いて避けようとしたが、有栖 あらが前に歩く方がずっと速かった。
「ドン」
「うわあああああ!?」
叩かれただけなのに肘が溶け落ちて義体が床に落ちた。
「気、気が狂った。何だ!?」
それでも残った敵は驚きながらも突進して有栖 あらを攻撃しようとした。人の頭より大きな拳を使って有栖 あらを打ち据えようとした。
「これ?先生の!愛の鞭!」
「ドン」
でもあまりに簡単に防がれた。有栖 あらの手が5倍は小さいのに、手を開いて拳を掴んだまま堪えていた。
「拳を振るう悪い子は!許しませんよ!」
「うわあああああ!」
有栖 あらが掴んでいた手が溶け落ちた。高温のオーブンやIHヒーターに乗せたように、宙で蛋白質の構造が溶け落ちた。そしてその後を追って義体の部品が落ちた。その義体の部品たちも高熱で加熱されて赤く焼けていた。
有栖 あらは少しの間作動させていた極超短波発生器モジュールを解除した。
「はあ。本当に使えるやつがいないな。」
これでボス一人だけ残った。しかし机の後ろからまだ立ち上がっていなかった。
「さあ、お月さま組の子。約束をしたなら守らないといけないよね?」
「……何?」
「与えると言ったものは渡して、約束をしたら守らないといけないの。そうすると良い子ですよ!」
「コンセプトがなあ……」
有栖 あらの言葉にボスはため息をついた。自分の手足のような団員たちが床で呻いているが一言も声をかけなかった。今それが重要なことではないから。
「まさかあの運送業者……誰だっけ?そいつのためにこうしているのか?」
「うん!渡すものがあれば渡さないと!」
アベルはこのくらいになれば受け取るお金はどうでも良かった。すでにお金に比べてちょっとやり過ぎた——完全にギャングの根を引っこ抜いてしまったのだから。もちろん一度こうすれば仕事の時にアベルのお金を踏み倒すことはないだろう。後のためにこうするのも念頭にはあった。
「はあ。いい。とりあえず下りてから話そう。」
「え?」
有栖 あらが首を傾けたのに、ギャングのボスは机の下のボタンをぐっと押した。
「ドーン!」
突然床が揺れてふっと沈む感じがした。有栖 あらは驚きながらもDNIを使って脚の筋力を強化した。このまま地下室まで落ちても大きな怪我がないように。
「もともとここに使うものではないんだけどな……」
ボスが落ちる場所には大きな鉄の塊があった。慣れてはいないがちゃんと着地してその鉄の塊の中に入った。有栖 あらは着地しながら体勢が崩れたが。
「だから4階が空っぽだったのか?」
そこに入るのがぎりぎりな大型の物体だった。有栖 あらはこれが何か分からなくてしばらく状況を確認した。いろいろな攻撃方法があるから、あれが何かを知らないと効果的に攻撃できないだろう。
「有栖 あら、戦争ロボットだ。できれば後退して。」
「え?」
「主力戦車ではなく悪路突破用に作られた6脚戦車だよ。120mm主砲と機関銃、近距離レーザーカッターが付いている。誘導ミサイルポッドは後ろ側に二つ。ソフトキル、ハードキルシステムもあるから生半可な砲撃も通じないと思う。五発くらいは防御できるだろう。」
アベルの言った通り6本の脚が地面を踏んで立っていた。短くはない砲身が下の方についていた。運転席より低い場所に取り付けられた砲塔はかなり素早く回転して有栖 あらを捕捉した。
「おい!有栖 あら!避けてくれって!」
これくらいならテストの話ではない。アベルが後退を勧めたのも戦略的な選択だ。今持っている武器では歯も立たないだろう。大型重機関銃や迫撃砲、対戦車武器でも持ってこない限り、戦車の装甲板を貫く方法はない。
「何よあんな程度で?」
しかし有栖 あらはため息をついて自分に向けて回転する砲塔を見た。あの砲のサイズなら当然、軍用の歪曲場で外れさせるのは通じないだろう。人型サイズに搭載する歪曲場は重量の限界が決まっているから。
「とりあえず狙撃で補佐するから、なんとか避けながら撃てないようにして!」
「え?あ、そうだ。」
有栖 あらは何か思い出したように目をぱちぱちとさせた。そして何かを言おうとした瞬間……
「ドドーン!」
戦車の主砲が火を噴いた。
「くそ!」
徹甲弾に弾倉を交換していたアベルは揺れる建物を掴んで悪態をついた。発射する時の反動だけでも周りの建物が揺れるほどだった。出力が尋常ではなかった。
「有栖 あら!」
建物の内部で爆発があったのだから、爆発の衝撃波だけで有栖 あらは重傷だろう。もし砲弾に直撃していたなら遺体も見つけるのが難しいかもしれない。
「本当に……なんでギャングがあんなものを持っているんだ!?」
もともとビーストヘッドというギャングは近接戦闘で有名なチンピラ集団だったのに。アベルも戦争兵器を持っているとは思っていなかった。急いで有栖 あらのDNI情報記録を受信してみたのだが……
「え?」
1分前のデータと大きな差がなかった。至って正常だということだ。暗号化された数字が一つ増えていたのが違いだった。
「え、アベル。私を少し助けて。私が素手であれを引っこ剥がしたら……」
有栖 あらは戦車の脚についている装甲板を剥がそうと努力していた。しかし掴む場所が適当ではなくてうまくいかなかった。
「生きているか!?怪我は!?」
「爪が全部欠けちゃうよ!」
「……」
アベルはあきれてため息をついた。とにかく有栖 あらは無事だった。直撃は避けて、破片と衝撃波を防ぐために歪曲場を使ったのだろう。
「でも静かになったね。生きているのかな?」
有栖 あらはひょっとしたらギャングのボスが衝撃波に気絶したのではないかと思って聞いた。本当にとんちんかんな話だが、たまに自分が発射した砲弾の爆風に衝撃を受ける場合もあるから。
戦車というのはもともと室内で使うものでもないし。
「ウィン……」
次の瞬間センサーと機関銃が忙しそうに動いた。有栖 あらを探そうとしているようだった。
「あははは!良かった!死んでないね!?」
有栖 あらはセンサーの赤外線と感知範囲をぎりぎりかすめながら戦車の捜索から外れた。いくつものセンサーが同時に動いているが、有栖 あらはその範囲を直接見て避けるように軽やかに動いて躱した。
アベルはため息をついて神経を集中した。銃口の向こうには半分壊れたギャングの建物があった。砲撃で建物の一部が吹き飛び、アベルも直接狙える状況になったのだ。
「くそ野郎ども!もう全部いらない!近くのギャングはこの戦車で全部なぎ払って!俺が全区域を取ってやるぞ!」
でなくても真夜中の砲撃で周りの住民たちはみんな起き出して避難の準備をしていた。そしてギャングのボスがスピーカーでそんなことを言っているのだから、街中が騒然としていた。おそらく少しすれば警察も来るだろう。様子を見るに特殊部隊が来そうだった。
「ふーん……」
そして不可能な話ではない。あれは戦争でも使用される軍用兵器だから。弾薬とパイロットが十分にあれば戦争の遂行も可能なスペックだ。
アベルは倍率のない光学装置を持ってきたのが惜しかった。少なくとも1.5倍拡大でもできれば少し楽なのに。
「どうしよう?爪くらい犠牲にしてあれを壊そうか?」
「センサーに捕捉されるな。戦車の後ろからミサイルを撃ち始めたら誘導されるよ。」
「おお。誘導ミサイル!面白い武器だね!」
アベルは何か反論しようとして口を閉じた。顎を動かすと精度が落ちるから。呼吸はさっきから調整していた。
「バン!」
鮮明な銃声が響いた。徹甲を施した弾頭は十分に重く、ライフリングを通りながら回転力を得て時計回りに回転した。照準装置の視野とは3.42cmの誤差を持って発射された弾丸は直線で17.22m飛んだ。
空気の密度と湿度、温度を考慮して調整された軌道は……
「カキーン!」
直径2mmの穴に正確に命中した。戦車の超音波センサーが無力化された瞬間だった。これで近くの物体を探知する性能が落ち始めるだろう。特に戦車の下の部分に関しては。
「何だ、これ!故障?!」
ギャングのボスは突然視野が制限されたのに驚きながら戦車を操作して上の方に動かした。半ば崩れた建物を伝って上に登って、まず有栖 あらを振り落とそうとするのだ。
「有栖 あら。」
「ちょっと待って。この装甲板が剥がれそうだよ!この上に弾薬保管庫があるはずだよ!」
「いいから離れろ。」
「うーん……ここに爆弾一発あれば終わるのに。」
「爆弾もないじゃないか。」
正確には武器一つも持たせる前に、有栖 あらが屋上からそのまま飛び降りた。行くというなら斧でも一本貸してあげようとしていたのに。
「えい。外体さえあれば砲塔を貫通できるのに。」




