1. アスフォデルのまともな一日 (7)
有栖 あらは文句を言いながら装甲板から離れた。
「ちょっとすごいな。」
外体なしでも十分な怪力なのか、装甲板の継ぎ目がぼろぼろになっていた。
「撃つ。」
「え?何を?」
有栖 あらが頭上にはてなマークを浮かべながらアベルがいる方を見た。しかしアベルは答えなかった。
「タタタタン!」
レーダー、ライダー、超音波、赤外線、紫外線、外部カメラのセンサーが一瞬で全部ぶっ壊れた。
「外部センサー無力化。残りは勝手にやれ。」
「おお。アベルすごい!」
遠くでサイレンが鳴る音がした。どんなに治安の空白地帯でも、これほどの騒ぎなら別の管轄からも来るから。アベルは銃を片付けながら屋上から撤収の準備をした。
「このくそ!どいつだ!」
当然、砲塔の中が一瞬で暗くなった。外部から何のセンサーの情報も入ってこない。視覚的に表示できるのは戦車の状態だけだった。火器管制の照準線と装弾数、武器の状態が表示されても——標的が見えないのだからできることは何もない。
「ウィン……」
結局ハッチを開けて肉眼で見ながら砲塔を操作することにした。なんとか頑張って建物の屋上まで登ってきたのだから、どんなに大した敵でも一気にここまで飛び上がってくるのは難し……
「こんにちは。」
有栖 あらが開くハッチの前で手を振っていた。
「ふーん……」
汗でびっしょり濡れたギャングのボスの頭を撫でてやった。全身に鳥肌が立つほど緊張したギャングのボスは、次の瞬間に自分の頭が吹き飛ばされないかと心配しながらガタガタと震えた。
「運送代金は払うよね?」
「はい……」
「謝罪もするよね?」
「はい……」
「下の階にあなたの部下たちがいるけど。怪我した人は?」
「治療、しないといけないです……」
「よし、よくできました。」
有栖 あらは明るく笑ってギャングのボスの頭をトントンと叩いてやった。
「さあ、それでも悪いことをしたんだから一発だけ食らおうか?」
「先、先生!先生!申し訳ありませんでした!助けてください!」
「ははははは!先生だって。さっきの幼稚園の先生ごっこがそんなに楽しかった?」
ボスの頭には先ほどゲンコツを食らわせられて腕と手が吹っ飛んだ光景がよぎった。当たったら死ぬ。たぶん揚げられるように、頭が溶け落ちて恐ろしく死ぬだろう。
「あらあら。悪いことをしたなら!罰を受けないといけないよ!」
有栖 あらは再び手を腰に当てて、片手でボスを指しながら断固として言った。本当に幼稚園の先生が子供を諭している動作だったから、遠くから見ていたアベルはくすっと笑った。
「先生!先生!見てください、今送りましたよ!謝罪メッセージも送りました!家に私だけを頼りにしている妻と息子がいます!」
「これはどういうことだろうね?結婚制度はなくなっているはずなんですけどね?」
ついさっきアベルから聞き知った内容を聞いた。一方では安心しながら。いくらそうだとしても結婚制度がなくなったなんて、有栖 あらはあまりそんな世の中で生きたくなかったから。
「……あ、その……うーん……実は普通の結婚ではないんですが……」
「わあ。私こういう話が好き!私たちのお月さま組の子はどうやって出会ったんですか?」
有栖 あらは叩くのも忘れたのか、砲塔の前にしゃがんで両手で顔を受けてボスに聞いた。
「結婚までしたのに子供と呼ばれるのはちょっとまずいんじゃないだろうか?」
アベルはため息をついて屋上から下りて車に向かった。あまりに遅くなりそうならば拳銃でボスを撃って有栖 あらに来るよう言わないといけないかもしれない。
「おい!それは愛じゃなくて誘拐!重犯罪!」
1階まで下りると有栖 あらが怒っていた。コンセプトも放り出したのか、有栖 あらが頭の上に手を真っ直ぐ伸ばして怒っていると知らせていて。
「いや、でも10年間家に閉じ込めておいたら今では情が移って飯も作ってくれるんですよ?!」
「とにかくそれはラブストーリーじゃなくて犯罪自白だよ!10年間捕まえておいて閉じ込めたから人間関係が全部断ち切れたってことじゃないか!」
「……それでも子供が妻に似てかわいいんですけどね。」
「まあ。あなたに似ていたら少し生きにくいか……」
「へへ。そうでしょ?これ家族写真を見てください。私に似ていなくて本当に良かったです……」
ボスは本当に胸の中から写真を取り出して有栖 あらに見せた。突然何をするのかと思ったが、有栖 あらが見ても確かにギャングの妻はかなりの美人だった。
「かわいいな……とにかくそのかわいい奥さんを見て一発だけ食らっておこう。」
「先、先生、先生。助けていただけませんか。今私が家に帰らなければ家族たちは……」
「それは誘拐って言ってるよ!」
有栖 あらは止まらなかった。中指が少し飛び出るように握った拳でゲンコツを食らわせた。
「……うん、奥さんが惜しいのは認める。でも、良い子は他人の大切な娘を閉じ込めないの。お椀一発食らって反省しなさい。」
「カチッ!」
「うわあああああああ!」
軽快な音が響いた。そしてボスはすぐ死ぬだろうと思ったのか、涙と鼻水を流して怖がっていた。
「ウィン……」
しかし有栖 あらは運転席の一部の電線を抜いて戦車の電源を切り、1階に飛び降りた。
そしてそれまで長い悲鳴を上げていたボスはまだ死んでいないことに首を傾けながら周りを見渡した。
「義体のおかげで死んだ人はいないと思う!部下たちをよく面倒みて!」
ギャングのボスをゲンコツで叩いただけの有栖 あらはそう言いながら手を振った。本当にさよならというように。
「人は変わらない。ああしておいても数週間で別の建物でギャングを作っているよ?」
有栖 あらを助手席に乗せたアベルが運転しながら言った。
「大丈夫だよ!」
有栖 あらが車の記憶装置に動画ファイルを一つアップロードした。
「何?」
「面白いやつ!」
アベルが何か言う前に、有栖 あらは再生ボタンを押した。ラジオの上の小さな端末に動画が再生された。
「先、先生!先生!申し訳ありませんでした!助けてください!」
「ははははは!先生だって。さっきの幼稚園の先生ごっこがそんなに楽しかった?」
ギャングのボスとのやり取りを録画していたのだ。有栖 あらの視点から見えるギャングのボスは本当に見違えるほど卑屈でやつれて見えた。
冷や汗をだらだら流して怖がっている様子まで全部撮れたのだから、どこでもギャングとして活動するのは難しいだろう。さらにゲンコツを食らわせる拳を怖がって悲鳴まで上げたのだから、ギャングはもちろんアスフォデルで生きるのも難しいだろう。
「そうだな。あれは無理だろう。」
「アベルは?お金ちゃんと受け取ったよね?」
「うん。依頼代金より多く送ってきたよ。」
具体的にはゼロが一つ増えていた。アベルは明るく笑いながら有栖 あらに携帯を見せた。
「ふふん。じゃあ私ももう食い扶持はあるよね?」
「そうだな。これからもよろしく。」
アベルはくすっと笑いながら頷いた。
「こちらこそよろしくね、家主さん!」
有栖 あらは戦場を遊び場だと思っているようだった。同年代の子たちと遊びをするように敵と戦う姿から確信できた。
だからアベルは心配になった。どんな人生を歩んできたとしても、生死が変わって銃刀が交差する環境を当たり前と思っているのだから。
「この先に何があるか分からないけど。それまでも。」
遠くで警察のサイレンの音が微かに聞こえていた。空を見ると低高度飛行船も何機か飛び上がったようだった。
「先に何があるかなんて関係ないよ!行く間が楽しければいいでしょ!」
有栖 あらの笑う顔を見てアベルも笑うことができた。すぐに有栖 あらは笑えなくなってしまったが。
「あ、鼻血が出る。」
「え?」
「うあん。ホルモン調整モジュールが入っていたんだ!」
「おい、それ……大丈夫なんだよな?」
「うん!チンピラを少し捕まえたくらいで体が傷むわけじゃないよ。戦闘状況が感知されたら自動で入るように設定してあったのを忘れてた!」
「はあ……」
それでも深刻な問題ではないのだから幸いだった。
「アベル……」
誰かが呼ぶ声にアベルは目を覚ました。光源といえば薄っすらと差し込む月明かりとモニターの明かりだけだった。誰がどこから呼んだか分からなくて周りを見渡した。すると突然太腿に何か薄いものが触れる感触が……
「うわわわわ!」
太腿の上をすうっと、奇妙に冷たくて薄い糸のような質感がかすめた。人間の髪の毛だった。
瞬間アベルは理性ではなく脊髄反射で飛び上がった。椅子が吹っ飛び、机を猫のように飛び越えた。引き出しの中の拳銃などはとっくに頭から消えていた。寝起きでひどく歪んだ声で叫びながら鉄柱の後ろに体をつけた時、アベルの心臓は過負荷のかかったモーターのように激しく動悸を打っていた。
あまりに驚いて机の引き出しに置いていた拳銃さえ忘れて、柱に背をつけたまま室内を探った。
「だ、誰だ!」
寝起きでひどく錆びついた声はかなり歪んでいた。
「う~……急に起き上がったらどうするんだ。」
鼻声がした。起き上がりながら鼻をぶつけたようだ。
「有栖 あら?」
「後ろから抱きしめて起こしてあげようとしたのに……」
どこにいるか分からないが有栖 あらが文句を言う声が聞こえた。それだけでも少し安心する状況だったから、アベルは深呼吸をしながら冷静に状況を把握しようとした。
「うう。脚が動かないんだもの。抱っこして。」
目が暗闇に慣れてくると有栖 あらが床に膝立ちでアベルに手を伸ばしているのが見えた。寝起きに周りを見渡しても見えなかったのは有栖 あらが低い姿勢でいたからだったようだ。
「普通に呼べばいいじゃないか……」
アベルは頭を抱えてため息をついた。有栖 あらは両手で鼻を抑えて鼻声を出していた。
「怒った?ただ隣にいなかったから……」
アベルは今日中に有栖 あらの左腕の義体の分析を終わらせておきたくて、少し無理をしていたら1階の机の椅子で眠ってしまっていた。有栖 あらは当然2階にある部屋で寝ていたし。一人で大きなベッドで寝ているのは居心地が悪くてアベルが心配になって下りてきたようだった。
「いや。少し驚いただけだよ。ここに作業場を構えてから誰かが私を起こすことがなかったから。」
「うう。抱っこして。痛い。」
アベルは意気消沈した有栖 あらを抱きかかえて持ち上げた。そして暗い作業場をゆっくりと歩いて2階に上がった。
有栖 あらはアベルの肩に腕を回して感触を楽しんだ。脚がちゃんと動かないのも本当ではあるが、アベルに抱かれているのが好きでよく抱かれていたかった。
「トイレは行かなくていいの?」
「うん。大丈夫。」
有栖 あらは答えるためにアベルの耳にぴったりと口を近づけて囁くように言った。アベルはこんな時に毎回誘っているのかという気になったが、とりあえず今はベッドに移すのが先だったので気にしないことにした。
「着いたから下ろすよ?」
「うん!」
アベルは慣れたように有栖 あらをベッドに下ろした。本当にシンプルなワンピース一枚を着た有栖 あらはベッドに手足を伸ばして横になりながら伸びをした。
「アベルもここに寝てよ!」




