2. ガラクタ機械(きかい)の存在価値(そんざいかち) (2)
ガラクタ機械の存在価値 (2)
「4階に伝える。エレベーターを基準に東側に爆薬を置いた。全員爆発に注意。繰り返す。全員爆発に注意」
5階の人員はエレベーターの壁の後ろに隠れてチームリーダーを見つめた。
チームリーダーは悲鳴しか聞こえない無線機を見てため息をつく。
導爆線を長く伸ばし、壁の後ろから発破装置に接続した。
「爆破する」
小さく言ってから、発破装置を強く握って爆破した。
〔どかん!〕
「あ、くそっ!」
もはやただの勘や感覚ではなかった。
本当に一瞬、建物全体がぐらついた。
倒れないよう、床に伏せなければならないほどだった。
そして、建物がぐらついた合間に銃声が止む。
無線機の向こうが静まり返った。
「……全員無事か?」
「はい」
「降りる」
チームリーダーは少し傾いた床を慎重に踏みしめる。
大きな穴の向こうで4階を警戒した。
粉塵はすぐに落ち着き、大した障害にはならなかった。
「うっ……」
「くそ……」
特殊部隊として、これまで凄惨な現場をよく見てきた。
だが、人間の体からこれほど大量の血液が出るものなのか。
そう不思議に思えるほどだった。
確かに4階は、工事が仕上がっていない打ち放しコンクリート。
セメントでできた灰白色の壁だったはずだ。
——なぜなら今、あたり一面が真っ赤に変わっていたからだ。
'……こういうことを楽しんでいるようだな。'
チームリーダーは隊員たちの遺体を見て眉をひそめた。
心の中でそう思った。
すべての隊員の体から腕と脚が消えている。
まばらに頭部が残った遺体。
腕と脚を先に切り落としたのだ。
表情と悲鳴を楽しんでから絶命させたのだろう。
わずか1分もかからない時間。
これほど効率的に人間を解体したのだ。
主な攻撃は近接攻撃だった。
'銃が一刀で切られている。'
どれほど凄まじい武器を使っているのか。
軍用小銃が一度に切られ、断面をさらしていた。
切断面はまだ熱い。
高熱を使った近接武器のようだった。
〔たん! たたたん!〕
〔3階、3階支援! 撃て! 撃てって!〕
「やたら速いな。全員降りる。心の準備をしっかり」
上から下を見ていたチームリーダー。
3階で交戦が始まると、4階に降りた。
——少なくとも、4階には敵がいないはずだからだ。
〔かちゃっ〕
義体が落下の衝撃を効果的に吸収した。
膝にわずかにしびれるような感覚。
だが、この程度なら耐えられた。
「うえっ!」
結局、新米の一人が耐えられなかった。
目出し帽の中で嘔吐した。
近くにいた副チームリーダーが何も言わずに素早く近寄る。
ヘルメットとヘッドセットを外し、目出し帽を緩めてやった。
さっき出動のとき、同じ車に乗って投入された仲間。
彼らが、ここで死体という「物」になっていたのだ。
気分が愉快で良い人など、誰もいないだろう。
「ちっ。外部階段から行く! 走れ!」
敵を捕まえるため。
隊員たちの精神のため。
今、ここに残っていて良いことはなかった。
チームリーダーは指示を飛ばし、先頭を走る。
そして無線機のボタンを押した。
「3階。敵の情報を伝えろ。近接武器以外の特記事項はあるか?」
【銃が効かない! 突入2組もみんなやられた!】
「他に情報は?!」
〔うわあああ!〕
それ以降は無線機の向こうから悲鳴と銃声しか聞こえなかった。
外部階段が見えると、チームリーダーはひどく悩んだ。
3階へ向かうのではない。
外部階段をそのまま降りて撤収する。
その方がずっとましではないかと思えたのだ。
'勝手に撤収したら脱走で死ぬな。'
退職時に回収すべき義体とシステム。
それを持ったまま脱走だと見なされるだろう。
即座に武装脱走となり、射殺命令が下る。
——義体の回収は、重大事項だからだ。
「よく聞け。チームを分ける! 敵は近接攻撃が主のようだから、Aチームが伏せて射撃している間にBチームは四方警戒をしろ。そしてAチームが装填している間にBチームが射撃する。弾幕を張って制圧するんだ。わかったか?」
「チームを分ける基準は?!」
「5階を捜索した人員のまま」
外部通路に急造した階段は本当に粗末だった。
だが、全員が降りるまではもってくれた。
外部階段から内部へ入る通路は塞がれていた。
そのためチームリーダーが義体でドアを破り、中に突入した。
消えた廊下の向こうで、赤い点がゆらめいていた。
特殊部隊の一人を、ちょうど解体していたその光。
それが、こちらを見た。
その赤い点が、眼光だということが確認された。
「敵確認。撃て!」
チームリーダーは単発で切り、敵に有効打を入れようとした。
しかし、空気を焦がして飛んでいく弾丸の軌跡。
それが敵の前で大きくたわむ。
そのまま上や横へ逸れていった。
「歪曲場確認! Bチーム!」
他の隊員たちがすでに全員撃ったことを確認する。
その瞬間、後ろへ一歩下がった。
そしてBチームを呼んだ。
〔たたたたたたたた!〕
重火器を持ったBチーム。
彼らはベルト式軽機関銃を使い、弾幕を形成した。
7.62mm弾が降り注ぐ。
瞬く間に周辺をボロボロにした。
'軍用歪曲場?!'
問題は、弾丸が目標に向かっていないことだ。
周辺だけを射撃してしまった。
瞬く間に、壁だった場所に穴が開く。
レンガと一緒に、粉塵を舞い散らした。
「Aチーム!」
歪曲場を展開した対象は、ただ歩いてくるだけだ。
普通の隠蔽場なら、弾丸を偏向させるほど電力消費が激しい。
長時間の使用は不可能なはずだった。
なのに、あれはどうなっているのか。
すべての弾丸を完璧に防ぎながら近づいてきていた。
敵が近づくほど、隊員たちの動揺も大きくなった。
敵の周辺で壁と構造物が破壊され、建物がさらに傾いていた。
——射撃に集中する中でも、低速エレベーターに乗ったように体が下へ引きずられる感覚があるほどだったからだ。
「Aチーム! 近接武器を出せ!」
Bチームが射撃している間にチームリーダーがそう言った。
近接武器といっても大型ハンマー、短剣や棍棒程度だった。
だが、すでに銃が効かないとわかっている。
これ以上、使い続ける理由はなかった。
「う……うわあああ!」
Aチームの一人が後ろで開いた扉へ向かう。
そのまま、非常階段の下へ飛び降りた。
義体があるから生きてはいるだろう。
だが、その後は地獄だろう。
「攻撃準備!」
それはBチームが再装填するという合図だった。
だが、チームリーダーは前で片膝をついていた副チームリーダーの肩を一度掴む。
そして自ら前へ歩み出た。
「みんな近接武器準備して!」
「チームリーダー! 何をするんですか!」
チームリーダーの手には、信管が装着された爆薬が握られていた。
赤い目を持つ人物はゆっくり近づいてきていた。
しかし、射撃が止まると走り出す。
赤い髪に白い腕と脚。
この凄惨な惨状の中でも、何の損傷もないジーンズとシャツ。
それはあまりにも、現実感がなかった。
「敵を倒さないと!」
すでに頭の中から、制圧しなければという考えは消えていた。
企業に返さなければという思考もなかった。
プラスチック爆弾なのだ。
爆発範囲に入れれば十分なはずだ。
——銃弾とはそもそも桁が違う破壊力なのだから!
〔ぴっ!〕
時限式信管は地に着くと同時に警告音を一声出した。
〔————〕
最も近くにいたチームリーダーの耳から血が流れた。
力いっぱい投げたはずだった。
だが、ぎりぎり影響圏に入ってしまったようだ。
【あいた。チームリーダー、少し気をつけてください。命が余分にあるんですか?!】
副チームリーダーが、チームリーダーのDNIに聴覚共有をかけた。
そうして失われた聴力を補ってくれた。
タイムラグが少しあるだろう。
だが、ないよりはましだろう。
「ああ、ありがとう」
自分の声が耳で聞こえない。
あまり良い経験ではなかったが、仕方がなかった。
チームリーダーは傍らで支えてくれる隊員たちの助けを借りる。
そして非常扉の前へと後退した。
「あの程度なら当然ぐちゃぐちゃになったよな?」
【当然ですよ。】
DNIを通じて、聴覚情報が一拍遅れて届いた。
鼻と耳から血が流れていたが、チームリーダーはわずかに笑ってみせた。
あの威力だ。
死んでいった他の隊員たちの仇ぐらいには、なったのではないかと思えたから。
あとは粉塵が落ち着くのを待つ。
残骸でも拾い集め、企業に渡すのが最善だろう……。
〔かちゃん〕
アンドロイド特有の脚部駆動音が鳴り響いた。
「……まさか」
9mm拳銃弾の衝撃量が高くても650J程度だ。
そしてプラスチック爆薬の衝撃量はMJ単位だ。
1.6MJだけでも1,600,000Jになる。
銃弾を防ぐ程度では、到底爆薬の衝撃量には耐えられないはずだ。
——これが常識のはずなのに……。
〔かちゃっ〕
チームリーダーの前に現れたのは、ジーンズとシャツを着た人物。
完全な無傷の姿だった。
目に赤い光さえなければ、ロボットだとは気づきにくかっただろう。
「くそ、こんな……」
アンドロイドの右手に握られた刃。
それがオレンジ色に加熱された。
それが特殊部隊チームリーダーが見た最後の光景だった。




