2. ガラクタ機械(きかい)の存在価値(そんざいかち) (1)
ガラクタ機械の存在価値 (1)
0.
「はあ……でも、ちくしょう、一応俺たちは警察なのに、企業が自分のロボットをなくしたから探してくれって言えば、本当に探してやらないといけないのか?」
暗い建物の中で響く声。
小銃の先には懐中電灯。
ヘルメットには暗視鏡が装着されていた。
補給が足りずテープで貼り付けられた懐中電灯。
——だが、民間の水準からすれば、それでも相当な武装だった。
「それでも大企業じゃないか。見つけてやれば、支援をたくさんしてくれるって……」
「くそっ、いいから装備をよこせって言うんですよ。市は毎年予算を増やしたって言うのに、なんで俺たちの装備はどんどんしょぼくなっていくんですか?」
チームリーダーは隊員たちをなだめようとした。
——結局、失敗に終わったが。
こんな環境での捜索作戦。
チームリーダー自身も正気の沙汰ではないと思っていた。
そのため、積極的に止める気になれなかったのだ。
「おい、こっちへ来すぎるな。建物が傾く」
右側の壁に沿って廊下を注視する隊員。
彼は左に一歩退き、注意を促した。
現在、警察たちはある建物を捜索していた。
所有権問題と建設会社の倒産によって放置された建物。
放置されてからすでに10年以上が経つ。
近くに大きな地下施設が隣接しており、老朽化が加速していた。
——さらに、施工当初から材料の配合に問題があった。
鉄筋の欠落と構造変更が六度にわたって行われた末路。
設計上の欠陥は深刻だった。
終電が近い時間帯で、地下鉄の間隔は開いていた。
それでも地下鉄が通過するたび、建物の壁が揺れる。
今すぐ崩れ落ちても不思議ではない状態だった。
'本当にいつ崩れてもおかしくない。'
こんな場所に、特殊部隊一小隊20名が投入されたのだ。
万が一の崩落危険を考慮。
手榴弾を含む全ての投擲装備と爆薬。
それらを公式に封印した上での突入だった。
'そう。「公式」には……ということだが。'
チームリーダーはため息をつく。
ロボットがどんな行動をとるかさえ不明だ。
——それなのに、作戦開始から装備を制限されている。
この状況が、彼は気に入らなかった。
【外部監視チームより通報。地上5階で動き感知。】
「はあ……」
「ちくしょう……」
外部観測チームからの情報。
今度は隊員だけでなく、チームリーダーまで悪態をついた。
1階から2階へ上がる階段はほぼ崩壊していた。
梯子を使って上がらなければならない状況。
そして、3階へ上がる階段は完全に埋没していた。
木板と廃材を外部非常階段に積み上げる。
階段状にし、命がけでチームを率いて上ってきたのだ。
4階への道も、上から垂らしたロープを使った命がけの登攀。
——だというのに、今度は5階である。
全ての階段が途切れた状態で、さらに上を目指さなければならない。
任務を最優先するチームリーダー。
それでも、これはやりすぎだと思わずにはいられなかった。
'ここにいるのが確実ならミサイルでも撃ち込めと……'
それを口から出さなかったのは、チームリーダーとしての最後の使命感だった。
「全員、4名単位のスクワッドに分かれて上へ上がる方法を探す。通信体制を確認して散開するように。安全地帯を確保しながら上へ上がる方法も合わせて探す」
捜索対象に飛行能力はない。
ならば、5階にいる以上は上れる方法があるはずだ。
——まだ見つけていないだけで。
散開は非常に迅速だった。
4名ずつに分かれた人員。
足音を消し、注意深く廊下を捜索する。
2名は廊下で待機。
残り2名が部屋に入って捜索し、また廊下へ出る。
非常に機械的、かつ効率的な動き。
彼らは次々(つぎつぎ)と4階の部屋を捜索していった。
【1階より通報。2次進入組、進入中。】
捜索組の追加。
すでに捜索が完了した安全な場所でも、危険が潜む可能性があるためだ。
通常の手順であれば、何の問題もないはずだが——。
「1次進入組チームリーダーより通報。この建物は不安定だ。進入を中断すること。繰り返す。進入中断!」
【上からは突入して早く終わらせるよう指示が……】
「2階まで上がっただけでわかるだろう。建物の一側に固まって動いたら、建物が傾くほどだって!」
【わ、わかった。上部に連絡して再確認してみる。】
「くそっ、何が確認だ! お前たちも階段に足でも踏み入れてみろ。目標対象じゃなくてお前たちをまず始末してやるからな!」
結局、チームリーダーは盛大に悪態をついた。
——記録が残る公式の無線で。
背後にいる隊員のため息まで、すべて記録されてしまった。
「隊員に伝える。5階へ上がる道は見つかったか?」
5階の北側区域をくまなく調べた。
しかし、上へ上がる道はまったく見つからない。
無線で尋ねてみたものの、無線機は静まり返ったままだった。
「ああ、もういい。全員、中央エレベーター前に集合」
顔に被った目出し帽。
吐息で湿気を帯び、非常に不快だった。
ぶら下がる無線機は重心のせいで痛みを伴う。
防弾チョッキと服はサイズが合わず、あちこちが擦れた。
床を踏むたび、過剰に響き渡る音。
ときおりぐっとたわむ建物。
もはや、ここは歩き回って良い場所ではなかった。
明らかに2階より、現在の4階の方が不安定だ。
もし最上階の12階に足を踏み入れたら——。
即座に崩れ落ちる危険性すらあった。
隊員を散開させているからこそ、均衡が保たれているのだ。
2階の時のように全員が固まって動いていたら。
本当に傾いて、建物が倒壊していただろう。
「申し訳ありません、チームリーダー。上がる方法が見つかりません」
渋面を作る隊員たち。
彼らはため息とともに報告した。
チームリーダーも一緒に眉をひそめる。
そして、隊員の背後にあるエレベーターを見つめた。
「……エレベーターを開けてみろ。全員、エレベーターを背にして四方警戒を徹底するように」
「エレベーターを……?」
隊員の一人が呆然と見つめる。
しかし、チームリーダーは命令を変えなかった。
エレベーターを半円形に囲む隊員たち。
そのうち二人が張り付き、扉を左右に開いた。
「ビンゴだが……ちっとも嬉しくないな」
エレベーターの箱。
それは3階より少し高い位置で、床のように止まっていた。
内側には、点検用の梯子が置かれている。
「ふう……上に閉まったままのエレベーター扉が多い。とりあえず中に4名入って上を警戒しろ」
チームリーダーは小銃を背に回す。
指示を出しながら、自ら梯子を掴んだ。
梯子は全体的に古びている。
——だが、いくつかの場所は手が触れ、埃が払われていた。
誰かがここを通り、上へ移動した痕跡だった。
'ずっと上へ向かっている……これはまずい。'
安全地帯の確保は続いている。
そこは不幸中の幸いだった。
しかし、上へ行くほど重心から遠ざかる構造だ。
建物の崩壊リスクは、さらに高まるだろう。
【1次進入組に伝える。上部から迅速な進入および掃討を指示された。まもなく進入2組、3組が追加投入される予定だ。】
「おい、このまぬけどもが! 今4階まで来ただけで建物が揺れてるのに……」
【私、部署長が直接命令を下した。それと通信の礼儀をわきまえるように。以上。】
隊員たちの悪態。
声を揃えるように、各自がひとことずつ吐き捨てた。
エレベーターと階段が隣接した構造。
そのため、この周辺は少し揺れが少ないだろうが——。
「……もういい。さっさと捕まえて家に帰ろう」
結局、チームリーダーは歯を食いしばる。
エレベーターの手すりをよじ登り、5階に到着した。
そして隊員一人と力を合わせる。
強引にエレベーターの扉を開いた。
「廊下確認」
「右側異常なし」
廊下の警戒を続ける。
その間に、ゆっくりと隊員たちが上ってき始めた。
〔がたん……〕
「え?」
半数ほどが上りきった頃だった。
突如、エレベーターが轟音を立てる。
そして、激しく揺れ始めたのだ。
「今すぐ廊下に戻れ!」
チームリーダーの叫び。
我に返った隊員たちが、慌てて廊下へ退避する。
最後の一人が4階に戻った瞬間。
——エレベーターは、あっけなく落下した。
「4階の人員は最大限安全に捜索しながら5階へ上がる方法を探すように」
【了解です。】
一瞬にして、人員は8名に減ってしまった。
しかし、チームリーダーはさほど焦らなかった。
8名でも分隊単位の捜索は可能だ。
各員の訓練状態と装備水準はほぼ同一。
人数の減少を除けば、戦力に大きな変化はない。
「5階の人員は4名単位のスクワッドに分かれて捜索する。4階は上がれる方法が見つかり次第すぐに報告するように」
チームリーダーはそう指示を下す。
直後、建物の北側区域を探索し始めた。
もう一方のスクワッドは西側へ向かわせる。
【外部監視チームより通報。7階で動き感知。】
「……だんだん罠に嵌まっていくような気がするのは、気のせいですか?」
チームリーダーを除けば最も先任である副チームリーダーが、愚痴をこぼすように言った。
「どうしろというんだ。今撤収すると言ったって、上が許可すると思うか?」
当然、許可などするはずがない。
『辞表を出してから撤収しろ』と言いやがるだろう。
脱走だとして、罪を問うてくるに違いない。
それをみんな分かっている。
だからこそ、深い深いため息をつくだけだった。
「おい、2階! 建物が揺れるぞ! 固まって歩くな!」
2組、3組の同時突入。
計40名が大規模に投入された計算になる。
こんな状況で、建物の一側に40名の体重が集中する。
その結果、5階は本当に傾くほどになった。
埃や雑多な破片。
それらが、傾いた方向へ転がり始めた。
【あ、うん。で、では3名に分かれて捜索を……】
'40割る3は1余るとわかっていないのか……?'
チームリーダーを襲う、込み上げる頭痛。
彼は耐えきれず、こめかみに左手を当ててぐいぐいと押した。
ここは、配属後3か月の生存率が60%を下回る職場だ。
そのため、人員を少しでも集めようとする。
結果、履歴書さえ出せば誰でも採用する場所になってしまった。
統率や指導を行う人材。
彼らは別途、士官学校を通じて選抜・配置される。
——だが、各隊員の資質が低すぎる。
もはや、指示すら理解できないレベルにまで落ち込んでいた。
その欠陥を補うための措置。
大規模な設備と資材を投じた義体施術だ。
脳の機能の一部まで担うDNI。
大規模な機能と演算量を備えたそれを挿入した。
おかげで、戦闘力と火力は飛躍的に向上。
民間と官僚社会の上層部は、皆これに満足した。
この状況は、上の視点から見ればこう映る。
『不満がある奴は首にして義体を回収する』
『それを次の人間に付ければ、なんとか回る場所』だと。
結局、現場で指示する第一線の人員は消耗品だ。
かろうじて戦闘力は上がった。
——だが、DNIがいくら優秀でも限界がある。
創意工夫や現場経験を積ませてくれるわけではないのだ。
「北側捜索完了。西側は?」
【完了しました。南側へ行きますか?】
「そうだ。こっちは東側へ……」
〔たたたたたん!〕
〔うわあああ! チームリーダー! 4階で攻撃を受けています!〕
無線機の向こうから響く悲鳴。
静かな夜を引き裂くような銃声が轟いた。
「全員、徹底して遮蔽し、訓練通りに敵と交戦する! 5階はエレベーター前に集結!」
敵の武装、防御能力、機動性や特記事項。
それらをまとめて報告しなければならない。
訓練も確かに行っていたはずだった。
——だが、4階にいる12名は誰一人報告できなかった。
チームリーダーも、最初から期待などしていない。
残った人員が、敵の詳細を的確に伝えてくれることなど。
「集合しました。どうしますか?」
西側を探索していたチーム。
彼らは急いでチームリーダーの元へ走ってきて尋ねた。
目出し帽の中で眉をひそめるチームリーダー。
彼は、背後にある六面体を取り出した。
「え? それは爆薬……」
「こっそり用意しておいた。こういう事態に備えて」




