第1話・一般教養では「お茶」の作法も学びます~孤児たちの職業訓練を兼ね~
「さて、それではマナーの授業に移りましょう」
「……はい。お願いします……」
晩夏というよりは初秋の香りが強く漂う季節。
歴史に関する一般常識の授業を進めていた教師役の女性神官が教科書となる古書を閉じて、穏やかに微笑めば、緊張感を漂わせながらも、どこかホッとしたように生徒である子供・アインが頷く。
この女性の神官は、魔法が使える呪師ではない。
普段は、神殿孤児院の子供たちに対して一般家庭で子供たちが学ぶような常識やルール、マナーなどの指導を行っている。
年齢はそろそろ六十歳に届くところ。
少し白いものが混じり始めた黄褐色の髪は癖があるため、肩の辺りで切りそろえていて、今もベールをかぶっている。
緑色の眼差しは穏やかに、手早くお茶を入れて、自分とアインの前に置く。
「今日のお茶は、孤児院の子供たちが採取の手伝いをした清氷草の香茶です……少し、癖がありますので、 黒ルヴスのコンポートを入れた方がいいでしょう」
「……はい……」
続けて、小さな蓋つきの器を並べた神官にちょっと首を傾げたアインは、告げられた言葉に神妙に頷いた。
まずは、食前の祈りを神に捧げ、続いて緊張気味にそっと、小さな手を伸ばす。
音を立てないように気を付けて蓋を外すと、添えられていたスプーンでちょっとだけ取って、ゆっくりとお茶のカップに入れた。
「……それから、こちらは同じく孤児院の子供たちが手伝いで作った焼き菓子です……子供たちが将来職に就くためのお勉強で焼いたものですから、率直な感想を教えて下さい……子供たちのためになります」
「……ぇ……は、はい……」
スプーンを置いたところで、神官が皿にいくつか並べた焼き菓子をテーブルに置く。
言われてアインはちょっと目を見張り、一気に緊張して頷いた。
(……本当は、ただゆっくりと、休憩を取って、おやつの時間を楽しませてあげたいのですけれどもね……)
内心でそっと溜め息を吐く神官の様子を気にしながら、アインは慎重に焼き菓子を一枚、手元の皿に移して割る。
「「………………」」
女性神官も、アインの向かいに腰を下ろして、同じようにお茶にはコンポートを、手元の皿に焼き菓子を一枚移す。
そうして、二人はゆっくりと焼き菓子を口にし、カップを傾けて、しばし授業という名の休憩を取った。
第1話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、アインと女性神官による「マナーの授業」という名のおやつタイムです。
アインに余計な罪悪感を持たせないよう、「お勉強」という名目で優しく包み込んでお茶を差し出す女性神官。
しかし、その優しさがアインの生真面目さに火をつけてしまい、なんとも言えない緊迫したティータイムが幕を開けます。
この「優しきお茶の時間」がもたらす愛おしいすれ違いが、今後の物語のどんな展開へと繋がっていくのか?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




